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『開発NGOと市民社会』 [読書日記]

開発NGOと市民社会―代理人の民主政治か?

開発NGOと市民社会―代理人の民主政治か?

  • 作者: アン・C. ハドック
  • 出版社/メーカー: 出版研
  • 発売日: 2002/07
  • メディア: 単行本
内容(「MARC」データベースより)
国際開発の分野で活動するNGOsに焦点をあてる。低開発国に位置するNGO(南のNGO)がどのようにすれば自立的組織を確立して地域社会の開発の、そして市民社会と民主政治の担い手になることができるかを考察する。
インドでNGO活動の現場を見せてもらうのは、いつでもとても刺激的で、元気をいただくことが多い。その一方で、現地語のわからない僕が訪問することで、同行に時間を取られるスタッフの方が必ずいらっしゃる。加えて車に乗せてもらったり、訪問先でご飯やチャイをご馳走になったりしたらさらに恐縮してしまう。なんとか自分なりにお返しをしたいと思い、僕は現場を真剣に見させていただいた。活動を正しく理解するためにできるだけ多くの質問をスタッフの方にした。そして、住民の方々にも…。ホントのところはどうなのかを聞き出すために、質問の仕方もなるべく工夫した。そして、第三者の目から見た疑問や指摘に、住民から聞いてわかった本音の部分も時に交えて、できるだけのフィードバックをお世話になったスタッフの方々にするよう心がけてきた。今となっては十分できたとはとうてい思えないが。

しかし、その程度のフィードバックでは、NGOのスタッフの方々が投入した時間と費用を回収するにはとうてい足りない。僕の場合はそうしたNGO活動の直接的なスポンサーの立場ではなかったために、年に何回も同じ事業地を訪ねて、1週間単位で滞在するようなことはあまりしてこなかったが、これが本当のスポンサーであった場合、1ヶ月前でも既に現場はピリピリし始める。2007年にバンガロールに拠点を置く大手現地NGOの事務局を訪ねたことがあるが、そこの事務局長は、1ヶ月後にオランダの国王夫妻が事業地を訪問するというので受入れ準備に忙殺されかかっていた。このNGOはオランダの半官半民の国際援助組織NOVIBから事業資金を受け取って活動を展開していたのだ。そして、そんな資金供与を受けている現地NGOからすれば、スポンサーは神様であり、神様のリクエストには何が何でも応えなければならなかった。そして、これは度々このNGOが活動している地域の地元住民のニーズよりも、スポンサーの要求の実現の方がプライオリティが高いという現象に繋がっている。

本書は、著者がアフリカ・シエラレオネの現地NGOであるARDでボランティア活動に従事した1年間で、ARDの手がけた地域社会の開発事業の多くが、善意に基づき行なわれた筈の資金提供者や他のNGOによって妨げられている姿を目撃したことに端を発する(p.13)。ARDのスタッフは地元の言語を理解し、地域社会を理解し、事業が行なわれる地域の政治的情況も知っている。だから、資金提供を行なった先進国のNGOは、ARDが地元地域社会の援助実施機関として適切だと考えた。ところが実際は、この「北のNGO」がARDに資金を流すやり方が、ARDの能力、そして地域社会集団との共同事業実施能力を高めるよりもむしろ阻害したと見られている(p.14)。

例えば、ARDは、共同で事業を行なった北のNGOの1つ1つに対し、各々異なるフォーマットで、事業計画書、視察報告書、資金計画書、四半期毎のモニタリング報告書、年次活動報告書等を書いて提出せねばならず、かなりの時間を現場でなく事務所で費やしたという。さらに、これらの北のNGOから代表者が訪ねて来れば、しばしばARD側の費用で、彼らの接待に時間も費やさねばならなかった。「南のNGOsは、北のNGOsからの支援が増えるに伴い大部分の時間を事務所で費やすことに気付く」(p.23)というのは皮肉なことだ。結果として、地元草の根市民団体と共同で活動するのに強みがあると言われている南のNGOには、それに専念するのに利用できる時間が十分ではなくなる。

そして、従来からのNGO活動の分析枠組みでは、組織上の問題の分析に充てられ、これまで北のNGOや公的援助機関が行なってきた南のNGOのキャパシティビルディングでも、組織能力の強化に重点が置かれてきた。しかし、この分析枠組みでは、組織間の影響について見てこなかったと著者は指摘する。彼女によると、組織は、存続していくために外部から資源を獲得する必要があり、組織分析の出発点は、組織の資源がどのように獲得されているのかを見ることにあるという。組織が資源を持っているアクターの影響をどの程度受けるか、組織がどの程度外部のコントロールを受けることになるのかが明らかにされなければならない。南のNGOのキャパシティビルディングも、この問題の根幹の部分に取り組まなければ、NGOの南北間の力の不均等な配分を回避することは困難である(p.51)。

