『人を動かす質問力』 [読書日記]
内容紹介インドから帰って来て、人とコミュニケーションを取る機会が激減した。インドにいた頃は、人と会って話すのが仕事みたいなものだったし、職場には自分が率いていた班(ユニット)もあって意思疎通とか部下にやる気を起こさせる方法を考える機会も多かった。さらに、村に行けばその村の実態を知るために村人の本音を聞き出すにはどんな質問を繰り出せばいいかを相当考えた。
質問は、相手から情報を引き出すだけではなく、相手を「その気にさせて」「自ら動いてもらう」ために非常に有効である。質問力を駆使して法廷で大活躍する一流弁護士が、秘密のテクニックを明かす。
そんな状況から一転して、東京では個人の力量が問われる仕事内容で、別に組織マネジメントの力は求められないし、予算もあまりないので現場に出向いて住民から本音とやる気を引き出すような質問力が求められる局面など全くない。人事異動というのは一応適材適所をイメージして行なわれているものだと信じてはいるが、前の職場で培ってきた自分の経験やノウハウ、ネットワークが全く生きない仕事というのには今でも戸惑いを覚える。
だから、本日ご紹介の1冊は、今となっては何のための本だかよくわからないテーマ、僕が自分の仕事のことを考えたら他のテーマの本をもっと沢山読んで情報蓄積を図らないといけないというのはわかっているのだけれど、せっかくインドで磨いてきたスキルなんだから、それを腐らせないようにするためには、時々こんなテーマの本も読んで、自分の記憶をリフレッシュしないといけないと自分に言い聞かせている。
谷原誠弁護士の著書は、2年前に読んだ『するどい「質問力」!』に続いて2冊目である。前著はインドに置いてきてしまったので今となっては何が書いてあったかを確認することはできないが、本日ご紹介の1冊は、おそらく前著のノウハウを新書サイズにコンパクトしたような中味と考えていいのではないだろうか。基本的にはハウツー本なので、ひと通り目を通した後は時々必要な箇所を読み返すぐらいの使い方になるのだろう。
非常に読みやすく、ポイントが押さえやすい1冊である。所々に太字の角ゴシック体で強調されているフレーズがあるので、取りあえずひと通り目を通すのが目的なら、強調されているフレーズだけ拾い読みするのでも事は足りる。
ハウツー本を要約することなど困難だと思うので、印象に残ったフレーズのみここで掲載しておく。最初のフレーズは、著者の言葉ではない。デール・カーネギーの『人を動かす』からの引用だ。
人間は自尊心のかたまりです。人間は、他人から言われたことには従いたくないが、自分で思いついたことには喜んで従います。だから、人を動かすには命令してはいけません。自分で思いつかせればよいのです。(p.7)
これに対して、著者が冒頭で結論チックに述べているのが次のフレーズである。
人を動かすには、命令してはいけません。質問をすることです。人をその気にさせるには質問をすることです。また、人を育てるには質問をすることです。(p.8)要するに、人に気付きを促すにも、やる気を起こさせるにも、相手が何を考えているのかを探り出すのも、必要なのはこちらから質問を繰り出すことなのだ。本書は結局のところ、どういう目的でどのような質問が使えるのかが幾つもの事例で紹介されている1冊である。
本書では「人を育てる質問力」という章も準備されており、上司が部下を育てるという視点からの記述はあるが、さらに付け加えたいのは、逆に部下が上司を育てるのも質問力だということである。人事異動とかで仕える上司が交代してしまうと、残された部下はゼロから人間関係・信頼関係の再構築を強いられる。上司が何を考えているのかわからない、期待したように動いてくれない、自分の仕事をちゃんと理解してくれていないのではないか―――部下はそんなことをいろいろ考えることがあるかもしれない。でも、黙っていては上司は変わらない。上司を変えたいと思うなら、質問を繰り出すべきだ。人間関係を円滑にするような質問、上司に考えさせるような質問、ということなのだろう。
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