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貧困が貧困を生む [インド]

DTE2011-5-16.jpg都市・農村間の人口ボーナス格差が経済の地域間格差を引き起こすという論調の文献を2、3読んできて、今一度インドの地域間格差の今後の動向について考えてみたいと思っていたところ、インドの隔週刊誌Down To Earthの5月16‐31日号に、「貧困が貧困を生む(Poverty begets poverty)」(Richard Mahapatra記者)という記事が掲載されているのに気がついた。
http://www.downtoearth.org.in/content/poverty-begets-poverty

この記事は最近公表された英国マンチェスター大学内に事務局を持つ慢性的貧困研究センター(CPRC)の調査レポートIndia Chronic Poverty Reportの内容について紹介したもので、僕的にはかなりショッキングな内容を含んでいる。
①慢性的貧困状態にある人口は、次の世代にその貧困を受け継がせることになりかねない。
②先住民居住地域や森林地帯に住む人々は永遠に貧困状態から抜け出すことができず、将来暴力的紛争を助長する可能性が高い。既に森林に覆われたインドの県の殆どはナクサライトの巣窟となっている。

去る4月21日、インドの計画委員会は、2012~17会計年度の5年間をカバーする第12次5カ年計画のアプローチペーパーを公表した。それによると、総人口に占める貧困人口の割合は、2004/05年度の37.2%から2009/10年度には32%に低下したと予想されている。いずれこの数値については最新の全国サンプル調査(NSS)の結果が公表されれば確認されるものと思われるが、計画委員会のこの予測は、次の5カ年計画の策定のための前提条件となる重要な数値である。そして、計画委員会はインドの貧困ライン以下(BPL)人口比率を36%に固定して様々な試算を行なっているが、36%の根拠があいまいだとして、22日には最高裁が計画委員会に対して、36%の根拠を示すよう指示したとある。「2つのインドがあってはいけない」―――言うまでもなく、高い経済成長で潤うインドと、慢性的貧困状態から抜け出せないインドだ。

CPRCMap.jpgしかし、CPRCのレポートは「2つのインド」論を支持するものである。右の地図はこの記事に挿入されていたもので、色が濃いエリアほど慢性的貧困状態にあることを示している。見にくいかもしれないが、貧困人口比率が40%を超えているか、ないしはCPRC定義による「慢性的貧困」状態にあるのは、ビハール、ジャルカンド、チャッティスガル、オリッサ州の全域と、ウッタル・プラデシュ州、マハラシュトラ州の東部、マディア・プラデシュ州の中部および東部エリアなどである。

この調査は、インド公共行政研究所(IIPA)のアーシャ・カプール・メタ教授をヘッドとし、全国3,000世帯について30年間にわたる追跡調査を行なった結果だという。CPRCはこれらに基づき、ここ5年の間に32本のリサーチ・ペーパーをインドについて発表している。

このレポートによれば、インドの貧困層の50%は慢性的貧困状態にあるという。さらにこの調査では6州15地区で貧困が集中している。ここでいう慢性的貧困とは、世帯構成員1人当たり1日9ルピー相当の消費水準をボーダーラインとしてそれ未満の状況を指す。人口総数で見た場合に慢性的貧困人口は実は減少している。しかし、総貧困人口に占める比率としては依然として高い。2004/05年度は1億1500万人で貧困人口の37%を占めていた。特に、ビハール、マディア・プラデシュ、マハラシュトラ、オリッサ、ウッタル・プラデシュの5州を合わせると、慢性的貧困人口の総貧困人口に占める割合は、57.5%(1983年)⇒66.8%(1993/94年度)⇒70.6%(2004/05年度)と上昇する傾向にある。

前述の6州15地区のうち、9地区は森林被覆度の高い地域であり、1950年代初めから貧困対策の重点対象となってきた。にも関わらず、貧困状況は改善していない。森林地帯に住む人々は永遠に貧困から抜け出せないとレポートは指摘する。

先住民の間での貧困削減も捗捗しくない。総人口に占める貧困者人口の比率は1993/94年度(37%)から2004/05年度(27%)にかけて低下したことになっているが、農村の先住民(部族)人口のうち貧困人口が占める割合は、51.9%から47.3%に低下したに過ぎない。

これらの事態は、インド政府が長年取り組んできた多くの貧困削減対策プログラムが不的確かつ不十分であったことを示している。調査では29のプログラムを対象としてその効果について確認したが、わずか9つのプログラムだけが、人々を貧困の罠に陥るのを防ぐ上で有効だったに過ぎないという。既に貧困状態にある多くの人々はそこから抜け出すことができない一方で、今は貧困状況でなくても今後そうした状況に転落する人々も数多く出てくる可能性があると関係者は警鐘を鳴らす。

インドは、①開発、②合法性(legitimacy)、③ガバナンス、④民主主義、という4つの「赤字(deficit)」を抱えている。人々はもうこれ以上は待ってくれない。レポートはこの問題の緊急性を強調し、大衆動員による政府への抗議が必要だと述べている。

貧しい親の子は同じく貧しい―――身につまされるお話である。
タグ:格差 貧困
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