そこで、著者は南のNGOが能力を向上させ市民社会の発展に寄与する力を本当の意味で高めるために、北のNGOは次の2つのことを行なう必要があると主張する。
1)北のNGOsは、能力構築の焦点を、南のNGOsの組織の内部的側面の強化から外部変数(南のNGOsの外部環境)に対する取組みへと、シフトしなければならない。外部変数とは、例えば、南のNGOsが、資源の提供可能な組織との関係創出力を上げることである。
2)北のNGOsは、南のNGOsにこれまで以上に機敏に対応するために、自らの構造、手順、活動を再編しなければならない。そうすることによって、南のNGOsは前よりも機敏に地域社会集団に対応できるようになるだろう。
(p.53)
このあたりの論点は、普通に読んでいれば頷かされるところが多い。ただ、本書を読んだ印象として、欧米の大手のNGOを「北のNGO」として想定して書かれているのではないかと感じたのである。日本のNGOだったら、そもそもこんな「南のNGOのキャパシティビルディング」を全国規模で実施するような力を持っているところは皆無に等しいし、インドで日本のNGOがパートナーにしている現地NGOも、複数の州で事業展開しているような大手は自分が知る限りはそれほど多くはない。相手もそれなりにカバーエリアが狭い中小のNGOが多く、事務局もデリーではなくその地域にある。だから、こうした中小規模のNGOが現地パートナーと組んで事業を行なう場合、巷間言われているほど「NGO間の南北問題」は発生はしていないのではないかと思う。

但し、この日本のNGOの資金の出所が公的援助機関である場合、その援助機関が課している条件にかなり縛られ、それを現場に押し付けてしまう傾向はあるかもしれない。また、何らかの経緯があってパートナー関係が築かれているものの、元々現地NGOが活動範囲に入れていなかった活動を日本のNGOが新規事業として持ち込んだというケースはよく見かける。そういう場合は、現地NGOにも経験ノウハウがなかったり、スタッフがいなかったりして、双方が理解して新規事業を立ち上げ、円滑に実施していくにはかなりの困難が伴うように思う。

インドのケースを見渡してみれば、南のNGOのキャパシティビルディングは、個々の日本のNGOが考えてもなかなかできないことだと思う。この部分は、日本の場合はもう少し公的な支援があってもいいのではないだろうか。

参考までに、著者は南のNGOが北のNGOに対して独立性を維持し、地域の草の根活動組織との繋がりを強化して市民社会の発展に貢献していくための戦略として、次の4つを挙げている。
・慈善的な寄付を集める
・企業部門と取決めを結ぶ
・特別なイベントを主催する
・返済可能なローンを利用する

 (p.140)
そもそもここで挙げられたアイデアの多くは、確かに興味深いものではあるが、欧米でも大手のNGOでないと実践できないものである。提携クレジットカード(アフィニティ・カードというらしい)とか映画興行収入の一部を基金に積み立てるといった企業との提携は、途上国では機会が限られている上に、1団体がこの方式を導入した場合、他の団体の機会を奪うことになってしまうだろう。1つ1つの取組み事例は魅力的ではあるが、僕が知っているインドの本当の意味での草の根NGO(CSO)が、自立性を高めるのに有効と思われる取組みとは言いがたい。

著者はまた、p.149で「擬似財団組織(foundation-like organizations、FLO)」という概念も事例として挙げている。よく読むとどうもFLOは「コミュニティ財団」に近い概念のように思える。確かにコミュニティ財団であれば住民代表を意思決定プロセスに関与もさせるし、持っている資金をどの草の根団体のどの事業に配分するのかも自ら決定するわけだから、行なわれる事業に受益者の声を反映させる仕組みにはなっている。しかし、コミュニティ財団が活発に活動している国・地域というのは、市民社会の自治意識が早くから強かったところが多く、インドのように公的サービスの提供に受益者の声をフェアに反映させることすらまともにできていない国ではコミュニティ財団は未だ普及しているとは言い難い。可能性としてはいいが、新たに組織を作るような選択肢はなかなかとりにくいのではないだろうか。

とはいえ、非常に重要な指摘をしている本であることは間違いはない。
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