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ソーシャルプロテクションの課題 [インド]

SocialProtection.jpg先週OneWorld South Asia(OWSA)に掲載されたインドの記事に、「インドの貧困者支援プログラムは貧困対策として機能していない-世銀レポートが語る(India's aid schemes fail to tackle poverty: World Bank)」というのがあった。5月19日付の記事である。この記事は、先週インドで発刊記念イベント(ブック・ローンチ)が行なわれた世銀の新しいレポート(右写真参照)を、比較的詳細に紹介した内容となっている。

先月、僕は「年金給付制度の評価」という記事で、最近インドの政治経済学術誌で発表された世銀スタッフによるターゲットを絞った無条件現金給付制度(targeted unconditional cash transfer)の評価に関する論文を紹介したことがあるが、どうもこの論文は、本日ご紹介する世銀のレポートのバックグランド・ペーパーのような
位置付けだったのではないかと想像される。

この世銀レポートについては、5月20日付のOWSAに世銀のプレスリリースの内容も紹介されているが、より詳細な5月19日付の記事を訳してみることにしたい。

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インドは現在、貧困対策とソーシャルプロテクションに関する様々な政策を同時進行で実施しているという極めて興味深い状況にある。近年幾つかの改革が導入され、多くの州でそうした政策を効果的に実施するためのイノベーションも導入されている。しかし、貧困削減の進展度合いという基準でこれまでの政府支出の収益性を見ると、これらのプログラムは、その潜在能力をフルに発揮するには至っていない。世界銀行が新たに発表したレポートはこう述べている。

『変化を遂げつつあるインドのソーシャルプロテクション(Social Protection for a Changing India)』と題したこの世銀レポートは、5月19日に当地でローンチングが行われた。インドはGDPの2%以上をソーシャルプロテクションを目的としたプログラムに投入し、中央政府が予算運営する主要スキームで農村の家計に配分される政府支出は2004/05年度に総人口の40%にも達する農村貧困ライン以下人口に配分されている。にも関わらず、貧困層はそうした巨額の投資から十分な恩恵を受けていない――レポートはそう指摘する。様々な実施面での問題に直面している貧困州の行政能力は全般的に低い。最も貧しい州はより多くの予算を中央政府から配分されているが、それを有効に活用するための能力は最も弱いとレポートは付け加える。

インド政府の要請により取り纏められたこのレポートは、公共配給制度(PDS)、全国農村雇用保証制度(MGNREG)、インディラ・アワース・ヨジャナ(IAY)、全国高齢者年金制度(IGNOAPS)といった、インドの主要な貧困対策・ソーシャルプロテクション・プログラムの実績に関して世銀が行なった初めての包括評価である。

「ここ数年来、インドはソーシャルプロテクション・プログラムにおいて幾つかのイノベーションを導入してきました。インド政府の要請に基づき実施したこの評価は、こうしたプログラムの実施状況を分析することを目的としています。成功事例から得られる教訓や、個別プログラムにおける課題などは、こうしたプログラムのインパクトを改善するのに役立つものと期待しています」―――世銀のロベルト・ザガ・インド担当局長はこう語る。

公共配給制度(PDS)
PDSは、GDPの約1%という公的資金の相当な額を吸収し続けている。PDSは家計の25%をカバーするが、それが貧困にもたらす恩恵は限定的だとレポートは分析している。2004/05年度全国サンプル調査のデータを用いた分析によると、PDSからの食糧の漏れや横流しは高い割合で起きており、政府が調達した食糧のわずか41%しか家計に届いていないという。幾つかの州ではさらに成績が悪い。2001年、計画委員会は貧困ライン以下(BPL)貧困層向けの穀物の漏れは全国平均で58%に達すると見積もっている。

レポートによると、中長期的には、配給食糧へのアクセスが問題である地域や災害救援、特定の脆弱なグループへの支援といった特別な状況下においては引き続き食糧を現物支給する仕組みを継続していく必要があるものの、そうでなければ各家計に対して現金給付を行なう仕組みに変えていく必要があると指摘されている。

「インドや他の多くの国々の経験では、ターゲットを決めた現金給付の効用について注目が集まっています。例えばビハール州の場合、食糧へのアクセス改善を図るために、フードスタンプやクーポンが導入されています。同様に、タミル・ナドゥ州やチャッティスガル州では、住民参加を得て、政策実施状況のモニタリングやスマートITソリューションなどを組み合わせ、補助価格で食糧現物支給するユニバーサル・アクセスで、非常にいい実績を上げてます。こうした様々な経験からも、短期中期の解決策は州によって大きく異なることから、さらに詳細な評価が必要です」―――ロベルト局長はこう補足する。

