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開発・民主主義・福祉国家 [読書日記]

*この記事は、実際には12日(日)に原稿を書き、予約投稿機能を使って14日(火)に掲載したものです。掲載時刻に実際にPCに向かっていたわけじゃありません。

Development, Democracy, and Welfare States: Latin America, East Asia, and Eastern Europe

Development, Democracy, and Welfare States: Latin America, East Asia, and Eastern Europe

  • 作者: Stephan Haggard, Robert R. Kaufman
  • 出版社/メーカー: Princeton Univ Pr
  • 発売日: 2008/08/25
  • メディア: ペーパーバック
内容説明
ラテンアメリカ、東アジア、東欧の福祉国家像を比較した初めての本。著者はこれら3地域の社会政策の歴史を20世紀半ばの重大な政治変化にまで遡って考察し、そうした初期の政策選択が民主化やグローバル化を経てて福祉改革にどのように影響を与えているのかを示す。第二次世界大戦後、東欧の共産主義国では広範にわたる社会主義的権原付与政策がとられたが、東アジアでは保守的な独裁体制が社会保障に厳し制約を課し、その一方で教育への投資を行なった。ラテンアメリカでは福祉制度は以前から存在していたが、不平等な社会保障制度は正規部門の労働者や中産階級を優遇するものだった。著者はこうした各地域が民主化やよりオープンな経済に向けた動きを踏まえて歩んできた異なる福祉政策・制度の経路を比較している。こうした推移は現存する福祉制度を改革せよとの圧力を生んだが、経済パフォーマンスと過去の福祉政策の遺物はより深い影響を及ぼしている。著者によれば、ラテンアメリカの排他的な福祉制度と経済危機がよりリベラルな社会政策改革の採用を促すインセンティブを提供したが、一方で、東欧の新興民主主義国家では共産主義体制時代の社会権原がリベラルな改革の範囲を狭めた。東アジアでは、高い経済成長と自由度の高い財政状況が新しい民主主義国家において広い範囲の社会権原を付与できる機会をもたらした。本書は、民主化やグローバル化の現代にもたらす影響をより広い歴史的な文脈から捉えることの重要性を強調している。
職場の自主勉強会で、本書の序章と結論部分を読む機会があった。僕が報告したわけではないが、僕も週末にちゃんと読み込んで勉強会には参加していたので、「読書日記」として挙げておきたいと思う。

「なぜ政府は社会保障の提供を始めたのか?」、「どのように福祉システムは進化してきたのか?」、「手当はどのように配分されているのか?」―――本書によると、社会政策の比較研究は欧州では盛んに行なわれてきたが、途上国や旧社会主義国の民主化や市場改革、経済危機を経て、これを中所得国や旧社会主義国にも適用して比較分析することが近年注目されるようになってきたという。

なお、本書で取り上げている「社会政策」とは、①リスク緩和を図る保険スキーム(年金、健康保険等)と、②基本的社会サービス(生活保護、教育、保健)の組み合わせから成る。

本書で取り上げられている3つの地域の戦後から1980年代までの福祉モデルを見てみよう。

【ラ米】ほとんどの国が職業ベースの社会保険と保険システムを提供。対象は正規部門の労働者で、非正規部門の労働者や農民は排除されていた。基本的社会サービスも、分配における不平等が目立ち、長期にわたる地域内の不平等を加速させてきた。

【東アジア】社会保険は限定的、または再分配機能のない強制的個人貯蓄プログラムが中心。基礎教育、二次教育に高い優先度が与えられる一方、公的保健・基礎保健サービスの提供には不平等も顕著に見られた。

【東欧】包括的な雇用保障だけではなく、教育・職業訓練、医療保険制度、年金、児童手当などに強いコミットメントがあり、職業ベースから普遍的市民権へと変容を遂げつつあった。

著者によれば、こうした福祉モデルの違いは、20世紀前半に各地域で起った政治支配のパターンが異なるからだという。さらに、第二次大戦後の国際環境も強く影響している。本書は福祉システムの起源と進化の過程を3地域21ヵ国の比較分析にて捉えようとしている。そこから見えてくるものは、過去の政策選択による利益や制度が後の政策に影響を与えており、同時代の変数だけではなく、歴史的経路も社会政策の形成に影響を与えているという「経路依存性」である。そういう考察をしていけば、福祉国家の将来に関する現在の議論に新たな視点を提供することができるかもしれない。

発表者の方のレジメから拾って記事を書いてみようと思ったが、なんだかわかりにくい記事の内容になってしまったかもしれない。発表者の方が仰っていたのは、こうした多数の事例をもってきて類型化を図る手法や、経路依存性アプローチといったところに本書に特徴があるのではないかということだった。

こうした地域間での比較という視点は有用だと思う反面、東アジアの福祉モデルの変遷というところについては、もう少し詳しく知りたいと思ったところである。勉強会では、本書全体で言いたいことを理解しようと序論と結論だけに絞って読み込んだが、その間にある地域別の事例分析で東アジアの経験をまとめた内容もちゃんと読んでおくべきだと個人的には思っている。

例えば、東アジアの年金制度を「確定給付型」としているあたりは、財源を社会保険料に求めるのか税収に求めるのかの違いはあるものの、賦課方式であることには変わりがない。とすると、今後の人口構成の変化に伴い、今日本が苦しんでいるような財政制約の中での年金制度改革が多くの国々で求められていくのだろうし、確定拠出型に移行していくのもそんなに簡単なことではないのだろうと思う。

東アジアの国々の年金制度の比較をしている文献を読むと、多くの国で同じような傾向が観察されるような気がしていた。僕らが分析する時にはどうしても1国レベルで物事を見てしまう傾向があるが、域内のどこの国も多かれ少なかれ同じ方向での社会保障制度改革が行なわれているということを理解しておくことも必要だなと思う。
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