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インドの労使関係 [インド]

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9月15日(水)午後、(財)国際労働財団(JILAF)主催による公開セミナー「BRICs諸国における労使関係の新たな潮流-持続可能な経済発展における労働組合の役割-」というのに少しだけ顔を出してきた。「少しだけ」と付けたのは、BRICsといってもインド以外の国の労使関係についてはあまり興味がなかったからで、僕はインド全国労働組合会議(INTUC)タミルナドゥ州支部のジャガナタン・ラマスワミ事務局長のお話だけちゃんと聴いて、第1部が終って休憩時間に入ったと同時に抜けて来てしまったのである。

僕はインドに駐在していた時にJILAFの方々とは少しばかり交流があり、2年前にうちの職場で受け入れた日本人学生インターンを、アンドラプラデシュ州マーカプールに行かせ、JILAFが支援している地元の学校で見学受入れをしてもらったことがある。残念ながら僕自身は訪問したことがなく、今となってはもう未来永劫訪問の機会は訪れないだろうと諦めた。

*マーカプールでの「児童労働撲滅のための学校プロジェクト」は以下のURLをご参照下さい。
 http://www.jilaf.or.jp/genpro/childlabor.html

このプロジェクトは児童労働対策を推進するためのもので、インドの労働組合運動のナショナルセンターであるINTUCと協力し、8~14歳までの「最低限必要な教育からも見放された貧困層の子供達」を対象にした非正規学校を運営し、公立学校への編入を最終目標に、基礎教育を受ける機会を提供している。インドでは、タミルナドゥ州コビルパティで実績があり、2004~09年は採石場で働く児童が多いアンドラプラデシュ州マーカプールで1校を運営、さらに2009年からはマーカプールでさらに1校を立ち上げ、採石場で児童労働に従事していた子供達に、週6日間、①国語、②英語、③算数、④社会、⑤理科、⑥音楽、⑦体育、といった授業を開講している。新マーカプール校への支援は2014年まで継続される予定だ(JILAFのプロジェクトパンフレットから)。

JILAFからの支援が終了した後の学校がどうなっているのかには少し興味もある。

さて、公開セミナーの方に話を戻そう―――。

セミナーの内容については何らかの形でJILAFのHPに掲載されるだろうからあまり詳述するつもりはないし、INTUCのラマスワミ事務局長のお話も、配布された講演原稿の日本語訳を読み直してみても、もっと知りたいと思うところで詳述せずに全然別の話題にすっ飛んでいる箇所が幾つかあり、正直あまりわかりやすい講演ではなかったと思う。ましてや、「持続可能な経済発展に向けた労働組合の役割」とセミナーのサブタイトルで謳っている割にはそれらしいニュアンスが感じられないお話であった。

そこで、せめてインドの労働組合運動について、ポイントだけでも紹介しておきたい。

1)インドでは労働組合法の下、全国で8万人以上が加入した労働組合がある。しかし、INTUCのようなナショナルセンター(他にも全国に10以上のナショナルセンターがあるらしい)に加盟している労組は2000~3000しか存在せず、それ以外の労組は各職場で独立して活動している。一般には公務員や公営企業の労働組合活動の方が民間の産業別組合(保険金融、鉄道、港湾など)よりも活発である。

2)5億人以上の労働者がいても、組合加入が8万人程度に過ぎず、INTUC加盟労組の組織化率も労働者総数の8%程度に過ぎない。このうち60%強は公務員ないし公的部門の労働者である。近年、労働組合は、建設労働者や家内労働者、小売店主、製パン業や小さなホテルの従業員、農業従事者、露天商、運転手や仕立屋といった未組織部門の組合勧誘に力を入れている。

3)しかし、民間部門における組合員数は年々減少する傾向にある。それは、経営者側で被用者に希望退職制度を導入しようとか、従業員を契約労働者や見習工制度に留めるといった形で労働者を牽制する動きがあるからだという。経営者側では被用者の終身雇用を望んでいない。終身雇用される組合員があまりに少ないために、経営側と組合の団体交渉が適切な形で行なわれることも望み薄である。

4)こうして、多くの地域で組合員減少によって組合の収支が悪化し、多くの小規模な労組では財政的に組合の適切な運営が困難な状況に陥っている。

*INTUCについては、今年5月のJILAF講演会の講演録も参考になる。詳細は下記URLにて。  
 http://www.jilaf.or.jp/rodojijyo/asia/south_asia/india2010.html

ラマスワミ事務局長の講演原稿を読み返してみて正直思ったのは、インドの職場にいたあのインド人スタッフは今でも解雇しようと思えば本当はできたのではないかということだった。幸か不幸か職場で労組を結成しようという動きは見られず(それほどインド人スタッフの間に結束力があったとも思えなかったし)、団交などある筈もなかったが、そういう状態だったからこそ、勤務態度が極端に悪かった彼をクビにしても、時間と費用のかかる法的手続きを彼自身が取るとは考えにくい。講演内容によると、従業員が解雇された場合に組合が彼らの再雇用を求める裁判を起こすのはかなり難しいということだが、組合も存在しないような状況ならば、即行動を実行しても大きな影響は出ないのではないかと思う。

断わっておくが、僕は別に悪意があって言っているのではない。逆に、容易に解雇できないと思い込んだ経営側が解雇措置を取ることはないだろうと経営側の足元を見透かし、手抜きをして周囲に迷惑をかけ続けてきた某スタッフの方が、よほど悪意があるとしか思えない。
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