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NREGSを巡る考察2011 [インド]

この記事は、予約投稿機能を使って掲載しました。
日本人の1人として、計画停電には積極的に協力していきたいと思います。

このところ、インドの新聞の切り抜き記事からいろいろご紹介している。被災地でつらい生活を強いられている人、救出活動に当っておられる人、原発事故への対応で追われている人のことを考えたら、東日本大震災のことは軽々には書けないと思うので、淡々と普段通りを貫いていきたいと思うようにしている。

マハトマ・ガンジー全国農村雇用保証制度
Mahatma Gandhi National Rural Employment Guarantee Scheme (MGNREGS)
 インドが特に農村部で達成した大きな成果の1つ。2006年2月に施行され、2008-09年度に4,470万世帯に雇用機会を提供した。2007-08年度の3,390万世帯から大きく増加している。そのインパクトはビハール州のような貧困州でも顕著で、土地なし零細労働者は近年、パンジャブのような富裕州に出稼ぎに行かなくなってきている。
 農村の貧困と失業が著しいこの国において、MGNREGSは、農村開発と農村雇用の創出という2つの目標を同時に達成するのに貢献している。農村をターゲットにした制度で、地元の人々を地域の活動の従事に直接向わせている。飲料水や灌漑用水確保や植林、地方道路網整備、治水、護岸工事等が対象となる。
 農村開発担当のプラディープ・ジェイン政務官によると、2010年6月末現在、全国で17,943,189世帯が雇用機会を得ている。しかし、インド会計検査院(CAG)が最近行なった実施実績評価調査によると、大きな欠陥もあると指摘されている。
[出所] "Cerebrating The Republic 1950-2011: A Very Public Change" Times of India, 2011年1月24日
インドの知人から送ってもらった切り抜きの中から、久々にNREGSを取り上げてみることにした。少々気が早い話のようにも思えるが、記事を読みながら、そこに日本の被災地復興策のカギとなるようなものが含まれているのではないかという気がしたからだ。瓦礫を撤去したりするには確かに重機も必要だが、多くの被災者の方々が収入確保のすべも失われているわけだし、特定の事業者だけが潤ういつもの公共事業の仕組みではなく、そこで暮らしていこうとされる人々に雇用機会を提供するような新たな社会保障の枠組みが必要になって来るのではないだろうか。

昔書いたことの繰り返しになるが、NREGS(MGNREGSともいう)は、貧困ライン以下の世帯に対し、年間100日分地域の公共事業で働く機会を提供し、その間の最低賃金を保証するという仕組みで、世界最大の社会保障制度とも言われている(日本の公共事業を社会保障制度の1つと位置付ける識者がいるのと同じような論法?)。そして、上記の引用にもあるように、地元に雇用機会が生まれたことで、若者が出稼ぎのために外に出ていってしまうような事態を抑制する効果もあったと評価されている。この制度は導入から日が浅い割によく浸透していて、僕が訪れたことがあるオリッサ州やアンドラ・プラデシュ州の農村部では利用している話を耳にした。

ただ、その一方でNREGSには問題点も多い。対象となる公共事業を誰がどのように決め、それにあたって傭上される人は誰がどのように決めているのかが透明ではないという指摘が常にある。本来なら制度の受給資格がある人から名義を借りて別の人間が何度も賃金を受け取っているという話はあるようだし、実際働きに来てなかったのに賃金受取ってた奴もいたらしいし、行なわれる公共事業もなんだか大したものではなかったりする。(僕の理解が不十分である点は甘受しつつも…) 僕がインドにいた頃は、制度は作ったけれども配分した予算があまり活用されていないとの指摘もあった。

1月30日付のEconomic Timesに「NREGSには1兆ルピーが流れているが、会計検査はゼロ」(Dhananjay Mahapatra記者)という記事が掲載されている。この記事によると、2006年2月の施行以来、NREGSには1兆800億ルピーが投入されているにも関わらず、いかなるレベルにおいても会計検査が行なわれた実績はないという。全国農村雇用保証法(NREGA)のセクション24には「中央政府は、インド会計検査院(CAG)と協議しつつ、全てのレベルでこの制度の会計処理が適切に行なわれているかどうかを確認する検査を行なうことができる」とあるが、記事は中央政府がこの規定に抵触していることを認め、最高裁に報告したと報じている。

最高裁は昨年12月16日、2009-10年度予算で4252億9000万ルピーがNREGSに配分された中で、実際の執行は3350億600万ルピーに上っているが、この資金が本当にそれを必要としている貧困層に届いていないとの指摘を中央政府及び各州政府に対して行なっている。今回の記事は、それに対する中央政府のフィードバックと見られる。これによると、中央政府は、CAGがNREGAの対象となる625県のうち、68県を対象にサンプル調査を行なっていること、現在、中央・地方各レベルで4,600人以上の関係者に対して訴訟が起こされていて、総額8億8,000万ルピーにのぼる不適切な資金流用や着服横領が検知されていると抗弁している。NREGSも施行から5年が経過し、政府は強制的な会計検査のルール作りの最終段階に入っているという。

もう1つの記事は、2月3日付のTimes of Indiaに掲載されていた「不正行為チェックにバイオメトリクス認証付きNREGSデータベースが機能」というもので、NREGS施行5周年を迎えたこの日の記念式典で、マンモハン・シン首相とソニア・ガンジー国民会議派総裁が、NREGSの問題点として、架空の作業召集、土木作業の質、賃金支払いの遅延、NGOや住民組織によるNREGS事業のソーシャル・オーディットの機能不全等を挙げたという。また、ヴィラスラオ・デシムク農村開発相は、携帯型バイオメトリクス認証機器を順次導入し、土木作業への参加状況を即時把握してその場で賃金を払えるよう改善を図っていく方針であることを明らかにしている。

やってもいない土木工事をでっちあげて費用を請求する悪賢い輩が沢山いるというのはいかにもインドらしいなと思う一方で、こういう仕組みは多少は日本の復興プロセスでも役に立つのではないかと思う。

【参考記事】
"Rs1L cr spent so far on NREGS, but no audit"
The Economic Times, 2011年1月30日
http://articles.economictimes.indiatimes.com/2011-01-30/news/28424216_1_cag-auditing-mgnrega

"To check fraud, biometric NREGS database in works"
Times of India, 2011年2月3日
http://timesofindia.indiatimes.com/india/Rural-job-scheme-Biometric-device-will-ease-workers-woes-/articleshow/7413365.cms
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toshi

コメントありがとうございました。
これからもよろしくお願いします。
by toshi (2011-03-16 18:46) 

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