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『緑の革命とその暴力』(1) [ヴァンダナ・シヴァ]

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緑の革命とその暴力

  • 作者: ヴァンダナ シヴァ
  • 出版社/メーカー: 日本経済評論社
  • 発売日: 1997/08
  • メディア: 単行本
内容(「MARC」データベースより)
大量の化学肥料と農薬、病虫害のまん延、遺伝子を組み換えられた作物、地球規模の砂漠化、そして水争い…。欧米主導の農業革命は、地球に何をもたらし、一体誰を豊かにするのか。
生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が10月に名古屋で開催されるのに先立ち、丁度タイミングが良いのでヴァンダナ・シヴァ女史の著作を幾つか集中的に紹介してみたいと思う。ヴァンダナ・シヴァ女史のことはこれまでにもブログで1、2度言及したことがあるが、インドの書店ではなかなか著作にお目にかかる機会がない一方で、訳本は日本でも数冊出ており、インド人の学者兼社会運動家としてはアルンダティ・ロイ女史とともにかなり名前が知られている1人である。日本に帰ってきたらその著作をいずれ読みたいと思っていたが、COP10前の方が話のネタとしては新鮮なので、9月はできる限りヴァンダナ・シヴァの人と思想に触れる月間としたい。

少し前に「緑の革命の父」と呼ばれるノーマン・ボーローグ博士の自伝をこのブログでも紹介し、その際にも「ボーローグ博士が遺伝子組換え種子の導入に積極的賛成の立場を取っておられるところは、予想はしていたけれど少し残念」といったコメントをしたと記憶している。ボーローグ博士の功績についてはいろいろな面から賛否両論が出ている。ヴァンダナ・シヴァ女史はボーローグ博士を全く評価していない。むしろ徹底的に批判しているというのは本書のタイトルを見れば一目瞭然だろう。

本書の内容については、訳者による解説がコンパクトなので、本日はその部分(pp.276-277)から抜粋させてもらう。その上で、次回は本書から気になった記述を引用することにしたい。

1960年代初頭、インドには米国ロックフェラー財団、フォード財団、米国政府、世界銀行、CIMMYT(国際トウモロコシ小麦改良センター)等が緑の革命を持ち込んだ。インド亜大陸北西部、インダス水系の中流域で、インド植民地下の19世紀半ばに大用水路網が建設されて豊かな農業地帯となっていたパンジャブ州は、この緑の革命においてインドの穀倉地帯となるべく選ばれ、米国式の農業モデルの実験場となった。当初は収量も増え、農民の収益も上がって緑の革命の成功例と宣伝されたが、1980年代に入る頃には早くも稲と小麦の生産性は限界に達し、農民の収益は低下した。科学技術によって自然を征服することを基本とする緑の革命で、パンジャブ州が失ったものは大きい。稲と小麦の単一栽培によって、人々の食と栄養を支えてきた多様な作物と品種が失われていた。大量の化学肥料を必要とする高収量品種(HYV)は、新しい病気と害虫を招来し、土壌を汚染した。在来種の3倍もの水を必要とするHYVは、灌漑による湛水と塩害で農地を不毛の荒地に変えてしまったという。

緑の革命の暴力は自然を生態学的に崩壊寸前にまで追いやった。それだけではない、HYVの種子や化学肥料、農薬といった投入物は高額で、貧しい農民に負債を負わせ、多くの農民が土地を失い、農村の共同体としての社会関係をズタズタに引き裂いた。1980年代にインドを震撼させた「パンジャブ危機」は、巨大ダムの建設がもたらした水争いと地方対中央の対立に端を発している。繰り返しになるがHYVは在来種よりも水を大量に必要とするため、パンジャブ州内での水の争奪が、近隣各州との水の争奪と同様に激しさを増したのである。パンジャブ州の地方分権を求める運動は、シーク教徒の総本山「黄金寺院」に中央政府が軍隊を突入させるという事態をピークに宗教抗争の様相を強めていき、流血の暴動が多くの生命を奪い、さらにはインディラ・ガンジー首相の暗殺にまで発展してしまった。宗教抗争として噴出した暴力の根源は、資本集約的で中央集権的に行なわれた食糧生産の実験が失敗したことにあったと著者は指摘している。

緑の革命は、パンジャブ州に平和ではなく暴力を、豊かさに代わって欠乏をもたらした。

この問題については、『ナショナル・ジオグラフィック誌』が2009年6月号特集「食糧危機は克服できるか」の中でも取り上げられており、「緑の革命はインドを救ったのか」という刺激的な記事が紹介されている。なかなかコンパクトでわかりやすい記事なので、URLを以下に紹介しておく。
http://nng.nikkeibp.co.jp/nng/magazine/0906/feature01/_03.shtml



The Violence of the Green Revolution: Third World Agriculture, Ecology and Politics

The Violence of the Green Revolution: Third World Agriculture, Ecology and Politics

  • 作者: Vandana Shiva
  • 出版社/メーカー: Zed Books
  • 発売日: 1992/10/15
  • メディア: ペーパーバック


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