『ガロを築いた人々』 [読書日記]
内容(「BOOK」データベースより)先週末は、読書に絡めて紹介できる出来事があった。その1つは、NHK朝の連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』が最終回を迎えたこと。僕が6月末に帰国した頃は丁度水木しげるの漫画が売れず、夫妻と娘が赤貧生活を強いられていた頃だったが、そこからだんだん水木作品が認められるようになっていったため、面白くてほぼ毎日欠かさず見ていた。それがなければもっと早めに出勤するというのが僕の日課になっていただろう。
本書は1970年前後、著者とともに『ガロ』に情熱を傾け、時を経ずして中堅作家と認められていった作家たちの著き姿を、出会いから始まり、個々の作家の作風、日常のエピソード、そして性癖や人となりまで、表現豊かに、肌理細かく描いている。
次から次へと仕事が舞い込むようになると、人手が足りなくなる。そこで、プロダクションを設立し、何人かのアシスタントを抱えるようになる。初期のアシスタントだった倉田君や小峰君はモデルが存在する。それぞれ、池上遼一、つげ義春だという。倉田君がアシスタントになる経緯はドラマと実際とはほぼ同じで、漫画雑誌『ゼタ』に掲載されている倉田君の漫画を見た水木しげるが、「倉田君をアシスタントに欲しい」と出版社を通じて本人に伝えたところ、すぐに上京してきてアシスタントになったという。この『ゼタ』という雑誌は、実在した漫画雑誌『ガロ』をモデルにしている。ドラマで村上弘明が演じていた『ゼタ』の深沢社長というのは、『ガロ』の長井勝一社長がモデルであることは言うまでもない。小峰君の登場の仕方はちょっと違和感があったが、そのモデルであるつげ義春も初期の『ガロ』を彩った漫画家の1人ではあった。
しかし、僕はこの『ガロ』という雑誌についてはあまり知らない。
『ガロ』は1964年に創刊されて2002年に廃刊となるまで約40年の歴史がある。当然ながら僕が生まれて間もない1960年代や1970年代前半の『ガロ』については記憶自体がないし、僕の漫画との関わりは1975年に週刊『少年ジャンプ』で「サーキットの狼」にハマってからのことになるので、『ジャンプ』や『マガジン』『サンデー』といった有名漫画雑誌の方に直接目が向いていた。中学から高校、大学、社会人に至るまで、『ジャンプ』は『ヤング・ジャンプ』『ビジネス・ジャンプ』と読者の成長に合わせた雑誌のラインナップを充実させ、同様の傾向は『マガジン』や『サンデー』でもあった。社会人向けということでは、『モーニング』や『ビッグコミック』がある。結局、40代半ばに至るまで、『ガロ』に触れる機会がなかった。
水木しげるに因んで、水木の漫画が掲載されていた頃の『ガロ』がどんな感じだったのか、そして水木プロのアシスタントだった池上やつげの当時の作品がどんなものだったのか、さらにはそうしたアシスタントに囲まれた水木プロダクションの日常というのがどんな感じだったのか――そんなことを知りたいと思い、たまたま市立図書館で見つけた本書を借りてきて読んでみた。
著者が『ガロ』の出版元である青林堂に勤めたのは1966年から71年にかけてのことで、『ガロ』を彩った漫画家たちとの交流もその後長く続いている。だから、その頃出会った漫画家のその後までちゃんと描いているならそれはそれでいいと思うのだが、その後自ら北冬書房を興して別の漫画作品集『夜行』を創刊し、そこで取り上げた作家まで紹介している。正直言うと本書の終盤で登場する漫画家とは、『夜行』編集者として接しており、どこが『ガロ』なのかよくわからないという印象だった。また、『ガロ』以降の池上遼一については全く言及しておらず、物足りなさは感じた。
ただ、初期の水木プロダクションの雰囲気を垣間見ることができる記述は多い。池上遼一とつげ義春が、同じプロダクションに属しながら『ガロ』を舞台にして次々と作品を発表していった頃のことを、著者は「よきライバル」と評している。
池上さんが水木プロの一員となると同時に、私の水木プロ詣も回を重ねていった。というのも、『ガロ』で水木さんの「鬼太郎夜話」の連載が始まったからである。いわば、池上さんの水木プロへの導入も、「鬼太郎夜話」の連載が前提となっていたのかもしれない。私は、毎日、締切近くに水木プロを訪ねた。水木さんは、1日も遅れずに締切を守ったので、原稿とりで苦労した憶えは一度もない。むしろ、水木プロ訪問は、一番の楽しみでさえあった。水木さんをはじめ、つげ義春さん、池上さん、そして最古参の北川さんとの会話が待っていたからだ。
「鬼太郎夜話」が完全に仕上がってくるあいだの1時間、2時間を水木語録で笑い転げた。ときに、”秘密の小部屋”に案内してくれたり、数十の日本海軍の軍艦のプラモデルが飾ってある部屋で、「じつはつげさんはですね……」と内緒話に興じたりした。
「つげさんが死んだらマンガで画きたいことが盛り沢山あるのですが、まだ死にそうにないですか?つげさんこの前かなり憂鬱そうな表情してましたが、どうしたんですか?もうじき自殺されるとか!」
などと、冗談にもほどがある、という内容であったが、階下で仕事に精を出しているつげさんの姿を想像するほどに、水木さんのつげさんへの想いがしのばれるようだった。
そういえば、この頃、つげさんはよく旅に出ていた。水木プロに顔を見せないだけでなく、つげさんの部屋に寄っても留守のことが多かった。水木さんは、
「女にふられて、傷心の旅にでも出たんですかねぇ」
と喜んでいた。つげさんが留守のときは、つげさんの隣り部屋に住んでいた北川さんのところに寄って、つげさんの作品の話などした。北川さんにとって、つげさんは水木さんとは違った意味で恩師だったのかもしれない。(pp.97-99)
やっぱり、『ガロ』の初期の雰囲気を味わいたければ、実際の『ガロ』を読んでみた方がよい。本書にも各漫画家につき1頁程度その作風を紹介する漫画のコマが挿入されているが、これだけでは全体の雰囲気がよくわからない。どこかで読めないものか、昔の『ガロ』―――。
さてさて、贔屓にしていた朝ドラが終わり、今週からは別のドラマがスタートしたが、もう少し早めに出勤して朝型の仕事スタイルに変えたいと考えている。本当は今日(27日)からそうしたかったのだが、このところの気温変化の激しさで体調を崩してしまい、1日お休みを取るはめになった。子供の頃から季節の変わり目に弱かったことは弱かったのだが、いきなり出足で躓いてしまった感じで、後味の悪さが残る月曜日となった。
ガロとCOMはよく読みました(^O^)/
by nmzk (2010-09-28 22:16)