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『アフリカ 苦悩する大陸』 [読書日記]


アフリカ 苦悩する大陸

アフリカ 苦悩する大陸

  • 作者: ロバート ゲスト
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2008/05
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
アフリカの希望を誰が奪っているのか!腐敗した政府、民族対立、貧困、HIV…、停滞するアフリカの現実と問題の核心。
これまた順番が前後するが、先に紹介したい1冊である。実はまだ読了していないのだが、読みたい章だけ先に読み、その上でブログの記事を書き始めている。読み切って補足があったらまた書き足したいが、目下のところまでの整理は今しておきたい。

著者は経済誌『エコノミスト』の元アフリカ担当編集長。1990年代に英国紙『デイリーテレグラフ』の日本特派員を務めたあと、『エコノミスト』特派員として南アフリカを拠点に7年間にわたりアフリカを取材。世界各地で50か国以上の取材経験を持つ。民族紛争、開発問題、そして熱帯雨林を走る運搬トラック同乗記など、アフリカに関する報道で外国人記者協会賞など複数の国際的な賞を受賞。現在は『エコノミスト』の米国特派員。こうした背景からも、本書はジャーナリストが自らの足で歩いて体験したアフリカの姿が描かれており、しかもジャーナリスト特有のわかりやすい文章で書かれている。翻訳も原文の良さを多分損ねていないと思われるぐらいにわかりやすく、元々日本語で書かれたのではないかと錯覚するぐらい違和感なく読める。

そして、本書の主張は明快である―――アフリカが貧しいのは、政府に問題があるからだ。
政府はみずから富を生むことはできない。だが国民が自分たちの力で富を創造できるように、環境を整えることはできる。犯罪者や外国の軍隊から国民を守ることも、明確なことばで綴られた法を公正に執行することもできる。財産権を擁護し、資産が強奪されないように秩序を確立することもできれば、道路や学校など、暮らしに欠かせない公共財を提供することもできる。アフリカにもこうしたことをひとつ残らずきちんと実行している政府はある。だが、ほんの一握りにすぎない。
 あまりに多くの政府が国民を食い物にしている。政府は正しく統治するためではなく、権力を行使する人間が私服を肥やすためだけに存在しているように見える。官僚たちは仕事の見返りに袖の下を要求する。警察官は正直な市民から金品を奪い、犯罪者たちは野放しだ。多くの場合、国で一番の金持ちは大統領だ。彼らは大統領に就任してから、地位にものを言わせて富を溜め込んで来たのだ。(p.4)
こういう指摘を読みながら、政府に問題があると折角の民の努力が台無しにされるというのを、我々が経験している自国の状況に当てはめてみてしみじみ感じ、嘆息をもらしてしまった。


先行して読もうと思ったのは第5章「宿怨の三つの温床―部族主義、派閥主義、人種主義」である。

アフリカの民族紛争は、古来の敵対心が噴出したものだと思われがちで、勿論部族同士の恨みつらみがないわけではないが、悪辣な指導者達が意図的に憎しみを煽らないかぎり、大規模な流血に発展することは稀だと著者は言う。植民地時代以前にも、部族同士で牧草地や水をめぐって争うことはあったが、限られた地域で短い戦いが起きる程度で、ことさら血みどろの争いにはならなかった。それが今日では、各部族がかつてとは比べものにならない大きな獲物を巡って抗争を繰り広げるようになった。獲物というのは国民国家のことである。国民国家の概念は外国の制度の借り物で、土地に根付いた伝来の制度に則っていないため、アフリカでは大方の市民から信頼を得られず、一部の者が特権を得るだけで、一般の人々の利益を守り育てることができなかった。信頼のおけない国家の代わりに人は自分たちの利益を守る道を探し、「部族主義」「恩顧主義」を選んだ。これは利害を同じくする地縁血縁を基盤として、有力者が人々に便宜を図り、見返りに政治的支持を得るという仕組みだ。(pp.118-119)

だが、問題は部族意識そのものではない。部族意識が政治的に利用されることが問題なのだという。アフリカに民族対立が生まれたのは、植民地政府が部族意識を巧みに操り、悪用したからだが、今日でも摩擦がなくならないのは、根源的な憎悪があるからではなく、現代の政治がそれを利用しているからだという。(p.119)

では、現代の政治的指導者が部族意識を悪用するリスクを軽減できる可能性はないのだろうか。本書を読んでいるとその点についての明確な処方箋は描かれていないような気がする。八方ふさがりなのではないかと感じるところはある。しかし、もう少しよく見ていくと、なんとなくこれかなと思えるところもある。その1つは民間セクターの発展の可能性である。本書は元々南アフリカに対して意外とポジティブな評価をしているところが多いのだが、第5章についても、南アの白人による黒人の差別の問題を取り上げ、克服の可能性を示唆しているところがある。

