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高齢化と地域格差 [インド]

西川由比子
「インドにおける高齢化の進行と地域格差」
『城西大学経済経営紀要』 24, 1-15, 2006年3月30日、城西大学

URL: http://ci.nii.ac.jp/naid/110006272591

年度が変わったこともあり、できれば最低週1回、インドの人口問題、高齢化に関する記事を取り上げていけたらと思っている。いろいろやっている中でこのノルマをクリアしてそれなりの情報収集をしていくのは大変なことかもしれないが、今年度後半に予定されている様々な仕事に向けて、今から準備をしておかなければならないこともある。

その第一弾として、城西大学の紀要に掲載されていた論文を取り上げてみたいと思う。以下はabstractの和訳。

1)2004年の国連人口推計によると、インドの65歳以上の人口は5847万人(2005年)で、総人口に占める割合は5.3%だった。15歳未満の年少人口の増加率が2005年以降マイナスに転じる一方、高齢者人口の増加率は年平均3%を超えて推移するものと予想されている。高齢者人口比率は2020年には7%、2050年には14.8%にも達する。

2)人口高齢化は少子化と長寿化の結果として起る。そして高齢化のペースには地域格差が見られる。合計特殊出生率が既に人口置換水準を下回っているケララ州では、高齢者人口比率は既に7.32%に達している。逆に、ビハール、ラジャスタン、マディア・プラデシュといった出生率が高い州では、高齢者人口比率は5%を下回っている。こうした州での人口政策上の課題は出生数の抑制にある。

3)出生時平均余命は1980年代までは男性の方が高かった。女子の死亡率、結婚年齢期の死亡率の低下により、女性の出生時平均余命は徐々に上昇し、高齢者の男女比にも影響を及ぼしている。すなわち、男性高齢者よりも女性高齢者の方が多い。高齢女性に占める寡婦の比率は、高齢男性に占める寡夫の比率よりも高い。

4)高齢女性は、経済的には他の家族構成員、特に息子に依存しているケースがほとんどである。インドの社会は伝統的にお年寄りのケアをその子供達が担っていくことになっているが、出生率の低下や都市への人口移動により家族の規模が低下し、伝統的家族制度が機能しにくくなりつつあり、これにより高齢者が困難な状況に陥る可能性が高まっている。政府が整備せねばならない社会保障制度の役割も、高齢者人口の増加とともにより真剣に追求されなければならない。

インドの人口構成変化のバラつきが地域格差を生むことについて取り上げた日本語の論文としては、最も頻繁に引用されるのがこの西川論文ではないかと思う。ただ、こうして生まれる地域格差が何をもたらすか、1国内でこうしたまだら模様が生まれるということのマクロ的含意についてはあまり言及されておらず、そこは読者にさらなる考察の余地を与えているように思う。また、地域格差についても、ケララと北部3州の高齢化の進行度の違いについては触れているが、他のデータについてはケララと全国平均とを比較しており、この点についても南北間の比較検討の余地を残しているように思えた。

全体的には本稿は高齢化に伴うジェンダー配慮について強調されているとの印象を受けた。例えば、7頁には男性と女性の結婚後のライフサイクルの比較から、女性の場合は高齢期の大半を寡婦として過ごす可能性の高さを指摘しているし、9頁では都市部でも農村部でも老後の経済基盤をほとんど持っていないのは女性だと指摘している。また、健康状態に関しても、女性高齢者の場合は慢性疾患を抱えている女性が半数を超え、40%近くは身体的に不自由な状態にあるという。政策的含意の部分でのジェンダー配慮について特段の言及がないのは意外だったが、論文全体のトーンとしては、地域格差よりも「高齢化とジェンダー」という問題提起の方が強く出ているように思える。

ただですね、ケララ州の年齢別男女比で60歳以上の場合は全国平均と比べてケララの女性比率が圧倒的に高い理由については、もう少し深く掘り下げた方が良かったのではないかと思う。これは、ケララでは高齢者になる前の生産年齢人口のグループでも女性の比率の方が高かったからなのではないでしょうか。つまり、ケララでは雇用機会が少ないために、男性の働き手の多くが州外に出稼ぎに出ているのである。妻子を残してデリーやバンガロール、場合によっては中東湾岸諸国に出稼ぎに行っているかもしれないし、或いは結婚前に出て行ってしまったのかもしれない。

僕はケララ出身で今はデリーに住んでいるという人を少なくとも3人知っている。うち1人は既に隠居の身だが、若くしてデリーに出稼ぎに来て、引退後もデリーに残っている。勿論、ケララにも自宅があって、年2回ぐらいは自宅のメンテのために帰省している。ご近所の人が管理をしているそうだ。今も現役でデリーで会社経営をしている知人は、ケララの故郷に農園を持っていて、これまた農園の管理を誰かに委託していて年2回ぐらいそのメンテのために帰省している。だからといって、引退後にケララに戻るとは限らない。僕が言いたいのは、就労年齢の頃に出稼ぎに出てそこで生活基盤を構築してしまった場合、高齢になってケララに戻って老後生活を送ることは少ないのではないかということで、だからケララは60代から既に女性の人口の方が多くなっているのだ。

そうした特殊要因がケララの場合はあるから、もう少し他の州も含めて南と北で地域格差を比較した方がいいのかもしれない。そんな気がしました。
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