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タミル・ナドゥ州の二化性養蚕(1) [シルク・コットン]

前回のマディア・プラデシュ州に引き続き、今回は南部タミル・ナドゥ州の養蚕の話である。しかも、今回はインド駐在中僕が愛読していた全国紙Hinduの、毎週木曜の農業欄に掲載されていた農業ベストプラクティスのコーナーの逸話だ。僕が離任した直後の2010年7月8日(木)、「技術援助が女性養蚕農家の力になる(Technical support helps women sericulturists)」という記事が掲載された。書いたのはお馴染みのM. J. Prabu氏である。

記事の内容は、タミル・ナドゥ州養蚕局が助成金や技術アドバイスによって農業技術普及に取り組むにつれて、蚕飼育に興味を示す女性の数が増えてきていること、中には1ヵ月に25,000ルピーも稼ぐ女性も出て来て、弱い立場にある女性たちのエンパワーメントに繋がっていることなどが述べられている。
*記事全文は下記URLからダウンロード可能です。OneWorldにも同じ内容の記事が掲載されています。
 http://www.hindu.com/seta/2010/07/08/stories/2010070850241400.htm
 http://southasia.oneworld.net/fromthegrassroots/technical-assistance-empowers-women-sericulturists

記事に先ず登場するのは中央蚕糸局(CSB)傘下で同州スリヴィリプットゥールにある研究普及センター(REC)のN.サクティベル所長のコメント。適切なガイダンスや助言により、農村女性は男性に比べてより才覚を発揮して利益を上げることができると強調する。

次に登場するのは、スリヴィリプットゥール県のラマリンガプラム村出身のS.アンダルさんという女性。彼女は1ヵ月に25,000ルピーを稼ぎ出し、何人かの女性に雇用機会も提供しているという。彼女は結婚後、夫の7エーカーの農地を面倒見ていた。しかし、4年前に州養蚕局(DOS)の薦めで3エーカーを桑畑に転換し、さらに蚕室を建設した。

「私が蚕の飼育に興味を持ったのは、それが毎月所得機会を与えてくれるからです。今日、私は毎月20,000ルピー以上を稼ぐことができ、家族の消費ニーズを満たして子供達をいい中等学校にやることができます」――アンダルさんはこう述べている。

現在、アンダルさんは1回の掃立で繭250kgを生産し、50,000ルピー以上を粗利益を上げる。純利益は25,000~30,000ルピーになり、これを年8~10回収穫する。彼女のサクセスストーリーは、同州南部では最も有名な話の1つでもある。蚕飼育の他に、彼女は桑畑で間作も行なっている。

サクティベルREC所長も補足する。「養蚕が成功するかどうかはインフラにかかっています。DOSは、必要なインフラを整備するための助成金を提供して農家の支援を行なっています。インフラが出来上がれば、養蚕は何年も続けて行なうことができます。」スリヴィリプットゥールRECは、タミル・ナドゥ州DOSが南部での養蚕振興のために新たに設置した研究普及センターの1つである。「南部の県は元々養蚕が行なわれていませんでした。しかし、農家が新技術を受け入れるにつれて、急速に養蚕が普及してきています。」

ここで言う「新技術」とは、二化性交雑種の蚕の飼育のことを指している。二化性交雑種は国際市場でも取引可能な質の高い生糸を生み出し、在来種の飼育に比べて農家はより大きな収入を得ることができるという。アンダルさんの成功もこの交雑種の飼育を始めたからだとサクティベル所長は言う。

「新技術」とは、しかし、二化性交雑種の導入だけを言うわけではない。強調されなければならないのは新技術が1つのパッケージになっているということで、条桑育(platform rearing)、桑の新芽収穫、給餌、壮蚕の上蔟(「まぶし」と言われる)など、二化性用の技術が組み合わさって初めて導入可能となる。

以上が記事のあらましである。記事ではちゃんと言及されていないが、労力の節約を狙った様々な技術や器具の改良は、CSBが日本からの技術協力を得て行なったものだと思われる。アンダルさんは4年前にDOSから薦められて養蚕を始めたと書かれているが、日本は1991年から2007年まで二化性養蚕の技術協力を行なっており、技術の研究開発から農村での実用化実験を経て、最後は南部3州での普及制度作りにまで協力を展開している。そして、おそらくこの最後の普及のフェーズにおいて、これまでカルナタカ州マイソールを拠点にしていたために十分なカバーができなかったタミル・ナドゥ州にも普及の網を広げたのであろう。

SericultureTN.jpg

但し、疑問点もある。記事に挿入されていた上記の写真は、五齢期の蚕が糸を吐いて繭を形成(上蔟)するのを助ける「まぶし」(或いは上蔟器)という器具であろうと考えられるが、これはインドに昔からあった「チャンドリケ」と呼ばれる「縄まぶし」とも、日本でよく使われてきた「回転まぶし」とも違う。これで大きさも計上も均一な繭が本当にできるのかどうかはよくわからない。しかし、これだと繭をまぶしから引っぺがすのは結構大変なのではないかと思われる。(チャンドリケは農村に普通にある材料を使って作れるが、回転まぶしはもう少し手が込んでいるので、どこまで地元生産ができるのかはわからない。その点では写真に写っているまぶしは一体どうなんだろうか。

また、二化性交雑種の糸繭市場はカルナタカ州ラマナガラムにしかないが、スリヴィリプットゥールのようなタミル・ナドゥ州南部の町からラマナガラム市場に繭を持ち込むのには輸送コストも結構かかるのではないかと思う。そのあたりはどうしているのだろうか。かなり気になる。


*あまりに気になったので、記事に出てくるサクティベル所長という方にメールを打つことにした。返事が返ってきたらまたご紹介させていただきます。
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