全国農村雇用保障制度(MGNREGS)
このレポートでは、MGNREGSについて、アンドラ・プラデシュ州やラジャスタン州でのソーシャル・オーディット、コミュニティとパンチャーヤト組織(PRI)に中心的役割を与えたこと、明確に整理されたプログラム構成で実施に対して十分な予算配分が保証されていることなど、幾つかのイノベーションを盛り込んでいると評価している。MGNREGSはそれ以前の公共工事プログラムと比べて非常に高いカバレッジを達成している。政府のデータによると、指定カーストの35%、指定部族の25%、労働可能な女性の50%がこのプログラムでカバーされているという。実際、MGNREGSは他のセーフティネットや貧困対策プログラムの今後の改革の方向性を示すモデルともなっていると評価している。

MGNREGSの雇用創出は過去実施されたどの賃金雇用プログラムと比べてもはるかに高い。初年度はわずか200県しかカバーできなかったが、1世帯当たり43日間の雇用を創出しており、これは汎インド・サンプールナ・グラミーン・ロズガール・ヨジャナ(SGRY)が2005/06年度に創出した1人当たり26日間という雇用に比べてもはるかに高い実績である。しかし、雇用機会に対する貧困世帯のニーズを満たすには至らず、農村1世帯当たり100日の雇用を保証することはできていないとレポートは指摘している。

レポートによると、アンドラ・プラデシュ、チャッティスガル、マディア・プラデシュ、ラジャスタンの4州は、世帯参加率、農村1世帯当たりの保証雇用日数で見て高い実績をあげているという。しかし、ビハールやオリッサといった貧困と飢餓が高い割合で発生している州では、まだ十分な実績をあげるに至っておらず、貧困世帯側の労働への要望が少ないという需要側の問題よりも、土木工事機会の創出という供給側の制約が効いている可能性が浮かび上がってきている。アンドラ・プラデシュ、グジャラート、タミル・ナドゥ、ラジャスタンの各州は、MGNREGSの実施において大きなイノベーションをもたらした。その中には、モニタリングや計画立案にIT技術を用いたソリューションを導入したり、説明責任を重視して施工管理に住民の参加を求めたり、新たな金融手法を導入したりといった革新的取組みが含まれる。

MGNREGS資金の活用率は、その他のソーシャルプロテクション・プログラムと比べてかなり高い。しかし、フィールドでの調査によると、村パンチャーヤトへの資金の移転の遅れといった問題も指摘される。2008/09年度にはMGNREGSへ配分された予算の25%が未執行となったが、各州のMGNREGS制度に基づく政府支出の能力には相当なばらつきがあり、タミル・ナドゥ州の予算活用率は56%であるのに対して、ラジャスタン州は89%にも達する。また1州内でも、県によって大きなばらつきがあり、オリッサやカルナタカでは実際に配分されている予算以上に実際に支出が行なわれたと記録されている県もある。

全国で行なわれたフィールド調査では、説明責任を確保するためのメカニズムが想定された通りには機能していないケースも散見されたと報告されている。取り纏め役の機能不全やジョブカード、賃金振込口座手帳にまつわる不正といった問題である。また幾つかの調査では、賃金支払いが規定金額通り行なわれていないケースや、賃金遅配といったケースが散見される。

ラストリア・スワスティヤ・ビーマ・ヨジャナ(RSBY)
こうしたセーフティネットと比べて、保険や年金といった制度はインドでは未だ整備が進んでおらず、労働力の10%未満のカバー率でしかない。こうした公共政策のギャップを認めたインド政府は、RSBYとして知られる、貧困層をターゲットとした医療保険制度を導入した。このプログラムは、年間30ルピーの登録料で、1家族当たり30,000ルピーを上限とした入院治療をカバーするものである。レポートによると、初年度のプログラムの実施状況は今のところ良好で、特にターゲットとなる貧困人口の捕捉という点ではいい成果をあげているとみている。将来の政策優先課題としては、プログラム実施機関による監督を通じてプログラムの拡大を図っていくことであろうとレポートは指摘している。

RSBYは現在全国7千万人の貧困層に入院保険を提供し、さらに成長を続けている。RSBYは同時に、貧困者の視点を考慮し、患者にサービス提供を行なう関係者のインセンティブにも注目して、エビデンスに基づく制度変更への移行を進めようとしている―――レポートはそう述べている。

