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『ケニア!』 [読書日記]

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少し前に予告していた通り、1月30日(日)は寒風吹きすさぶ中、中1の長男と2人で月例川崎マラソンを走りに出かけた。場所は川崎市幸区にある古市場運動競技場ランニングコースとその周辺の多摩川河川敷だ。僕が月例川崎を走るのは2000年冬以来で、長男は市民マラソン自体がデビュー戦になる。僕自身もブランクで勝手がわからない中、いろいろ備品を忘れて走らざるを得なかったけれど、3kmの部を長男は14分台半ば、僕は15分46秒でなんとか走ることができた。中学では文化系クラブに入っている長男ではあるが、走らせてみると後半のペースが意外と速く、思っていた以上に差を広げられてのゴールとなった。ちゃんと練習すればもう少し彼は速くなると思う。

会場では、昔所属していたペガサス走友会のKさんをお見かけした。この日は勝田マラソンに参加している方も多いということだが、月例川崎マラソンに今後も出ていれば懐かしい方々にも再会するチャンスがありそうだ。フルやハーフどころか、今は10kmでも完走が難しいが、親子で走るこの月例マラソンも、慣れてくればもう少し距離を伸ばしていきたいとは思っている。今日のところは走り切れただけでも可としたい。
*神奈川県の月例マラソンのHPはこちらから!

さて、本日は久々の市民マラソン参加に因み、陸上長距離の話題を続けて取り上げる。紹介する本はケニアのマラソンランナーがなぜ強いのか、ルポライターがその理由を追って英国とケニアに取材に出た旅のお話である。

ケニア! 彼らはなぜ速いのか

ケニア! 彼らはなぜ速いのか

  • 作者: 忠鉢 信一
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2008/08/06
  • メディア: 単行本
内容紹介
東京からアテネまでの夏季五輪陸上競技で54個のメダルを獲得した秘密を追い、ケニア、グラスゴー、コペンハーゲン、ロンドンをたどる。
この疑問に対する多くの人の第一印象は、ケニア人、とりわけリフトバレー州に住むカレンジン人に特有の遺伝子でもあるのではないかということだろう。しかし、これについては遺伝子学的に棄却される研究結果もあるらしい。そこはホッとさせられる。遺伝なんて言われたら、最初から諦めざるを得ないからだ。また、ケニア人は子供の頃からクロスカントリーを走るような感覚で学校まで走っているから速いのだという研究者もいるらしいが、それもおかしいと思う。だったら近所に学校もない他の途上国がなぜケニアよりも優秀なランナーを輩出していないのかが説明できないからだ。でも、それではなぜケニア人は強いのかと聞かれると、本書は可能性は幾つか提示しているが、結論までは提示していないような気がする。ただ、ストーリー展開からみて、ケニア独特の「キャンプ」という練習方法ではないかという示唆はあるように思える。
 欧米で考えられているコーチングで大切なことは、選手の個性にあった指導をすることだ。1人ひとりの強さと弱さを把握して、その特徴にあった練習をしなければ効果はあがらないと考えられている。そのために個人のデータが計測され、その変化を指導にフィードバックする。
 しかしケニアでは個性の違いはさほど重視されていないようだとアンディは感じた。そのかわりに、常に個と個を比較し、競争させる練習をしていた。優秀なランナーになりたかったら、自分より優秀なランナーと練習すればいい。一緒に練習できるようになって、やがて勝てるようになったら、自分が優秀になったということになる。(pp.132-133)
先ほど「キャンプ」と述べたが、この「キャンプ」というのは、先輩ランナーや欧州人の在住者等が主宰する合宿のことで、住み込みで共同生活を送っていたり、それに近所のランナーが飛び入りで参加したりして、一緒に競い合うように練習をやっているのだそうだ。しかし、競争導入されている以外は、何か科学的な練習が選手ごとに行なわれているわけではないらしい。欧州の科学的な練習を持ち込もうとしているコーチ兼研究者というのもいるそうだが。

ただ、それだけではなくて、「練習すればだれでも速く走れるようになる」と多くのケニア人が信じているというのも新鮮だった。
「ミラノマラソンで優勝したことがあるうちのキャンプの選手の1人、キプチュンバ・チェロノがあるときこんなことを言っていました。『ケニア人ならだれでもランナーになれる。違いは練習するか、しないか、だけだ』って。ケニアの人たちは、1人ひとりの才能の違いはほとんどないと思っています。持っている才能はみな同じだ、と。だから、彼に走れるなら、自分にも走れると、自然に思っているのです。でも私にはそんなふうには思えません。ある人は才能を持っていて、ある人は持っていない。そういうふうに考えるはずです。(後略)」(p.243)
超ポジティブシンキングですね。そこにキャンプの競争で鍛えられるのだから、強くなるだろう。

ただ、それだけだったら日本の実業団ランナーだって同じではないかという気もする。本書ではこれらに加えて、「陸上ランナーは自分の職業」という意識も相当に強いように思えた。但し、こうした上位入賞者に賞金を出す世界中のマラソン大会情報にアンテナを張っている先駆者のネットワークがあってこそであるようにも思える。出場予定のA選手が故障して走れなくなったら、急遽代理のランナーBを同じキャンプから送り出すような融通の効く人繰りをキャンプ主宰者がやることができるというのも大きいのだろう。

しかし、盤石とも思われる世界の陸上長距離界でのケニアの地位も、近年の主要マラソンの結果だけ見ると、ケニア人選手が上位独占するといった圧倒的な結果にはなっていない。意外とエチオピア勢が頑張っているような印象も受ける。ゲブラセラシエは引退するようだが、他のエチオピア選手も結構活躍している。


ケニア陸上長距離界の変化の兆しを感じさせるコメントも本書には収録されている。
 1996年にカプサイトで一緒に練習を始めた仲間の1人は、マラソンのメジャータイトルを制してスターになった。急に大金を稼いで、カプサイトを離れた。エルドレッドで生活して練習は自分1人で続けた。そして彼はエルドレットで酒を飲むようになった。たとえ酒を飲んでも練習すれば走れると思ったのだ。仲間の忠告も聞かなかった。
 「ケニアの陸上界で一番問題なのは、成功したランナーが1人で練習しようとする傾向があることだ。だからナショナルチームとしていつもまとまって練習しているエチオピア勢に追いつかれ、追い抜かれようとしている。なんとかしないといけない。(p.195)
大金を見たことがないような人が急に大金を手にすると、酒の味を知ったり、贅沢をしたりすることはある程度は仕方がないことなのかもしれない。陸上で長期的な成功を収められるかどうかは、初めて大金を手にした時、そこでグッとこらえて厳しい練習に打ち込めるかどうかにかなりかかっている。
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