白人の雇用者たちは強制されない限りは黒人を公平に扱わないと言われる。確かに白人の上司達の多くは偏見に満ちているが、差別をすると損な点もあるという。分別ある経営者であれば、実力本位でスタッフを採用する筈である。最も安く最もよい仕事をする人間を雇うのである。肌の色など、生産性とは無関係な資質に基づいて差別すれば、能力主義で採用しているライバル会社に競争で敗れてしまう。資本主義では人種差別より利益が優先されるのである。(p.151)

本書ではインドのカースト制にも言及がある。「不可触民(アンタッチャブル)」と呼ばれた人々に、公職のかなりの割合が割り当てられる制度ができたことで、他のカーストの人々はビジネス界に進出し、以前より裕福になったというくだり(p.153)。このあたりで言っているのは、「積極的差別是正措置(アファーマティブアクション)」は恵まれていない貧困層を救済する手段だという触れ込みで導入されるが、実際に恩恵を受けるのは主に中流層だということである。管理職に任用される黒人は高学歴層であって、つまりは過去の差別による負の遺産をほぼ乗り越えている人々である。

その一方で貧困層は2つの点で損をする。第1に、受ける行政サービスの質が本来よりも低くなる。差別是正のために逆差別を認めている国々では、この是正措置が民間企業よりも官公庁で積極的に推進されているが、官公庁には競争相手がいないため、サービスの質を改善しようというインセンティブが働きにくい。そして第2に、こうした是正措置は経済発展を鈍らせて失業者がますます職探しで苦労を強いられる。
 現在、南アフリカの貧困層(主として黒人だが)は、確かにアパルトヘイト時代よりはずっとましな行政サービスを享受している。旧白人政権は黒人居住地域にほとんど予算を回さなかったが、ANCは貧困層に水道水、道路、電気などを供給するよう尽力してきた。しかしいろいろな面で肌の色にこだわりさえしなければ、そうしたサービスをもっとふんだんに提供できたはずなのである。
 南アフリカでは、黒人の共同出資者か管理職がいる企業しか公共事業に入札できない。ライバルたちに比べて「より黒人色が強い」と認められれば、10%ほど入札額が高くても契約を勝ち取ることができる。建設会社を経営する黒人たちには誠にありがたい話だ。だが結果的に政府は余計な支出をしているわけで、その分、貧困層のための住宅や送水ポンプ、村道などが減ることになる。「アファーマティブ・アクションに基づく調達」により、実は貧困層から富裕層へと富が流れてしまっているのだ。
 しかもアファーマティブ・アクションは、汚職の格好の隠れ蓑にもなる。ANCのお役人たちは友人知人に落札させて、黒人dかあらと、正当化することもできる。ANCの政治家らが、引退後に人脈を活用して一財産築いたと例もある。こうした公私混同は平気でまかり通っているのだ。貧困層の大半が黒人だという事実につけ込んで、政府はわざと黒人と貧民を同一視して、黒人であれば誰彼問わずに援助が必要だと言い張っている。そんな気前よさの恩恵を享受するのは、多くの場合、黒人の億万長者たちと決まっている。(p.157)

理想的な解決策は、部族と政治を明確に分離することだと著者は言う。政府は民族を根拠に差別をするべきではないという。公務員は能力本意で採用、公共事業は最も金額に見合う仕事をしてくれそうな入札者と契約、そうすれば貧困層への行政サービスは確実に貧困層に届く。民間企業が誰を雇おうと政府が口出しする筋合いではない。単座にはは120の民族集団がそれぞれ独自の文化を持って暮らしているが、独立してこの方、民族対立による流血がほとんど起きていない。部族と国家の分離に比較的成功している事例だという。

アフリカの民主主義が成熟していけば、透くなうとも全国民が遵守する法に則って民族紛争を解決できるかもしれない。また、権力の脱中央集権化も重要で、各地域がみずから治め、みずから予算を管理するようになれば、失敗は自己責任となっていく。そう著者は主張するものの、傲慢な大統領に権力が集中している構造をどう打破するかはあまり明確に示されていないし(賢明な独裁者が自らの権力を抑制する仕組みを作ることが期待されているふしがある)、有力政治家と支持者との間の「保護者=庇護者」の慣れ合いを打ち破る方策も具体的には示されていない(複数政党制になれば「民族」以外の座標軸を争点に掲げる政党も出てくると期待されているふしがある)。

それでも、これだけの主張をわかりやすい文章で挙げてもらったのは僕のような門外漢が理解を深めるのには非常に役に立ったように思う。
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