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『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』 [読書日記]

残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法

残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法

  • 作者: 橘 玲
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2010/09/28
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
ワーキングプア、無縁社会、孤独死、引きこもり、自殺者年間3万人超など、気がつけば世界はとてつもなく残酷。だが、「やればできる」という自己啓発では、この残酷な世界を生き延びることはできない。必要なのは、「やってもできない」という事実を受け入れ、それでも幸福を手に入れる、新しい成功哲学である。
コミセン図書室では平均すると2週間で2冊ぐらいのペースで本を借りている僕であるが、さすがにインド駐在以前にも同じようなことをやっていただけあって、既に何を借りるかで思案に暮れることが多くなってきた気がする。新着本はそこそこあるけれど僕の眼鏡にかなうものが少なく、結局借りずに帰ることも最近はある。

とはいえ先々週は2冊借りた。間もなく返却期日が到来するということもあり、今週に入ってから通勤電車の中ではもっぱら読書に充てている。お陰で期日まで2日残して2冊とも読み切ることができた。

但し、読んで面白かったかどうかは話が別だ―――。

冒頭の勝間vs香川論争の噛み合わなさというのは僕も週刊アエラの対談記事を読んでて感じていたので、その読解から入ったのはいいとしよう。僕はこのところ『非才!』のように練習を積めばある程度まではできるようになるという本を時々読んだりしているのだが、橘玲のこの著作はある意味『非才!』の主張をバッサリ斬り捨てており、「子どもの成長に親は必要ない」(p.34)と言い切っている。遺伝学や心理学でわかってきている発見は、①知能の大半は遺伝であり、努力してもたいして変わらない、②性格の半分は環境の影響を受けるが、親の子育てとは無関係で、いったん身についた性格は変わらない、だから、努力することには意味がない(pp.34-35)と結論づけている。「適性に書けた能力は学習や訓練では向上しない。「やればできる」ことはあるかもしれないけれど、「やってもできない」ことのほうがずっと多い」(p.36)から、勝間和代のように、「努力していっしょに幸せを掴みましょう」と言われてもできんよなあというのはよくわかるのだ。このあたりの記述は非常に僕には身につまされるのだ。特に今はね…。

ただ、そこからがいけない。実は本書のタイトルに載っている「たった1つの方法」が何かについて、答えは非常にシンプルだ。著者の言いたいことを知りたければ最終章だけ読めばいい。「伽藍を捨ててバザールに向え。恐竜の尻尾のなかに頭を探せ。」―――わかりにくい表現だが、要するに恐竜の尻尾のように長く伸びているところにある小さなニーズを拾ってその規模で自分が得意なビジネスを考えよ、大きくは儲けられないけれど、それが君たちの生きる道だとでも言いたいのだろう。自分の好きなこと得意なことをやってほどほどの規模での生計を立てられればいいではないかということらしい。

それはわからぬでもない。そういうことは僕も考えていたから。著者の言いたいことは否定はしない。そして、どうせニッチ市場狙いの話だから、利ざやがそれほど大きくないのも折り込み済みだ。だいたい、好きなことやってぼろ儲けできるなんて虫のいい話があるわけがない。

ただ、結論があまりにもシンプルだったことを考えると、なんでこういう本の構成にしちゃったのかが分かりづらかった。結論の章はそれだけで完結していて、それまでの各章との関連性について述べられていない気がした。リカードの比較優位論とか、ゲーム理論とか、経済学をちょっとかじったことがある人にはお馴染みのお話も登場する。でもそれが結論とどう繋がるのだろうか。それぞれの章で言われていることひとつひとつは説得的だとしても、なんだか著者の博識であることの証拠をただ羅列しただけという感じがして、それ以上の理解ができなかった。これだけ先行研究を沢山引用してきて、「自分は落ちこぼれだった」なんて言わんといてほしいわ…。

こんな突っ込みも入れたくなった。バザールでロングテールを狙えというのは簡単だが、ロングテールの中で頭を探すのは、即ち自分の好きなことや得意なことなのだろうとは思うが、ロングテールの中の頭というのはやっぱり小さいなりにもそのビジネスモデルの中ではトップランナーであれということだから、それなりの努力は求められる筈である。冒頭でさんざん「やってもできない人はいる」と言っておきながら、結論部分では「やれ」と言っているわけで、そこは矛盾しているんじゃないだろうか。まあ、そうでもしないとサバイブできないよと脅されもしているわけだからやるしかないのでしょうけどね。

1冊の本としてのまとまりはあまり良くない気がする。結論には賛同するけれど、読後感はあまり宜しくなかった。
タグ:橘玲
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コメント 1

うしこ

今から 1 年も前に感想をアップしてくださっていたんですね。
これを読んでいたら、買わなかったのに・・・。
by うしこ (2012-03-11 10:10) 

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