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『絹の文化誌』 [シルク・コットン]

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絹の文化誌

  • 作者: 篠原昭・嶋崎昭典・白倫編著
  • 出版社/メーカー: 信濃毎日新聞社
  • 発売日: 1991/09
  • メディア: 単行本
内容(「MARC」データベースより)
信州の窓を世界に開いた生糸、絹などについて文化、科学、技術の視点からやさしく解説した読み物。平成3年度信州大学放送公開講座、ラジオ科目(信越放送)テキスト。
この本はなかなかいいです。使用されている言葉がわかりやすい。蚕糸業の用語には難解なものが多く、その言葉を聞いただけでは何のことだかよくわからないということがある。また、ここ2カ月ほど蚕糸業のにわか勉強をしている中で難しいなと感じているのが蚕種製造と遺伝子学、そして糸繰りといった分野である。実際に実践されている内容を見れば理解もしやすいのかもしれないが、今の日本ではそんなことも難しい。その意味では、第4話「蚕種屋の盛衰―蚕種と遺伝学―」第6話「糸繰りの文化―なにを繰るやらくるくると―」等は非常に有用だった。(これを読んだだけではすぐにわかったとは言いづらいが…)

1つの例を挙げてみよう。僕は糸繰りで作業員の熟練度が問われるというのを具体的にイメージできる説明文をあまり見つけられずにいたが、次のような説明は、糸繰りの写真を一度見ておけば、それを文章で表わすとこんな感じになるのだろうと言うのがドンピシャでわかるので有用だ。
 生糸は太さがそろっていることが必要であるが、合成繊維と違い、本来太さに変動のある繭糸を何本か集束したものであるから、どうしても太さに斑(むら)ができる。この糸むら(太さむら)は織物や編み物にしたとき大きな欠陥となる。太さのそろった生糸を作ることは、技術的にたいへん難しい作業である。従って生糸の太さすなわち繊度の管理こそが製糸技術の中枢をなすものである。
 繭を熱湯に浸して、糸のほぐれを良くし(煮繭)、ミゴで作った箒(ほうき)で繭の表面を軽くなで箒に絡みついた繭糸をたぐって1本の正しい糸口を見つける。4、5粒の繭の糸口を集めて1本とし、これを、集緒器(しゅうちょき)といわれるボタンの穴(0.2ミリメートル以下の小さな穴)に通し、糸同士で仮撚(より)を与えた後に周囲が60センチメートルくらいの長さの四角の木枠に巻き取る(繰糸)。この生糸は1分間に200から300メートルのスピードで巻かれる。繰糸中の繭糸は途中で切れたり、繰り終わるので100メートルに1回くらいの割で繭糸を補充しなくてはならない。集緒器の下をめがけて新しい繭の糸口を投げつけ、繰られている3、4粒の繭糸へ絡みつけて糸つなぎをする。これは大変難しく熟練を要する。優秀工でも、10回に2回は失敗するという。糸つなぎが遅れると糸むらができ、なおまごまごしていると繭糸が少なくなり、生糸は切れてしまう。明治、大正期の生産量を重視した日本の生糸は、繭の粒付け管理が悪いため、太さが不ぞろいで、外国では織物のよこ(緯)糸用にしか使えない二流品として取り扱われていた。たて(経)糸に使われる上質糸は、もっぱらイタリア、フランスの欧州系であった。
 第一次大戦後、欧米では膝頭までのスカートが流行し始め、ストッキングの需要をよぶことになる。ストッキングや靴下は、細い生糸を用いるので、糸むらは商品価値を支配する重要な因子となる。米国絹業界は、安くて大量入荷できる日本生糸へ、たて糸として使える上質生糸を注文するようになった。昭和初期の世界大恐慌によって大きな打撃を受けた日本の製糸家は、その不況を乗り切るために、上質生糸を生産し、たて糸分野へ販路を拡大しようとした。(pp.179-180)
これを読んで、日本でもたて糸が品質として良くなかった時期があったのだというのが発見だった。これは1980年代頃からインドでも再三言われてきた問題点と同じで、インドでは女性のサリーを自動織機で織るには、インド産生糸は強度が足らず、もっぱら中国からの輸入に頼ってきたという歴史がある。日本の場合はたて糸の必要性が米国市場のニーズに応えるというグローバル化の中で認識されていたが、インドの場合は国内市場である。そした点では、たて糸の必要性というのをインドの製糸業者に意識させることは結構大変なのではないかと言う気がする。

これなどは非常にシンボリックな事例である。その他にも参考になる記述は多い。おそらく、本書は手元に置いておいて、わからない時に時々読み返すようなレファレンスブックとして用いるのがいいのではないかと思う。


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