『悪人』 [吉田修一]
内容(「BOOK」データベースより)『横道世之介』の著者の作品をもう1冊ぐらい読もうかと思い、コミセン図書室で借りてきた。今年秋映画公開予定の作品で、それに合わせて文庫化もされたため、最近話題になっていた作品ではある。仕事も始まり日中は職場にいるので、通勤時間などを利用して読み切るのには3日ほどかかった。
保険外交員の女が殺害された。捜査線上に浮かぶ男。彼と出会ったもう一人の女。加害者と被害者、それぞれの家族たち。群像劇は、逃亡劇から純愛劇へ。なぜ、事件は起きたのか?なぜ、二人は逃げ続けるのか?そして、悪人とはいったい誰なのか。
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『横道~』も舞台は東京だが主人公は長崎出身だった。『悪人』もその舞台が福岡、佐賀、長崎という九州北部であり、登場人物のセリフも全て方言が入っている。僕も学生時代に入っていた寮で小倉出身の先輩や同級生と仲良くしていたので、セリフ自体の違和感はさほどないのだが、登場する地名の位置関係が全く分からず、読んでいてイメージがしづらかった。
タイトルは『悪人』だが、登場人物に絶対的な悪人というのはいなかったように思う。法を犯した清水祐一を見ていると、普通の人が他人から悪人として評されたくてわざと悪人ぶった行為を行なうのが悪人と言えるのかという疑問も湧いた。登場人物の中でも最も悪人的要素の強かった増尾圭吾にしても、三瀬峠に石橋佳乃を置き去りにしたきっかけは彼自身が根っからの悪人だったからというより、佳乃の性格や行動の方に原因があるように描かれている。殺人事件の容疑者となった圭吾、祐一のうち、確かに法を犯したのは祐一の方だが、圭吾が何故赦されるのか、そして佳乃が作った根本の原因をどう評価するのか、考えさせられることが多かった小説である。
ただ、各章のタイトルと内容があまり合っていないような気もした。
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