インド農村のサブプライム危機(2) [インド]
インドの隔週刊誌『Down To Earth』2010年11月16-30日号では、カバーストーリーとしてアンドラ・プラデシュ(AP)州で起きたマイクロファイナンス絡みの自殺者急増問題を取り上げている(右写真)。この特集は大きく2つの記事から構成されているが、今回は「利益と損失(Profit and Loss)」(Richard Mahapatra記者)からその惨状を紹介してみたい。
*記事の全文は下記URLからダウンロード可能です。
http://www.downtoearth.org.in/node/2256
記事には幾つかのデータも示されている。
1)MFIが10月29日に州政府に提出した資料によると、AP州の農村貧困世帯の50%は複数の金融機関から借入を行なっている。その借入金利は、21.2%から60.5%まで広がる。
2)同じ資料によると、借入人の80%以上が非農業部門従事者である。農村貧困層の大半は、野菜を売ったり、牛乳販売店を営んだり、機械クズ鉄解体業を営んだりしている。MFIは農民でない人々に毎週20億ルピーを貸し付けている。
3)SERP(Society for Elimination of Rural Poverty)が作成したレポートによると、AP州で最近起きたMFIの返済取立てに関係したとみられる54件の自殺のうち、45件は土地なし層によるものである。
4)ある調査によると、農村での借入人のわずか3%の人しか銀行からの借入について返済の自信がない。
長文にお付き合い下さりありがとうございました。
*記事の全文は下記URLからダウンロード可能です。
http://www.downtoearth.org.in/node/2256
エガ・モウニカは借金の中で生まれ、育ち、そして借金にまみれて命を落とした。ワランガル県カリーマバード村に住む20歳の大学生は、9月25日に自殺を試みた。3日後、彼女は息を引き取った。「娘は私達を借金地獄から解放したかったのです」―そう言うのは彼女の父親ラクシュミ・ナラヤンである。彼は娘を救おうとして火傷を負った。彼はパーン屋(マウスフレッシュの噛みタバコ)を営んでいるが、その経営は常に借金漬けだった。どこの銀行も彼に融資をすることはできない状況だった。5年前、あるマイクロファイナンス金融機関(MFI)がモウニカの母親にアプローチし、1万ルピーの融資を申し出てきた時、モウニカは即決で借入をすることにした。彼女はミシンを購入し、仕立屋を開業した。学業と仕立屋の仕事とに自分の時間を費やした。「最初の2週間はよかったのです」-ナラヤンは振り返る。「でも、すぐに債務不履行に陥りました。」融資返済は、マイクロファイナンスの場合、週1回行なわれるのが通常だ。こんな話も載っている。
こうして一家は借金の迷路に迷い込んだ。誰も出口がわからなかった。一家は借金を返済するために他から新たに借り入れ、そしてさらに深みにはまっていったのである。債務不履行を防ぐには他から別の融資を受けるしかなかったのである。「私たちは4つの異なる金融機関から4回、合計8万ルピーの融資を受けました」-ナラヤンはこう言う。しかしこれは解決策には絶対ならなかった。一家は1カ月4,500ルピーを稼ぐ一方で、月1万ルピーを返済せねばならなかった。5本もの借金を抱え、モウニカの家族はほぼ毎日返済に追われた。最後の3年間は、高利貸しから120%の利率で5,000ルピーの緊急融資を3回受けた。5年間の間ほぼ毎日、MFIの借金取立人が家を訪ねてきて、そして凄んだ。「我が家には安らぎなどもはやありませんでした。家族は崩壊してしまったのです。」
9月25日、借金取立人はモウニカの母親に、モウニカ本人を売りとばして返済するよう迫った。モウニカは死を選んだ。家族がショックから立ち直るまでもなく、借金取立人はまたやって来た。ナラヤンが、時間的猶予が欲しいと求めたが、取立人はこれを拒絶し、MFIのビジネスモデルではそんなことは許されていないと述べた。借入人が自殺をした場合、貸付金融機関は保険会社に保険求償ができる。どうりでMFIのエージェントは自殺をけしかけるわけだと人々は噂している。
ジャワハル・コロニーのモハマッド・サイーフは幸運だと思っている。彼の母親は10月20日に自殺を試みたが生還したからだ。母親は4つの金融機関から20万ルピー相当の融資を受けた。しかし、400週以上にわたって返済をしたにも関わらず、債務残高は依然15万ルピーもある。サイーフは自分のオートリキシャーを売却した。親子が経営していた小さなホテルも閉鎖されている。他言を要しないだろう。さらに記事のエピソードは続く。
