SSブログ

タミル・ナドゥ州の二化性養蚕(2) [シルク・コットン]

2月は、できるだけインドの養蚕業について記事で取り上げるようにしていきたいと思っている。というのは、全国紙のHinduのウェブサイトで「養蚕」とか「シルク」で検索をかけると、おびただしい数の記事がヒットするからである。元々Hindu紙は南インドに強い日刊紙だからというのもあるが、ヒットした記事の多くはタミル・ナドゥ州のもので、続いて多いのがカルナタカ州とアンドラ・プラデシュ州である。この3州は、1990年代前半から日本が行なってきた養蚕の技術協力での普及対象地域とも符合する。だから、ヒットした記事を読んでみると、「JICA」という言葉が頻繁に出てくる。日本人は胸を張っていいと思う。

今回ご紹介するのも、毎週木曜の農業欄に掲載されていたM. J. Prabu氏のコラムだ。2010年12月2日(木)の彼のコラムで、「養蚕業、国の需要に生産追いつかず(Sericulture: production does not meet country's demand)」というのを見つけた。本日も翻訳の練習のつもりで記事を訳してみたいと思う。
*記事全文は下記URLからダウンロード可能です。 
 http://www.hindu.com/seta/2010/12/02/stories/2010120250271500.htm

xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx

「インドは世界の生糸生産量で第2位で、シルクの消費量は世界一ですが、国内での生糸生産は国の需要には追いつきません」――こう述べるのはマイソールにある中央蚕糸局(CSB)傘下の中央蚕糸研究研修所(CSRTI)のS.M.H.カドリ所長(右写真)である。「私達は今、国際市場で競争していくことが求められていますが、伝統的な蚕飼育方法からより先進的な技術に移行するのはそう簡単なことではありません。」

Qadri.jpg以下にカドリ所長の説明が続く。

「インドの製糸業は二化性交雑種の蚕の飼育に移行し、生糸の質的向上と農家所得の向上を達成していくことが求められています。伝統的品種や多化×二化交雑種(CB)から生産される生糸は質が悪く、国際市場で競争していくことはできません」

マイソール(カルナタカ州)のCSRTIはより糸の量が多く品質も国際水準の生糸の生産が可能となるよう、過去10年にもわたって蚕の交雑種を数種類開発してきた。カドリ所長によれば、これによりインドは国際競争にも太刀打ちでき、蚕糸業の自立発展も可能になってきたという。インドの農家は主にCB(Cross Breed)と呼ばれる交雑種を飼育してきた。それらは性質的に多化性(1年中糸繭生産ができる)だが、二化性の交雑種は1年間に2回しか世代交代がなく、にも関わらず多化性蚕と比べて糸の質が優れている。

「当初、熱帯性の気候条件下での蚕の飼育は、冬の間しか行なわれていませんでした。今では科学者の努力により数種類の蚕の系統が生まれ、どのような気候条件であっても飼育に向いた系統が出てきています。世界銀行の資金供与で幾つかのプロジェクトが行なわれ、国家養蚕計画(National Sericulture Project)を支援しました。また、二化性養蚕技術実用化・普及プロジェクト(PPPBST)が二化性繭の生産能力の強化に貢献しました。」

「今日、幾つかある州の中でも、タミル・ナドゥ州は二化性交雑種の生糸生産で全国をリードしています。PPPBSTでは、エローデ県のゴビチェティパラヤムの限られた数の農家で二化性繭の生産技術の成功事例の展示を行なったに過ぎませんが、この展示普及は多くの養蚕農家に大きなインパクトを与えたのです。」

セーラムにある地区研究ステーションや州養蚕局(DOS)は、二化性養蚕を農家の間に普及させるため、さらなる取組みを進めている。このため、二化性蚕の飼育は、州内生糸生産の0.1%から22%を占めるまでに急速に普及してきている。農家の識字率の高さや、自営業の選択肢の1つとしての蚕糸業の活用、大規模生産、導入の容易さ、先進技術の適用といったことが、タミル・ナドゥ州で飼育を促進する上での強みとなっている。

良い例がウドゥマルペット県マヌパッティ村のM.S.ヴァスデヴァ・ラムクマールさんである。彼は最初は二化性交雑種の蚕の飼育を躊躇した。二化性蚕が病気に弱いことや栽培している桑の葉の品質向上まで求められたことがその理由だ。しかし、彼はこう言う。「科学者の方々は、病気や気温に対して耐性のある交雑種と飼育法のパッケージを我々農家に提供してくれたので、出来上がった二化性繭に高い買値がつきました。お陰で、1エーカー当たり6,000~10,000ルピーの追加収入が得られるようになりました。」

マイソールのCSRTIは、タミル・ナドゥ、カルナタカ、アンドラ・プラデシュ、マハラシュトラ州において二化性養蚕の振興を図っている。有効な普及支援に向けて、養蚕農家とのテレビ会議システムを最近導入し、既に始まっているクラスター単位での振興策の拡充を図っている。

蚕糸業は、特に農村部で教育を受けた若者に自営業を起こせる可能性を提示できるよう、さらなる発展のためのシナリオを描くことが求められているとカドリ所長は考えている。

xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx

さて、この記事で重要なのは、日本の技術協力が、当初の協力対象地域を越えて、協力期間終了後もタミル・ナドゥ州に広く普及していっているのが窺えることである。日本の技術協力は2007年8月に終了しているが、当時のタミル・ナドゥ州への普及規模は記事の中で言及されているゴビチェティパラヤムを中心に、それほど広い範囲ではなかったと考えられる。それが同州南部、コインバトールのさらに南にまで広がりを見せているのは、州DOSの努力が大きいからだと思われる。

日本の17年間の技術協力の中期に関わっておられた日本人専門家の方にうかがったところでは、DOSの普及員は農家を巡回して適宜必要な助言を行なうのに必要な予算があまり支給されていないということであった。車やバイクの支給などないし、ましてや燃料費や交通費も十分ではないのだろう。普及を考えていく上ではこれは大きな課題だったに違いない。しかし、当時と今とを比べてみると、今なら農村にも携帯電話が相当普及している筈であるし、特に南インドの場合は農村にもインターネットキオスクのようなものが出来ているところがあると聞く。であれば、わざわざ現地に赴かなくても、携帯やテレビ会議で農家からの相談を受けて助言をすることはできるのかもしれない。そう僕は考えていた。

それがこの記事から実際に行なわれていることを垣間見ることができた。その意味でもとても重要な記事だと思う。
nice!(4)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 4

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0