『下町ロケット』 [池井戸潤]
内容紹介今度の長旅に向けて、わざわざ書店で購入した1冊は、最近僕がハマっている池井戸潤の近刊である。面白いという評判で持ちきりであり、こういう小説は旅先で読み切って現地の日本人の知り合いのところに置いてくるというのが僕のお約束だ。以前から購入して積読しておいた本は殆どがマーカーを入れて半永久的に僕の手元に置いておきたいもので、たとえ出張などに持ってきても、結局は家に持って帰ることになる。しかし、普段買わない小説の場合はそうではない。最初から現地に置いてくるつもりで出発直前に購入するのだ。
「その特許がなければロケットは飛ばない――。大田区の町工場が取得した最先端特許をめぐる、中小企業vs大企業の熱い戦い!かつて研究者としてロケット開発に携わっていた佃航平は、打ち上げ失敗の責任を取って研究者の道を辞し、いまは親の跡を継いで従業員200人の小さな会社、佃製作所を経営していた。
下請けいじめ、資金繰り難――。ご多分に洩れず中小企業の悲哀を味わいつつも、日々奮闘している佃のもとに、ある日一通の訴状が届く。相手は、容赦無い法廷戦略を駆使し、ライバル企業を叩き潰すことで知られるナカシマ工業だ。否応なく法廷闘争に巻き込まれる佃製作所は、社会的信用を失い、会社存亡に危機に立たされる。
そんな中、佃製作所が取得した特許技術が、日本を代表する大企業、帝国重工に大きな衝撃を与えていた――。会社は小さくても技術は負けない――。モノ作りに情熱を燃やし続ける男たちの矜恃と卑劣な企業戦略の息詰まるガチンコ勝負。さらに日本を代表する大企業との特許技術(知財)を巡る駆け引きの中で、佃が見出したものは――?
夢と現実。社員と家族。かつてロケットエンジンに夢を馳せた佃の、そして男たちの意地とプライドを賭した戦いがここにある。」
しかも、単行本だからかさばるため、現地入りしたらまず最初に手放すことを考える。だから、東京の自宅を出る前から読み始め、そして目的地の空港に着くまでには読み終わっている。ホテルに泊まって、翌日にはもう誰かに「お土産」といって手渡す。面白くてお勧めだと言って…。
池井戸作品はこれで3作目となるが、どの作品もいいです。元銀行員なのに相変わらず銀行員の描き方が辛辣で、そこまでひどいのかと首をかしげたくなるところはあるものの、池井戸作品の面白さというのは、作品毎に異なる業界を舞台にしていて、しかもその業界の事情に精通していることから来ていると思う。今回の作品で取り上げているのはロケットエンジン。しかも、それに町工場と大手企業とのバトルを絡めていて、読んでいて、大手企業による嫌がらせに耐えて技術力に磨きをかける町工場の矜持をうまく描いている。読んでいて痛快な気持ちにさせられるし、組織の歯車と化してしまう大手企業でのサラリーマンとしてのキャリアのあり方に一石を投じているようにも思う。
こうして僕は訪問先に置いてくることにしているものの、モノづくりの面白さ、日本人の良さを学ぶためにも子供たちにも読んで欲しいと思うのである。ガンダムが普通に宇宙空間で戦うのにもジェット推進エンジンは絶対不可欠な要素だが、それ1つ作り上げるのにこれだけのドラマがあるのだということを、この小説から学んでほしいと期待する。いや、うちの子供たちに限らず、中学校の図書館に入れて、多くの将来ある中学生の方々に読んでいただけたらと思う。
ただ敢えてケチをつけるとするならば、従業員200人も抱えるのを中小企業とは言いにくいのではないかという点。「組織の歯車」を否定している割に、この佃製作所の社員は一部の管理職クラスしか物語には登場しないから、描かれている登場人物のに背後にいるその他大勢の社員という「歯車」に思いをはせてしまう。
テンポが非常に良いので、成田空港で出発便に登場する前に全部読み切ってしまった。ますます池井戸潤にハマっていくような気がしている。
【2011年7月15日追記】
池井戸潤さんの直木賞受賞が発表された。おめでとうございます。受賞作品を受賞が決まる以前に読んでいたというケースは今回が初めてで、その意味でもとても嬉しい。今後の作品も楽しみにしたいと思う。
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