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カルナタカ養蚕業の光と影(前) [シルク・コットン]

ここしばらくインド養蚕絡みの記事を書いていないので、久々にインドの新聞記事のウェブ検索で気になる記事を拾ってみたいと思う。全国紙Hindu紙のウェブサイトで、「養蚕」と「カルナタカ」をキーワードにして検索し、今年1月以降の記事を整理してみたものである。

【記事①】
"Technology aid boosts silk output; 19,690 tonnes produced last year"
The Hindu, January 29, 2011
http://www.hindu.com/2011/01/29/stories/2011012951160300.htm
"Sericulture gives quick, remunerative returns"
The Hindu, January 29, 2011
http://www.hindu.com/2011/01/29/stories/2011012950970300.htm
先ずは、マイソールにある中央蚕糸研究研修センター(CSRTI)の設立50周年に関する記事。1月末に2日間にわたって記念式典が開催されたが、そのオープニングの模様が報じられている。

この30年、インドのシルク生産は着実に増加し、今や中国に続く世界第2位のシルク大国となっている。2009/10年度の生産高は19,690トンで、これは世界のシルク総生産の15.5%を占めるという。CSRTIは、その研究と研修、普及支援といった活動で、このシルク増産に大きく貢献してきたと関係者は高く評価している。特に、蚕品種が伝統的在来種から二化性ハイブリッド種にシフトし、桑もより多くの葉を茂らせる品種の導入を図り、これらの努力を通じてインドは熱帯養蚕技術のパイオニアになったと述べている。

式典の主賓だった繊維省のラクシュミ政務官は、これに加えて次のように述べている。

-インドは5種類のシルク(家蚕、タサール、オーク・タサール、エリ、ムガ)を全て生産する唯一の国である。

-繊維省は国の第11次5ヵ年計画期間中にCDP(Catalytic Development Programme)と呼ばれる蚕糸業振興プログラムに66億1,000万ルピーを投入し、養蚕農家や製糸業者の設備投資への助成を行なってる。

-ヴァンヤ・シルク(野蚕シルク)は中央蚕糸局(CSB)のもう1つの重点振興分野であり、高級絹紡糸(スパンシルク)の生産規模を拡大するためのエリ・シルク製糸場建設を推進している。

ラクシュミ政務官に続いてスピーチを行なったCSBのハヌマンタッパ総裁は、カルナタカ州の養蚕農家には自殺者を1人も出しておらず、養蚕は貧困削減と農村の雇用創出に貢献していると語っている。

【記事②】
"Wooing farmers to favour silk over tobacco"
The Hindu, February 1, 2011
http://www.hindu.com/2011/02/01/stories/2011020165310800.htm
こうした可能性を踏まえ、CSBは州内のタバコ葉生産農家が桑へ転作し、養蚕を行なうことで代替生計手段を得られるとアピールしている。カルナタカ州はタバコ葉生産高でアンドラ・プラデシュ州に次いで第2位を誇り、現在20万エーカーのタバコ畑があるが、WHOは肺がんのリスクを軽減するために世界的に禁煙を推進しており、インド政府もこれに応じる形で禁煙政策を徐々に強化している。こうして代替生計手段を提供することで、カルナタカ州では2020年までに10万エーカーに削減することは可能だと見られている。タバコは作付けてから収益を上げるまでに長い期間を要するが、桑の場合はそれよりもずっと早く収入が得られるようになるからである。

【記事③】
"CSRTI technology has helped reduce crop losses"
The Hindu, February 17, 2011
http://www.hindu.com/2011/02/17/stories/2011021753880600.htm
最後に紹介する記事は、2009/10年度に二化性養蚕の繭生産高が、7年前に二化性が導入されてから初めて年間1,300トンを上回ったというものである。CSRTIは現在、CSR2×CSR4、CSR46×CSR47、GEN3×GEN4といった二化性交雑種を公開している。こうした新品種は、熱帯性気候の下でも100dfls当り60~80kgの繭を生産でき、こうした繭を原料に2Aないし3Aという品質の生糸を生産できる可能性があるという。(ちなみに、日本で最も効率的な生産農家でも70~80kg程度らしいので、この品質は国際市場でもかなり競争性が高いと思われる。)

CSRTIのカドリ所長によると、最も生産量が伸びたのはタミルナドゥ州で、過去2年間で年平均30%という勢いで伸びたという。カルナタカ州は5%、アンドラ・プラデシュ州は2.5%だそうだ。カルナタカ州には伝統的養蚕から二化性養蚕に転向したいと希望している農家が多いため、生産高は今後さらに伸びるだろうと予想している。

この記事で特筆したいのは、こうしたCSRTIの長年の実績は、JICAの15年にもわたる技術協力によってもたらされたと、カドリ局長が明言して記事でもそう言及されている点である。但し、表現の仕方はさすがはインド人、JICAの技術協力が研究開発部門で行なわれたからこういう成果に繋がったという言い方をしており、開発された技術がフィールドに持ち込まれたから生産拡大に寄与したと言っているが、重点は研究開発面で、普及面は研究開発に比べて半自動的に起ったようなニュアンスで書かれている。ここから容易に読みとれるのは、彼らはやはり普及よりも研究開発を重視しているという点であるが、実際のところ日本人専門家は、技術の実用化や農民への普及ではまた別の苦労を強いられたようである。

記事によると、1960年代は桑園1ha当り年14kgの生糸が生産できたものが、現在では87kgの生糸が生産できるまでに生産性が向上しているという。これはとても大きな成果だと思う。
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