2006年、彼の母親は他の13人の近所の女性と自助グループ(SHG)を作った。州政府のインディラ・クランティ・パタム(Indira Kranthi Patham)プログラム(SHGのグループ貯蓄を銀行融資とリンクさせる政策)の下で、1年間毎月貯金すれば、銀行融資も受けられることになっていた。しかし、たった3人のみがSHGから融資を受けることができたに過ぎない。
「私は足を抜けました。そしたら、MFIの人が家に来て、14,000ルピーをくれたのです」-住民の1人であるサロジニ・ラティピッリはこう述べた。彼女はサリーの店を開いたが、サリーが売れるのは3、4日に1枚に過ぎなかった。このため、最初に借りた融資を返済するのに別の融資を受けなければならなくなった。4年後、彼女の借金は4本にもおよび、毎週の返済額は彼女が毎週稼ぐよりも10倍も多いという。
ワランガル県パルブータギリ郡エヌガルー村のバギヤラクシュミ・マヒラ相互組合(Bhagyalaxmi Mahila Multi-aided Cooperative Society)のプログラムは借入人を裏切ることはなかった。幾つかのSHGが組合員となり、グループ貯蓄残高を示すことで国営銀行から融資を受けることができる。返済率は80%は確保できている。悪くない数字だ。この組合は、マイクロファイナンス金融機関(MFI)とは違い、組合員に対して利益を分配する。今年は総額30万ルピーの配当金を出し、それとは別に50万ルピーを内部留保して将来の銀行融資に備えた。「MFIの借入金利36%に比べたら、15%の借入金利は天国みたいなものです」-トゥリ・ラクシュミ組合長はこう述べる。ワランガル県で起きていることは他の22の県でも起きている。ここではインドのMFIの75%が何らかのプログラムを実施している。記事はこれを「農村金融危機(rural credit crisis)」とか「インド農村版のサブプライム危機(rural Indian version of the subprime crisis)」と呼んでいる。
しかし、状況は変化しつつある。銀行が組合への融資を突如ストップしたのである。今後はSHGに直接融資するのだという。バギヤラクシュミは一種のイノベーションだった。農村金融に関する政府のハイレベル・パネルでも推奨されたことがあるビジネスモデルだ。「1SHGに対する平均融資残高では銀行にとっては十分な水準とはいえません。でも銀行は組合を認めたくないのです」-AP州の2,174ものSHGをメンバーとする組合の連合組織であるサンガティータ・マヒラ連盟(Sanghatitha Mahila MACS Federation)のT.ユガンダールはこう指摘する。この連盟では最後の銀行融資は2008年4月にまで遡らなければならない。「すぐに融資実行してもらえる融資枠がなければ、私達は農村部の貧困層に対して融資実行することはできません。そこにMFIが入り込んできたのです。」
記事には幾つかのデータも示されている。
1)MFIが10月29日に州政府に提出した資料によると、AP州の農村貧困世帯の50%は複数の金融機関から借入を行なっている。その借入金利は、21.2%から60.5%まで広がる。
2)同じ資料によると、借入人の80%以上が非農業部門従事者である。農村貧困層の大半は、野菜を売ったり、牛乳販売店を営んだり、機械クズ鉄解体業を営んだりしている。MFIは農民でない人々に毎週20億ルピーを貸し付けている。
3)SERP(Society for Elimination of Rural Poverty)が作成したレポートによると、AP州で最近起きたMFIの返済取立てに関係したとみられる54件の自殺のうち、45件は土地なし層によるものである。
4)ある調査によると、農村での借入人のわずか3%の人しか銀行からの借入について返済の自信がない。
SHG-銀行連携プログラムは大ヒットとなった。女性は最初貯金から始める。14人のグループであれば1人当たり月30~40ルピーは貯める。それを1年続ける。銀行はこの貯金を担保とし、それと同額かないしはそれ以上の金額を14~15%の金利でSHGに貸し出す。SHGはそれを借り手の返済能力に応じて16~24%の金利でまた貸しする。2006年以降は、パヴァラ・ワリ(Pavalla Wadi)スキームに基づき、SHGのメンバーは3%の金利負担だけでよくなっている。残りは州政府が負担する。この部分を読むと、問題は利用者側の能力を配慮せずにMFIが貸付をやりまくったこともさることながら、そもそもの制度の不備だとも読める。資金需要に応えきれずに高利貸し依存を許してきたことの方が問題として大きく、マイクロファイナンスがニーズに十分応えていないという逆の結論が出てくる。
