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伊藤忠・クルックのインド綿花農家支援 [シルク・コットン]

去る8月27日(金)夜、赤坂の(財)国際開発高等教育機構(FASID)で「国際開発と民間企業:伊藤忠商事・クルックによるインド綿花農家への支援」と題したセミナーが開催された。インドでコットンといえば僕だって少しは予備知識があるぞということで、出かけてきた。参加費が1000円取られる有料のセミナーだったので、そんなにたくさん人は来ないだろうとたかをくくって行ったら、全く予想が外れ、会場を見渡したら100人以上参加者がおられたのではないかと思えるほどの盛況だった。

FASIDセミナー開催のご案内
国際開発と民間企業:伊藤忠商事・クルックによるインド綿花農家への支援
 近年の国際開発においては民間企業が新たなアクターとして注目されています。
 貧困削減などの開発問題には民間セクターの活性化が必要であるという認識が広く共有されて久しくなりますが、その民間セクターの主要アクターである民間企業から開発途上国の人々が支援を受けて企業の事業の一環を担うことで就業・就労状況を改善させ、貧困削減につながる実例が増えています。このような支援は、ビジネスの一環として行われることが重要で、営利目的の事業の一環であるがゆえに、経費回収が可能で持続的となり、利益を出すことでさらなる拡大が期待できます。
 このような事業の1つに株式会社クルック伊藤忠商事株式会社が中心となってインドのコットン生産農家に対してオーガニックコットンへの移行を支援する「プレオーガニックコットンプログラム」があります。インドでは何千年にもわたってコットンが生産されていますが、1960年代から使用されている化学肥料と農薬によって、零細規模でコットンを生産する農家は健康被害、化学肥料や農薬購入のための債務によって困窮するなど深刻な社会問題となっています。一方で、世界的には環境への関心の高まりとともに、有機農法が注目され、オーガニックコットンの国際市場が成長しています。しかしながら、化学肥料・農薬を使用する通常コットンから有機コットンへの移行には農薬・化学肥料の使用を中止する必要があり、そのために生産量が落ちて収入減となる問題があり、オーガニックコットンへの移行は困難であるのが実情です。プレオーガニックコットンプログラムはこの様な困難を克服すべく農家を支援するものです。
 本セミナーでは伊藤忠商事及びクルックより同プログラム担当の方々から、事業の始まりの経緯、現状、今後の見通しについて語っていただくとともに、私どもが現地調査で聞いてきた農家の方々の声も含めて報告します。同プログラムを担当されている当事者の方々から直接お話を聞くことのできる貴重な機会となります。どなたでもご参加いただけます、ふるってご参加ください。
*プレオーガニックコットンプログラムの詳細については
http://www.preorganic.com/
なぜFASIDがこのようなセミナーを開いたのかというと、FASIDでは開発経験体系化研究事業というので昨年度に「民間企業と国際開発-革新的パートナーシップによる企業の開発への貢献」というテーマを取り上げ、報告書まで出しておられる。その報告書の中で取り上げられていた事例の1つが、伊藤忠商事・クルックによるインドでのプレオーガニックコットンプログラムだったという次第(ついでに言うと、FASIDの事務局と伊藤忠商事のオフィスは結構ご近所さんだったりして…)。従って、セミナーの方も、冒頭でクルック、伊藤忠各社の代表の方がお話下さった後、FASIDの研究員の方が現地調査の報告をされていた。

なお、セミナーでは地図がなかったのでいったいどこでこの支援事業をされているのかわかりにくかったかもしれないが、上記案内にあるURLを見ると、マディアプラデシュ州インドール周辺であることがわかる。僕も訪れたことがある場所なので、その経験も踏まえて懐かしくお話を聞かせていただいた。

プレオーガニックコットンプログラムの考え方は、ノーマルコットン生産農家が有機農法を取り入れてオーガニックコットン認定を受けられるようになるまでには3年の移行期間があり、その間はオーガニックコットンにつくプレミアム(ノーマルコットン買上価格の1.7倍だとか)を得られないために、化学肥料や農薬を使わないことによってノーマルコットンの生産が落ち込むリスクを農家個人で負わなければならない。この移行期間のリスクを、オーガニックコットン並みの買取り価格と買付け数量を保証することによってコットンの買い手(この場合は伊藤忠)が負い、それによって仕入れた綿糸を使った綿製品をクルックが販売するという仕組みだ。2007年に600強の農家からスタートしたこのプログラムは、3年目には1500を超える農家が参加するまでに拡大し、伊藤忠の買取保証も、2008年の300トンから、2011年には500トンが見込まれている。伊藤忠はこれを2000トンぐらいまでもっていきたいとのことであった。

プログラムの設計自体はなるほどと思わされるところがあったが、自分の経験から見て、何ゆえこんなにすぐに立ち上がったのかという点には興味があった。すごくスムーズに立ち上がったという印象だったのだ。クルックが伊藤忠と元々繋がりがあったとしても、結局のところ生産農家と最終消費者を繋ぐチェーンが確立されていないと事業立ち上げには時間も手間もかかる筈だ。そもそもサイト選定1つ取っても大変な話で、クルックがいかに「こんなのやりたい」と思っても、事業地について全くアイデアがなければすんなりとはいかない。この場合良かったのは伊藤忠がインドールにパットスピンという紡績会社を合弁で設立していたことにあると思った。そこをアンテナにして、2001年からオーガニックを扱っているラージ・エコファームというジン工場がパートナーとして選定された。