提言
今日、インドの殆どの州で実施されているセーフティネットや社会保障のプログラムは、貧困削減に向けてそれらが本来持っている潜在能力を発揮するのを妨げている様々な実施面での課題に直面している。カバレッジは広いが補助金の漏れがあって貧困層へのインパクトが妨げられているPDSのようなプログラムもあれば、ターゲティングは適切で設計もよくなされているが実施面では多くの課題を有するMGNREGSのようなプログラムもあり、さらには設計がよくなされていてかつさらによりよい実施に向けたシナリオも揃っているRSBYのようなプログラムもある。しかし、アンドラ・プラデシュ、ケララ、グジャラート、タミル・ナドゥ、ラジャスタン、カルナタカといったインド各州でのプログラム実施経験からは、サービス提供を巡るそうした問題は克服することが可能であるということがわかる。

「縁辺部の小さな変更だけでは、変わりつつあるインドが国内の貧困層とその経済のために必要とするようなセーフティネットを提供することはできないかもしれません。中央と州が持つ様々なプログラムは時間をかけて旗艦プログラムの組み合わせを中心としたものに整理が進み、各州の異なるニーズを充足するのに必要な選択肢と融通性を同時に導入していくことになるでしょう」―――世銀インド・ソーシャルプロテクション担当のリード・エコノミストであるジョン・ブロムクイストはこう語る。

「3+ブロック」戦略
このレポートで見られる具体的な提案としては、長期的にはインドは「3+ブロック」戦略を目指すべきだとしている。それは、中央政府が資金運営管理を行う3つの中核的制度(CSS)を柱として、これに州政府がその他のセーフティネット/社会保障プログラムを実施するためのブロックグラント(無償資金)を組み合わせるというものだ。

「これにより各州に住む貧困層のニーズに合致したプログラムを州が作っていく大きな流れを作っていくことができます。PDSやMGNREGS、RSBYといったプログラムはその三本柱を構成し、それを超えて各州は追加的な給付を受けて州独自のプログラムを実施していくことができます」とブロムクイストは提案している。

それがどのようなプログラムなのかは各州レベルの優先課題によって異なるが、様々な形態の生計支援、ターゲットを絞った住宅支援、基礎社会サービスを利用するインセンティブを付与する政策介入、栄養摂取と就学前幼児ケア(幾つかの州で試行されている条件付き現金給付(conditional cash transfer)のような)、特定の都市ソーシャルプロテクション、その他州政府から提案される様々な選択肢が州レベルでの追加的政策としては考えられるとレポートは述べている。

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すみません、わかりにくい翻訳で。特に数値に関する解釈の仕方について、なぜそうなるのかがよくわからないところが何ヵ所かあった。これは、この記事を書いたレポーターの理解が不十分だったのか、或いは思い込みで書いて本人はわかった気でいるけれども実際わかっていなかったというものなのかはよくわからない。また、これだけ読んでも、世銀が言わんとする「3+ブロック」戦略というのが具体的には分からない。なぜ旗艦プログラムがPDSとMGNREGS、RSBYの3つで構成されるのでいいのか、他のプログラム、例えば記事でも出てくるIAYやIGNOAPSがなぜ中央政府による全国プログラムのままでは都合が悪いのかもちゃんと説明されていない(IGNOAPSについてはなんとなくわかるけれど)。長いけれども何となく理解しづらい記事になっている。

こうなると、実際にそのレポートを読んだ方がいいですよね。世銀のウェブサイトからダウンロードできるそうなので、やってみようかなとは思っている。

因みに、5月20日のOWSAにはもう1つこれに関連した記事が掲載されている。「インド政府、初めての貧困者人口センサス実施へ(India to conduct its first poverty census)」という記事で、世銀レポートの指摘を受けて、ターゲットを絞ったソーシャルプロテクション政策の対象人口を正確に把握する必要から、初めての貧困者センサスを実施する方針をインド政府が固めたと記事では語っている。(この記事まで詳細に紹介する気力はないので、本日はこれくらいで!)

【関連記事】
http://southasia.oneworld.net/todaysheadlines/indias-aid-schemes-fail-to-tackle-poverty-world-bank
http://southasia.oneworld.net/resources/assessing-indias-poverty-schemes
http://southasia.oneworld.net/todaysheadlines/india-to-conduct-its-first-poverty-census


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