『ステップ』 [重松清]
内容(「BOOK」データベースより)妻を亡くしたパパと2歳で残された娘という状況設定的に、発売当初から食指が伸びなかった重松作品なのだが、僕が時々読ませていただいているノリさんのブログで、ノリさんが本書を評価されているのを知り、帰国したら仕事が忙しくなる前に読んでみようと考えた。実際に読むのにかかったのはわずか1日。期待に違わぬ作品だと思う。いや、最近の重松作品のラインナップ的にもかなり秀作の部類に入る。とてもいい作品だ。
結婚3年目、妻が逝った。のこされた僕らの、新しい生活―泣いて笑って、少しずつ前へ。一緒に成長する「パパと娘」を、季節のうつろいとともに描きます。美紀は、どんどん大きくなる。
ノリさんが本書の収録短編の中でも「バトン」について強調しておられたが、同世代でもオヤジの方である僕にとっては「サンタ・グランパ」が身にしみた。作品中、社内の権力抗争に敗れて引退を余儀なくされた義父が健一を銀座の料亭に連れ出して愚痴るシーンがあるが、この辺りを読んでいて既に瞼が熱くなってきた。
「怖いんだ」作品全体を通して、この義父というのは非常に重要で、おそらく世の中の同じ境遇で子供を亡くした父親なら十中八九こうするだろうと納得できる行動や発言を繰り広げる。その中でもとりわけ重要な役回りを演じたのがこの「サンタ・グランパ」におけえる義父なのであった。
「……なにが、ですか?」
「朋子の思い出は、もう増えないんだ。あとは歳をとって忘れていくだけだろ。それが怖くてたまらないんだ。子どもの頃の良彦や朋子のことだけは、死ぬまで、ぜんぶ覚えていたいんだけど……いかんせん、もともとの思い出が少ないからなあ、ばあさんに比べたら何分の一かしかないんだから……忘れてもいいような仕事のことばっかり、よーく覚えてて、一番大事なものが……大事なのになあ、ほんとうに、いまになって気づいても遅いんだよ、もう……」
義父は声をあげて泣きだした。僕は襖をそっと開けた女将さんに目配せして下がってもらい、黙って酒を啜る。
「健一くん……美紀ちゃんと1分でも1秒でも長く一緒にいてやれよ……あとから後悔しても思い出は増やせないんだ、仕事なんてどうだっていい、美紀ちゃんと少しでもたくさん思い出をつくって……子どものことを覚えててやるのは、親の義務だぞ、ほんとうに、それが親のつとめなんだ……」
俺にはできなかったんだ、と義父は嗚咽交じりに言った。仕事仕事で、朋子のことも良彦のこともほとんど覚えてない、それが悔しいんだ、とうめいた。
「子どもの思い出すら残せない人生なんて……おい、むなしいもんだぞ、まったく……」(pp.163-164)
失われた娘・朋子の思い出を少しでも思い出そうと、家の中から写真を探し回り、さらには会社の元部下にも聞いて回り、そして娘が小学三年生の頃の8mmビデオを見つけ出す。そのビデオを上映するのがこの作品のクライマックスなのだが、この情景を想像すると泣けて泣けて仕方がなかった。
「パパ」美紀が言った。「わたし、ママと同級生だったら、友だちになってるよね?」―――重松作品は泣かせる、とよく言われる。でも、その割には僕は重松作品を読んで泣いたことが実はあまりない。そんな中で、「サンタ・グランパ」は久々に泣かされた。その後の短編には爽やかさを感じた。多分、こういうところに感じ方自体が、僕が40代のオヤジである証拠なのだろうなと思う。
「ああ、なってる。大、大、大親友になってるよ」
「でも……この子、もういないんだよね……死んじゃったんだよね……」
僕は黙って美紀の肩を抱き寄せた。「でも、最後に美紀のママになったから、幸せだったんだよ」と言うと、僕の腕の中で、美紀の肩が震えた。泣きだした。ママのために泣いた。諸井さんに言ってやれ。わたし、ママが死んだことが悲しくて泣いたんだよ、ショーコだってあるんだよ。あとで、みんなで写真を撮ろう。みんなそろって泣き腫らした顔をしているから、それがショーコだ。
少女がオレンジジュースを飲む。撮られているとは思わなかったのか、大きな目をしばたたいて、やだぁ、と笑う。
同じクラスにいたら、僕はきっと、この子に片思いをしているだろう。
ほんとだぞ、と仏壇の写真に微笑みかけえると、朋子のすまし顔が暗がりに浮かんだ。(pp.184-185)
こんにちは。読まれたのですね^^
私もこの作品にはかなり泣かされました。
ブログには書ききれませんでしたが、サンチャイさんの言われるように、お義父さんの存在はとても大きかったと思います。
8mmビデオの上映場面では号泣、でした。
by ノリ (2010-07-01 16:59)
★ノリさん★
コメントありがとうございます。
義父のようなオヤジになりたいとつくづく思います。
by Sanchai (2010-07-02 00:27)