伊藤忠の発表者の方も仰っていたが、当然、綿糸の買付けを行なう伊藤忠の方が自ら生産農家と交渉するわけではなく、現場への普及啓発や技術指導はラージ・エコファームのスタッフが担当するということで、情報も入って来やすくなっている。だから、現場のことを手に取るように会場でお話することもできるのだろう。

ただ、気になったことがある。質疑応答の時に会場の大勢の出席者に遠慮して質問事項を2つに限定してしまったのだが、実はもっと沢山聞きたいことがあったのである。

1)生産農家の移行戦略の話。農家の平均所有農地は4ヘクタールということだったが、この農地を一斉にオーガニックに移行させるのはリスクも大きくて、ノーマルとオーガニックで半々に作付けするとかリスク分散を図ろうとする農家もいたのではないかという疑問。但し、これはちょっと的外れな質問で、ひょっとしたら一斉移行が当たり前なのかもしれない。折角自分がオーガニックに移行しようとしていても、隣の農地をノーマルでやっていたら農薬や化学肥料の影響は被る可能性が高い。もし一斉移行するのが賢明な戦術だとしても、隣り近所への周知とか何かしら前提条件がありそうな気がする。それが何かという疑問もある。

2)上記とも関連するが、そもそもここで言われている「オーガニック農法」の定義。セミナーではシンプルに「化学肥料や農薬を使わない農法」と説明されていたが、とことんオーガニック栽培をやるなら、家畜の糞尿を有機肥料に活用するとか、害虫を1箇所におびき寄せるフェロモントラップとか、幹にマスタードオイルか何かを塗ってアブラムシを撃退するとかいったテクニックだけではなく、さらにノーマルコットンの畑との間に最低何メートル距離を開けて受ける影響を最小化する努力も必要になってくる。ラージ・エコファームが推奨している農法がどの程度までとことんやらせるものなのか、もう少し知りたかった気がする。

3)これは実際にインドール周辺でオーガニックコットンを生産している農家を見て思った点なのだが、要するに出てくるのが男ばかりなのだ。確かに「子供は大学に行かせたい」という農家の方の声も聞いたことは聞いた。一方でこの地域にはちゃんとした家ではなくバナナの葉っぱを組み合わせて取り合えず雨をしのぐぐらいのことしかできていない自生「集落」が所々にあり、要するに農繁期には家族を収穫に駆り出すのではなく、そうした土地なし労働者を雇っている可能性が強いと感じた。雇用機会を与えているのだからいいではないかという見方も確かにあるのだが、僕が言いたいのは、オーガニックコットンへの移行が地域の発展に寄与しているかどうかというのは、農家の世帯主にインタビューするだけではわからないのではないかということだ。(とはいえ、農家の女性が元気そうだというのは世帯訪問して僕も感じたことではある。)

インドール周辺は、人間開発指標がただでも低いマディアプラデシュ州の中でもとびきり低い地域の1つでもあり、オーガニックへの移行がそれに関わっている人全ての健康や経済状況の改善に繋がるとしたらとてもいいことだと思う。

さて、こんなセミナーを聞きながら、僕の知ってるあの通販会社フェリシモのオーガニックコットン栽培支援事業「ピース・バイ・ピース・コットン」はどうなっているのかなとふと思い、ウェブページを調べてみたところ、ちゃんと立ち上がっているようで嬉しくなった。ここはオリッサ州カラハンディ県という、これまた人間開発指標がとびっきり低いエリアを支援対象地域に選んでいる。
http://www.felissimo.co.jp/haco/v25/peace/

*ピース・バイ・ピース・コットンについては、フェリシモの通販カタログ『haco.』でも紹介されています。『haco.』はコンビニなどでも入手可能です。

haco.no.25

haco.no.25

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: フェリシモ出版
  • 発売日: 2010/08/19
  • メディア: 大型本


但し、伊藤忠・クルックの方の説明を聞きながら、フェリシモの方はオーガニックへの移行期間の買取保証の件はどうなっているのかなと疑問に思った。勿論、現時点でフェリシモは繊維製品の売上金の一部をファンドとして積み立て、そこからオーガニック栽培支援や教育支援に充てているが、生産された綿花を購入して綿製品として販売する段階ではないので、作付面積のスケールアップで移行期間をどうするかという課題には未だ直面はしていないのだろう。その部分は現地パートナーのチェトナ・オーガニックがひょっとしたら保証しているのかもしれないが、チェトナはラージ・エコファームとは違って自前のジン工場を持っていないと思うので、そのあたりのことはちょっと調べてみた方が良いかもしれない。

【注意】もしこの記事を読んで、インド・オリッサ州のフェリシモの事業地に実際に行って見てみたいと思った方は、実際にインドに渡航される前に、必ずフェリシモに連絡をして、相談して下さい。事業地自体は平地で治安上の問題は少ないと思われますが、そこまで辿り着く行程では左翼ゲリラの影響下にある地域をどうしても通過せねばなりません。外国人の単独行動は非常に危険です。フェリシモの方々も現地に入られる時は、事業を実施してくれている現地NGOの事務所担当者と必ず連絡を取り、一緒に行動しています。もし単独行動の結果何かしら事件や事故に巻き込まれたりしたら、事業の存続自体が困難になります。常識的な行動をお願いしたいと思います。
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