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『宮本常一の写真に読む失われた昭和』 [宮本常一]

宮本常一の写真に読む失われた昭和

宮本常一の写真に読む失われた昭和

  • 作者: 佐野 真一
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2004/06
  • メディア: 単行本
内容(「MARC」データベースより)
子どもも大人も、その顔がなつかしい。村も渚も、東京までも…。民俗学者・宮本常一が撮った何げないスナップ・ショット、10万点の中から厳選した約200点を収録し、高度経済成長前後の日本の社会と民俗を学ぶ。
いやぁ、いい本に出会った。いや、「いい本」ではなく、「宮本常一」という民俗学の大家に出会ったのが嬉しい。この本が近所のコミセン図書室にあるのはインド赴任前から知っていたのだが、時間的制約から読まなかった。今はそれを非常に後悔している。「宮本常一」のことをもっとよく知っていたら、僕のインドでのフィールドワークのあり方もきっと大きく違っていたに違いない。

宮本は15歳で周防大島を離れて大阪に出て行く際、父が餞の言葉として贈った10カ条の人生訓がある。本書の解説の冒頭はこの10カ条のうち、次の3カ条を紹介している。宮本のフィールドワーク、写真撮影の重要な背景になっているからだ。
汽車へ乗ったら窓から外をよく見よ。田や畑に何が植えられているか、育ちがよいかわるいか、村の家が大きいか小さいか、瓦屋根か茅葺きか、そういうこともよく見ることだ。駅へついたら人の乗り降りに注意せよ、そしてどういう服装をしているかに気をつけよ。また、駅の荷置場にどういう荷がおかれているかをよく見よ。そういうことでその土地が富んでいるか貧しいか、よく働くところかそうでないところかよくわかる。

村でも町でも新しくたずねていったところは必ず高いところへ上って見よ、そして方向を知り、目立つものを見よ。峠の上で村を見下ろすようなことがあったら、お宮の森やお寺や目につくものをまず見、家のあり方を見、周囲の山々を見ておけ、そして山の上で目をひいたものがあったら、そこへは必ずいって見ることだ。高いところでよく見ておいたら道に迷うようなことはほとんどない。

人の見のこしたものを見るようにせよ。その中にいつも大事なものがあるはずだ。あせることはない。自分の選んだ道をしっかり歩いていくことだ。(pp.12-13)

歴史学者の網野善彦は、自分たちの世代と今の世代との間には非常に深い断絶が横たわっている、その間に深刻な社会の大変動が進行しているのではないかとの実感を持っているという。著者は網野のいう「大変動」の起点は昭和30年代の高度経済成長期にあったという。エネルギー革命が起き、我々の身の回りから木炭も石炭も消えていった。それは必然的に日本人の生活様式を根本から変えた。著者は言う。宮本の撮影した写真が貴重なのは、そのほとんどが、まさにその端境期に撮影されたものだからである。そこには消えゆく日本の姿が、ゆったりとした時間の流れとともに確実に写し撮られていると(p.23)。

元々僕が本書に惹かれたのは、僕が生まれた昭和30年代後半の写真が本書には沢山収められていたからだ。僕が生まれた頃の農村や都会はこんなんだったんだと懐かしく振り返るには丁度良い。僕が大学時代に使っていた国電四谷駅前の昭和39年の写真なんて感動ものだ。

収録されている写真の1枚1枚からいろいろなことがわかる。例えば、昭和46年10月に西宮市郊外で撮られた茅葺の家が3軒並んだ写真がある。庭には洗濯物が翻っている。その洗濯物に着目し、宮本はこう語っているという。
 干されているものを見ると手縫いのものはないようである。いつの間にかわれわれが身につける下着はすべて購入品にかわってしまった。
 昭和30年頃までは干されているものを見ると手縫いのものが多かった。ミシンで縫ってあっても、自製のものが少なくなかった。ということは下着に一定の型がなかった。と同時に、つぎのあたっているものが少なくなかった。
 つぎのあたったものを着なくなったのは昭和35年頃が境であった。そして多くの女性たちはあまりミシンをつかわなくなって来た。その頃までいたるところに見られた洋裁塾や洋裁学校が姿を消していった。
 そしてその頃から流行が、自立的な意志によっておこなわれるよりも商業資本の企画によって左右されるようになって来る。今年は何がはやるということが、前もってわかることになった。いつの間にか人間の意志がかすんだものになってゆきはじめた。(pp.19-20)

民俗学者・宮本常一を、長男が語っている言葉も紹介されている。
 父はきわめてあたりまえのことをやっていた。自分、ないし自分たちの生活と生活感情を、繰返し繰返しチェックし、そこからくる敏感さで、目に映るもののひとつひとつこまかく気にとめようとしたにすぎない。あたりまえのことに注意し、つねに全体像をつかもうとした。
 コンパクトでシンプルなカメラを使って、片手で片っ端からメモしていった。「あっと思ったら写せ、おやって思ったら写せ」と指導した。何かを探す写し方ではない。当然1コマとしては使いものにならない写真が多い。
 (中略)
 とにかく歩くこと。歩いて見ること。外を見、みずからのすみずみを見ること。歩いて外を見ることで、見る目の新鮮さや驚きのにぶることを防ぐこと。つきつけられた問題にすべて取組もうとすることで、重大な見落としを防ぐこと。その勇気と気力を得つづけるために歩いて接して取り組むこと。(pp.128-129)
―――こういうところを読むと、僕がインドの現場でやっていたことなど恥ずかしく思えてくる。

宮本常一の著作に俄然興味が湧いてきた。さっそく2冊ほど文庫版で購入してしまった。

*宮本常一の撮影した写真は、下記URLでかなり公開されている。
 http://www.towatown.jp/database/
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