『ロロ・ジョングランの歌声』 [読書日記]
内容(「BOOK」データベースより)僕のブログを読者登録して下さっているmika_mさんが書かれた小説である。mika_mさんはご自身のブログの中で、今年の目標として本の出版を挙げておられるが、それが実現するかどうかは『ロロ・ジョングランの歌声』の売れ行きにかかっているとも仰っている。直接の面識はないけれど、同じような業界に身を置く立場の僕としては、mika_mさんのように小説を通じて途上国の実態、開発援助の実態を紹介されている方には頑張っていただきたいと思うので、元々「本」ブログである僕のサイトでも紹介させていただくことにした。
東ティモールで殉死した従兄・中瀬稔の後を追い記者になった藤堂菜々美は、中部ジャワ地震の被災地取材の機会を得る。援助する側と取材する側の確執を知り、単純な正義では語れない国際協力の表と裏に葛藤する菜々美。更に、稔の死をめぐる疑惑までが浮上する…。女性記者の仕事と恋、ODAをめぐる政治と経済を描きながら、経済格差が存在する世界で個人はいかに生きるべきかを問う意欲作。第1回「城山三郎経済小説大賞」受賞作。
女性作家が描く女性主人公の作品だから、全体的なトーンにも柔らかさが感じられ、被災地や紛争終結地域のような厳しく生々しい場所を舞台としながら、その現実を伝えようなどとガツガツしたところがなかったのはかえって抵抗感なく読める気がする。読者に、「大変ですね」という言葉で片付けられ、それらを対岸の現実ということで整理されてしまうことなく、「自分も関わってみたい世界」とちょっとでも思わせるような描き方だった。都合よくいろいろな出来事が続けて起きるところは若干首を傾げたけれど、フィクションなのだからドラマ性を持たせなければ本としては売れないだろうというのはとてもよくわかるので、それが減点材料になるとは僕は思わない。従妹が従兄のことをこれほど慕うことができるのかどうかも少し疑問だったが、これは女性の立場に立ってみないとわからない。主人公の女性記者に付き合っている彼がいるところはいいとして、出張先で会ったフリーのジャーナリストの荒々しさに主人公が一瞬心を許すところや、編集部の上司が陰ながら主人公を支えている話なんかが散りばめられていたので、この恋の行方はどうなっているのかなと考えながら読み進めた。こうして気にかけてくれる男性が周囲にいるというのは羨ましいことです。男性が作家だったら、きっとこういう描き方にはならなかっただろう。
さて、本書を紹介するにあたっての核心的部分というのはインドネシアや東チモールのエピソードから一般化してODAが持っている影の部分を描いているところにある。ここに書かれていることは巷間よく見られるODA批判をなぞっている。それを具体例に当てはめるとこんな感じなのですよというメッセージが読み取れるであろう。こういうことがあるから大型の経済インフラ案件が日本のODA総額のうち大きな割合を占めているのだろう。
ただ、これを読むとODA全体を悪者視されてしまうという危惧も感じる。本書を読めば多くの読者が、ODAの大型インフラ案件の受注に蠢くコンサルタントと被災地での救援活動に従事するNGOボランティアを対比させ、前者を悪者と決め付けるであろうことは容易に想像がつく。このイメージが独り歩きして、ODAよりもNGOボランティアの方がやられていることが常に高尚でふた心がないと思われるとしたら不本意だ。
だから著者のmika_mさんにはお願いしたい。次は技術協力のODAが絡んでくる作品も書いていただきたいと。
専門家でも開発コンサルタントでも青年海外協力隊でもいい、そんなに巨額のカネが動くようなスケールの大きな話でなくていいので、小さくてもちょっといい話を取り上げて欲しい。技術協力に携わる人たちが、その場その場で何を考え、どんな行動をしてきたのか、勿論活動報告書から読める部分はあるわけだが、なぜ途上国に行く気になったのかとか、行っている間に国に残してきた彼女(彼氏)や家族との間にどのようなやりとりがあったのかとか、専門家ないしはボランティアとしての本来の活動の他に何か地元の人々と交流していたような心温まるエピソードとか、そこまで描かれたコンテンツはこれまでなかったと思う。技術協力に携わる人々が何に悩み、何に喜びを感じていたのかを、小説という形で描いてもらえたらとても嬉しい。
おそらく本作品を読んだ多くの読者が、「考えさせられた」という感想を述べられるだろう。僕もそうだ。主人公がインドネシア在住の日本人フリージャーナリストと激論を交わしている場面を読んでいたら、僕が今ブログでやっていることも責められるだろうと考えたりもした。実際に行って見たこともないような場所で起きた出来事について、匿名で、しかも自分が傷つかない場所から批評や批判を繰り返しているに過ぎない。理由あって匿名は維持しなければならないのだけれど、行動をもっと伴わないと無責任だよなあと恥ずかしくなった。
こんにちは。ブログの散歩でよくお邪魔する「ロロ~」の著者です。
レビューを書いて戴き恐縮です。有り難うございました。
出版界はささやかな美談をなかなか受け入れてくれないのが現実です。日本のメディア世界に打って出るには、かなりの迎合や、相手の期待している部分を表現しないと困難なのかなと、ドンキホーテになった気分になります。もう少しジタバタしてみるつもりですが、我々がいる世界とマスメディアの違いを実感する今日この頃です。
でも、「ロロ」を本当に読みこなす人は、ODAの単純批判とは思わないはずですよ。現場で泥まみれになって仕事をする日本人たちの悲哀&誇りや、青臭い理想論だけでない国際社会をこの小説から受け取ってくれると私は信じています。自虐的ですが、コンサルとして書ける精一杯の「屈折した英雄伝」のつもりだったりして(苦笑)。
by mika_m (2011-01-22 02:02)