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『中国とインドの経済発展の衝撃』 [読書日記]

中国とインドの経済発展の衝撃

中国とインドの経済発展の衝撃

  • 作者: 横川信治・板垣博編著
  • 出版社/メーカー: 御茶の水書房
  • 発売日: 2010/04
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
世界金融・経済恐慌は世界の多極化をもたらすか?アジアの比重と役割が飛躍的に高まる歴史的転換期を理論的・実証的に描き、中国とインドが世界経済に与える強烈なインパクトを正面から論じる。
以前、編者の1人である横川教授が監訳されたハ・ジュン・チャン著『はしごを外せ』をこのブログで紹介したことがあるが、この本の訳者解説の中で、訳者自身がインドと中国の経済発展に関する比較分析の文献を執筆中だとの言及があった。本書はまさにその横川教授の研究プロジェクトの成果物である。

とは言っても僕の興味はインドの方なので、取りあえず中国についてしか書かれていない章はすっ飛ばし、インドについて言及あるところだけを拾い読みした。以下はその自分なりの要約―――。

東アジアの経済発展は奇跡ではなく、介入主義的な産業・貿易・技術開発政策・制度を工業化に成功したほぼ全ての国がとったことを考えると、中国とインドの工業化の分析と評価も、介入主義的な政策・制度から自由主義・自由貿易政策・制度への変換による成功ではなく、1970年代までの産業・貿易・技術開発政策・制度と1980年代以降のそれとの違いを比較・検討するという視角からなさねばならない。
(第1章、p.4)

中国とインドの再台頭は、現在の先進国に経済的損失と便益をもたらす。マイナス面では交易条件の悪化が挙げられ、食糧・燃料・鉱産物・労働集約的製品がより高価になる。プラス面では、両国が豊かになるにつれて両国は研究と開発により多くの投資を行い、それによって現在の先進国も利用できる新技術の発見も促されるだろう。両国は巨大な輸出市場を提供し、それにより国際分業を促進するだろう。新技術と国際分業の新形態のもたらす利益は、交易条件の損失を補って余りあるかもしれない。
(第2章、p.59)

英国から独立後、インドが採用した開発戦略は混合経済体制下での輸入代替工業化だった。1948年に公共部門と民間部門が担う産業分野を定めた産業政策決議が公布されると、1951年度から第1次5ヵ年計画が実施され、第2次5ヵ年計画(1956~60年度)、第3次5カ年計画(1961~65年度)において重工業化が鮮明になった。その理論的根拠となったのはマハラノビスの提唱したモデルであり、閉鎖経済を前提とし、経済を資本財生産部門と消費財生産部門とに分け、前者への投資配分を大きくすればするほど長期的には経済成長率は上昇するというものである。これに、当時のネルー首相の「外国からの輸入に頼らない、経済的なインドの自立」という主張がマッチした。
(第5章、p.137)

内向き志向の強い経済政策は、インディラ・ガンディー首相になっても継続されている。1966、67年と2年続けて起きた旱魃で、インドは財政難・食糧難に陥った。1969年からスタートする第4次5ヵ年計画は「緑の革命」を進めて食糧自給に重点を置くが、公共部門への資金供給ルートを確保して農業金融を強化するため、主要商業銀行14行の国有化が行われている。
(第5章、pp.139-140)*余談ながら今後の僕自身の調査の参考のためにメモしておく。

インドが1990年代初頭までこの開発戦略を継続しえたのは、国内市場の大きさとNRIの資金、そして民主主義があったからだろう。しかし、湾岸戦争を景気とした国際収支危機で政策転換を余儀なくされたインドは、その後世界経済のグローバル化が加速する中、国内の規制緩和と対外開放を漸進的に進めてきた。しかし、インドは、グローバル化の恩恵を十分享受しているとはいえない。なぜならそれは現在の経済成長が工業部門、特に労働集約的な製造業をバイパスした「雇用なき成長」であるからである。また、経済自由化以前の規制や不透明な法制度は国内大企業の参入を阻害し、道路や電力などのインフラの未整備が外国企業の参入を阻害している。日本はODAや官民連携を通じてインフラ整備や技術支援を継続していくことが期待される。
(第5章、pp.157-158)

インドの最近の高度経済成長は、基本的にはグローバル化に依存したもので、特に、都市部の人口の上位20%の消費ブームに拍車をかけた減税と、金融規制緩和に依存していた。この富裕層によるブームは、デフレ的な財政政策・失業・農業恐慌が消費需要を減少させたにも関わらず継続された。富裕層と中間層は負債によって贅沢な消費ができるため、経済上昇期にはより大きな投資と生産増をもたらす。これは幾つかの国で見られた投機的バブル主導型経済拡張と酷似している。より持続可能な回復のための代替案は、国内市場における大衆の消費のための生産により多くの刺激を与える財政金融政策に基づき、賃金主導型成長を志向すべき。金融政策としては金融包含(financial inclusion、信用差別の撤廃)を優先し、特に農業生産者と非農業部門の小規模生産者が活用できる制度金融とその他の金融サービスの整備、財政政策としては、社会資本(特に地方で、たとえば電気・公衆衛生・舗装道路へのアクセスの保証)および保健と教育への公的支出の拡充が考えられる。これらは、乗数効果の非常に高い雇用を提供するだろう。農業生産者に対する特別な政策パッケージは、耕作費用の上昇と作物価格の激しい変動への対応を助け、地方経済の安定化にも繋がる。穀物と主要農産品は、生産者のインセンティブを阻害することなく価格の安定を確保するため、有利な価格での買い上げが必要。非食糧消費と貧困の悪化を抑制するため、公的配給制度を通じ、貧困層が最低限必要な消費を維持できる価格で流通させなければならない。
(第8章、pp.257-258)

最後の部分を読むと、今のインド政府はそういう政策を取ろうとしているんだなというのがなんとなくわかる気がする。


Kendo5.jpg

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コメント 1

beluga

是非、読んでみたい一冊です。
by beluga (2010-07-24 13:12) 

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