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安かろう悪かろう(2) [インド]

DTE2010-11-30.jpg一昨年12月、タタ・グループが999ルピーの超廉価浄水器を発表した。これだったら農村の低所得者層でも購入できるのではないかと結構な期待に胸を膨らませたものだ。その後、この超廉価浄水器「スワチ(Swach)」を砒素汚染地下水の浄化にも使えるのではないかという話まであった。本当にそうなら、巨額のカネを投入して地表水の浄化をやったり、下痢症対策のプロジェクトをやったりせずとも、低所得者層はスワチを購入さえすれば問題解決にかなり繋がる。今までインド政府が外国の援助資金まで投入して取り組んできた様々な保健衛生プログラムが、市販の浄水器で解決してしまうとしたら、スワチは既存の政府プログラムに対する相当強力なキラーアサンプションになり得る。
*当時書いたブログ記事はこちらです。
 http://indiacolumnarchive.blog.so-net.ne.jp/2010-01-07

スワチの普及度合いを見届けるよりも先に帰国の途についてしまったので、その後どうなっているのかわからないでいた。そんな時、インドの隔週刊誌「Down To Earth」が、2010年11月16‐30日号の記事で廉価浄水器の記事を取り上げているのを見つけた。「彼らの主張はどれだけ純粋なのか?(How pure are their claims?)」(Bharat Lal Seth記者)という記事である。浄水器市場は拡大しているが、規制がないために消費者はそのクオリティについて知るすべがないというのが全体的な記事の主張だ。
*記事全文は下記URLからダウンロード可能です。
 http://www.downtoearth.org.in/node/2252

この記事を読んでいて驚いたのは、タタの「スワチ」だけが異常に安いというわけではなく、1,000ルピーから1,500ルピーの価格帯の浄水器は他のメーカーも結構製品を投入しているという実態であった。
 アクアシュア(ユーレカ・フォーブス社) 1,390ルピー
 ピュアライト(ヒンドゥスタン・ユニリーバー社) 1,000ルピー
 ゴールド(ケント社) 1,295ルピー
 スワチ(タタ・ケミカル社) 999ルピー
 ウォーターガード・スプリング(ウシャ・ブリータ社) 1,499ルピー
以下、この記事のポイントをかいつまんで紹介してみたい。

毎年、インドでは約50万世帯が浄水器を購入する。毎年浄水器市場は平均15~20%のペースで拡大しており、現在は150億ドルにまで達している。業界アナリストによると、特に低価格浄水器の市場は年40%の超ハイペースで拡大しているという。

しかし、30年前までは、殆どの家庭では水を煮沸するか、キャンドル型フィルターを用いて泥やバクテリアを除去して使っていた。

1980年代になり、ユーレカ・フォーブス社が始めてインドの浄水器市場を開拓した。「アクアガード」と呼ばれるブランドで、僕がインドで駐在員をやっていた時も、アクアガードを我が家では利用していた。1980年代のアクアガードは市場の7割を占有する大ヒットブランドで、ここに1990年代になってケント社やイオン・エクスチェンジ社が参入し、RO(逆浸透膜法)浄水器が投入された。しかし、当時の浄水器はハイテクの粋を集めたもので、高価であったために、都市部の高所得者層ぐらいしか購入・利用することができなかった。

2000年代になると、ヒンドゥスタン・ユニリーバー社が、電気を使わない浄水器「ピュアライト」を2004年にチェンナイで発表した。価格は2,000ルピーだった。ピュアライトは常時流れている水も電気も必要としなかったため、製品への需要が大きく拡大した。

2007年にはセラミック型浄水器で世界市場をリードするフェアリー・セラミック社がインド市場に参入してきた。従来より技術的にはローテクと言われてきたキャンドル型フィルターだが、同社のフィルターは多孔率が0.5μと高く、かつバクテリアの成長を抑制するために銀が充填されて機能が高かった。にも関わらず価格は2,000ルピー程度に抑えられていた。

これに対し、ヒンドゥスタン・ユニリーバー社は2008年、ピュアライトの販売網を全国の都市に拡大する戦略を取った。ピュアライトの価格を1,000ルピーにまで値下げし、より購買力の低い消費者でも手が出せる価格水準にするとともに、全国1,500都市に販売拠点を設けた。これにより350万世帯がカバーされるようになった。2009年12月、タタ・ケミカル社がスワチを発表した。

しかし、プネにある国立ウィルス学研究所(NIV)が行なった検査によると、対象となった8つの浄水器ブランドのうち、ウィルスを完全除去できたのはわずか2ブランドのみだったという。検査対象には超低価格ブランドから複数のプロセスから成る念入りなシステムを持つ浄水器まで含まれていたが、その殆どがE型肝炎などのウィルスを除去できなかったのである。

インド国内のラボでは、バクテリア除去能力の検査は可能だが、ウィルス除去能力の検査には外国のラボに頼らなければならない状況だという。従って、浄水器の水質浄化能力を保証することはインド国内だけでは難しいのである。

その上、低価格浄水器の場合、メーカーはクロムや臭素、ヨウ素といった化学物質を消毒薬として使用している。しかし、この化学物質の使用についてはガイドラインがなく、メーカーは低コストを維持しつつ浄化能力を高めるのに相当量の化学物質を使っている。そうした化学物質には人体に有害なものも含まれている。発がん性物質もあり得るのである。

このため、化学物質の使用に関して何らかの基準が制定される必要があるというのが消費者団体の主張である。実際、インド標準局(Bureau of Indian Standards)は、浄水器業界の代表者の参加も得て、基準制定に向けた特別委員会を12月に組織した。

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低所得者層でも購入可能だからといって、それが十分安全性が高いとは限らないというのがこの記事の含意である。

暫くご無沙汰しておりましたが、今後も最低週1回ぐらいは、インドの雑誌からネタを拾ってきてご紹介できるようにしたいと思っております。
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