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『国際ボランティア論』 [読書日記]

自分の周囲で「東北の被災地にボランティアに行ってきた」という方の話を聞くと、その行動力を羨ましく思える。僕がもっと若くて家族持ちでなかったとしたら行ってくることも当然考えたと思うし、家族がいたとしても時間が作れるなら行けたかもしれないが、近頃妙に仕事に余裕がなく、週末も必ず職場の仕事に役立つと思われる文献資料を読んだりして、それでも週明けの出勤が気が重くて仕方がない今の状況を考えると、何を取って何を諦めたとしても罪悪感は感じてしまう。

先週末も、必要にかられてこの本を読んだ。諸般の事情により読書だけに集中できなかったこともあり、平均すると2時間で60頁のペース。後半は飛ばし読みをしたので挽回したが、結局読み切ったのは月曜の昼休みだった。

国際ボランティア論―世界の人びとと出会い、学ぶ

国際ボランティア論―世界の人びとと出会い、学ぶ

  • 作者: 内海成治・中村安秀
  • 出版社/メーカー: ナカニシヤ出版
  • 発売日: 2011/04
  • メディア: 単行本
国際ボランティアとは何か。
国際協力とボランティアの理論的考察から、青年海外協力隊のあり方、各国のボランティア事情まで、国際ボランティアの意義とこれからを考える。
本書は、著者が2007年に(社)青年海外協力協会(JOCA)から受託して行なった研究プロジェクト「日本社会の課題解決における海外ボランティア活動の有効性の検証」が下敷きになっている。この受託研究はJOCAのウェブサイトから閲覧可能なのでご関心ある方は是非お読みいただきたいと思うが、昨年の政府事業仕分けで「青年海外協力隊」を叩く材料の1つとして使われたと思われるのがJOCAの委託研究である。

従って、本書も「国際ボランティア」と言っているけれども中味は青年海外協力隊(JOCV)について論じられており、そうした政府が何らかの形で進めている海外ボランティア活動の対比として諸外国が行なっているボランティア事業が述べられていることで「国際ボランティア」としているのだと思う。よく日本人ボランティアを途上国に派遣するのを政府事業としてやらなければならない必然性はなく、民間でもできると言われる。本書も全体のトーンはこうした論調を支持しているように思える。ただ、現状、日本人をボランティアとして長期で派遣する仕組みを持っているような日本のNGOは思い付かない。本書はそういうところが増えてきていると述べているが、そうならそれがどこかを明示して欲しかったなと思う。僕が知らないだけかもしれないから。(本書では書かれていないが、そもそもJOCVが1965年に発足するのも、それ以前に日本人青年の海外派遣事業を行なっていた民間団体が、各国からの要請に応じ切れなくなってきて政府事業としてシステマチックに実施しようという話になったのだと聞いたことがある。)

但し、JOCVが今のままでいいとは思わないし、変わらなければいけないところはある。本書の執筆者の中にはJOCV出身者もいて、そういう人がこの意見を最も積極的に支持している。確かに、ボランティア派遣を今のJOCV事業の規模で受注できる日本の民間団体は僕には思い付かないが、JOCV事業の規模や性格を見直せば、政府事業を外注するという形でもできないことはないと思うし、いっそのこと各NGOが海外派遣する事業人材の人件費支援のような形にしてしまってもいいのではないかと思える。後者については潜在的な需要がどの程度あるのかわからないけれど(苦笑)。

要するに、相手国政府からの要請に基づいてボランティアを派遣する、受け皿は相手国の政府機関ないしは政府が認めた民間組織、という2つの制約を外してボランティア派遣を考え直してみたら、もっといろいろ考えられるのではないかという気がした。

その点からすると、本書にある他のOECD主要加盟国の海外ボランティア派遣制度の紹介も、参考にはなったけれども物足りなさも感じた。相手国から要請取り付けているのか、受け皿は政府組織なのか民間組織なのか、民間組織なら長期滞在の査証の問題はどうクリアしているのか、現地での案件発掘体制はどうなっているのか、実際に派遣されたボランティアの現地でのサポートはどのように行なわれているのか、万が一受入国で何らかの騒乱が発生した時の自国民安全確保の体制はどうなっているのか―――といったことが、本書にはあまり書かれていないのである。また、良く読めば第3部として掲載されている各国の海外ボランティア派遣制度の比較分析から得られる示唆が第1部、2部に散りばめられているようではあるものの(だから「JOCVは変わらなければならない」と)、第3部自体の要約がないので、印象としてただ並べただけという感じだった。

ただ、他国との比較で参考になったところもある。例えば英国のボランティア派遣団体VSOは、ボランティアプログラム自体に帰国後の国内活動や地域活動を組み込む取り組みを行なっている。VSOは英国政府の国際協力庁(DFID)とは別組織になっていてそれ自体が一種の民間団体であり、DFIDとは覚書のようなものを交わして一部業務は政府からの受託で実施して残りは独自事業にしている。この方が英国内で帰国ボランティアを動員した社会への貢献はやりやすいのかもしれない。日本の場合はJOCVがJICAの一部署となっているが、こうするとJICAの組織法上の規定に制約を受け、日本国内での社会貢献事業がやりづらいということはあるのかもしれない。JOCVが変わらなければいけないという主張の根拠がこんなところにもあるような気が確かにする。

第2部ではJOCVの研究と銘打って何人かの研究者が執筆をやっているが、JOCVが途上国に派遣されて、現地で配属先のカウンターパートや地域の人々との交流から学び、影響を受けるという視点は多くの論者が持っておられるようだが、JOCVが同じ時期に同じ任国、同じ地域に配属されている他のJOCVとの交流から学んだり影響を受けたりしているという視点については本書では全く考慮されていないのかなと思った。いや、別にJOCVだけじゃなくて現地で活動している日本のNGOの方々とか、日本人留学生とか、企業の方々とか、旅人とかでもいいけれど、JOCVが1国或いは1地域に集積していることで出てくるメリットというのは、単に個々のJOCVと配属先や地域との関係、帰国後の日本社会との関係という2面だけでは測れないものがあるんじゃないかと思うのだが。漠然とし過ぎていてわかりにくい言い方でスミマセン。
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コメント 1

yukikaze

ボランティアの定義自体が判りにくい現状ですからね。国際ボランティアに関しても多くの問題点があると思います。

いつ、どこで、誰のために、誰が、何をするのか。

そのために、どのような組織運営が相応しいのか。そういう観点から見直しをするべきだと個人的には思っています。
by yukikaze (2011-06-01 13:51) 

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