AP州は全国で最も多いマイクロクレジットグループを擁する。SHGの数は975,362にのぼり、会員数は1,100万人だ。SHGの数は過去10年で10倍に増加し、州の農村女性の90%近くをカバーしている。
ハイデラバードにある経済社会研究センター(Centre for Economic and Social Studies)が行ない、5月に公表されたインパクト評価によると、マイクロクレジットは多くの人々を助けたが、その総額は不十分だったという。SHGメンバーは、必要資金の71%をインフォーマルな金融市場(高利貸しや親類)から60~120%というレートで調達していた。
約10万のSHGはまだ銀行とも繋がっておらず、融資が受けられない。ワランガルのカカティヤ大学で経済学を教えるクラパティ・ベンカタナラヤナ教授によれば、「このことがおそらく国営銀行がなぜSHGに対してあまり融資をせず、MFIに大型貸付を行なっているのか理由を物語っています。これは2005年以降のトレンドなのです。」
もう1つの問題は12%の借入金利補填措置である。人々は15%の利息を銀行に対して支払う。SHGが融資を完済したと確認されれば、政府は金利12%分をSHGの口座に直接精算入金することになっている。しかし、そこには落とし穴がある。フリーの業界ウォッチャーであるラマ・ジョティによると、「銀行の完済確認手続きは遅れ気味で、補填金が実際に入金されるまでには1年から2年かかっています。MFIが参入してくる余地が拡大したのは制度の欠陥を是正する措置を適切に取らなかった政府に責任があるが、営利目的で参入してきたMFIも、高利貸しほどではなくても公的制度で適用される15%よりは高い金利で貸出を行なっていて、しかも返済確保の方策がえげつないということが書かれているのかなというのが結論となるのだろうか。
時間ももう1つの要素だ。SHGが銀行融資を受けるには融資審査で3、4ヵ月、さらに融資実行までに1ヵ月がかかる。SERPのB.ラジュセーカーCEOによると、「多くの銀行はSHGに集めた貯金から融資を行なうのを認めていません。これが利用できる借入の余地を狭めています。」
こうした資金供給面でのギャップの拡大から、人々は融資を受けるのにMFIに頼るようになっていったのである。こうしてMFIが市場シェアを拡大していったとMFINのヴィジェイ・マハジャン会長は説明する。MFIN(マイクロファイナンス金融機関ネットワーク)は営利型MFIの自主管理を目的とした業界団体だ。MFIの融資は借入希望者に3日で届く。担保不要だが、返済を確実にするには2つの方法がある。合同債務グループ(Joint Liability Group、JLG)を形成し、メンバーの誰かが債務不履行に陥るとグループ全体で責任を取るという方法と、もう1つは強制取立である。後者の場合、MFIの取立代理人は給料の55%部分について返済金回収が目標額をどの程度達成したかに応じて手取り額が変動するインセンティブ契約を結んでいる。
長文にお付き合い下さりありがとうございました。
インドのMFI金融の危機はアフリカまで聞こえてきていますが、ここに書かれているような融資はMFIとは呼べないのではないでしょうか。
返済する術を確認してから融資するという手間をかけるからこそMFIの金利が高くなるのであって、重債務者に返済能力の確認なく融資するのはMFIの概念から外れると思います。重債務者を確認するためのCredit Bureauはインドでは機能していないのでしょうか。
by 支配人 (2011-01-25 22:13)
アンドラプラデシュ州の全世帯の内、非公式債務を負っているそうです。ここでいう非公式債務とは友達から借りたりとか、地主や高金利貸しから書類を通さずに借りているお金です。そのためCredit Bureauも何もないのではないでしょうか。インド人の人口の内90パーセントもの人たちは未だに金融サービスにアクセスしたことがないそうですし管理するのは大変そうですね。あくまで推測ですが。。。
by raikami (2011-07-31 03:03)