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リッチな高齢者の家 [インド]

新時代の家
New-Age Homes
2010年1月26日、Hindustan Times、Vandana Ramnani通信員
 家族同居制度が崩れ、高齢者の中でも十分な貯蓄を持つ人は、心に思い描いているニーズに沿って建てられた家に入居するケースが増えている。
 ハリッシュ・チャンデル・カルバンダさんは1997年にヒンドゥスタン・エアロノーティクス社を退職し、グルガオンにある3ベッドルーム(BR)のアパートに留まることにした。63歳の妻インドゥと息子と一緒だ。しかし、これから11年間にわたり、現在70歳のカルバンダさんは、拡大するデリーの郊外での生活を悩ませる水や電気の供給不足に疲れ果てている。
 2008年には遂にカルバンダ家はアシアナ・グループが開発を進めてきた「アシアナ・ウトサブ(Ashiana Utsav)」に引っ越すことにした。デリーの南西70kmにあるビワディ(Bhiwadi)という退職者向けに開発された町だ。この動きはカルバンダさんに有利に働いた。水道や電気で問題が起きるケースが少なくなっただけではない。「ここには全ての設備が揃っています。医者もいれば救急車もあります。公共料金の支払いも設備内で済ませることができます。」
 ヴァリンダー・クマール・ティクーさん(63歳)もアシアナ・ウトサブでアパートを購入した1人だ。コルカタのケーブル会社を昨年退職し、ここに移ってきた。「ここはきれいだし、私のニーズを全て満たしています。」
 家族同居制度が崩れ、生活が豊かになっていくにつれて、高齢市民は、彼らの入居を想定して開発された居住区へと越してくる動きを強めている。それにかかる費用は、50万~500万ルピーの購入費と、月1,000~50,000ルピー程度の維持管理費である。
今年1月の共和国記念日の日のHindustan Times紙は、「60年が経過し、さらに時間は流れる(60 years and still counting)」という特集記事を組んだ。これは、共和国制が成立した当時生まれた世代が60年の歳月を経て高齢者の仲間入りを果たす時期にさしかかっていることから組まれた特集であり、これに向けてエイジウェル財団が実施していた高齢者意識調査の結果についても特集では併せて紹介されている。因みに、インドでの高齢者は「60歳以上」を指すが、日本の場合は既にご存知の通り「65歳」であり、さらにこの年齢を引き上げて「高齢者」の定義を変えようという議論もある。

 スリカント・パランジャープ(Shrikant Paranjape)は、プネに拠点を置くパランジャープ建設(Paranjape Scheme Construction)の会長で、これまでプネで「アタシュリー(Athashri)」プロジェクトを推進してきた。このプロジェクトはおそらくインドにおける最初の退職高齢者リゾートである。「高齢者の多くが施設に係るこれだけの費用をちゃんと支払う手段を持っています。高齢者は残りの人生を過ごすのを支援してくれるメカニズムを探し続けているのです」――パランジャープ会長はこう語る。
 スブラマニアン・セーラムさん(74歳)は、ラーセン&トウブロ社に勤めていたが、妻のプシュパさん(69歳)とともに、2003年にアタシュリー・コンプレックスに引っ越してきた。「ここには住み込みの医師もいますし、幾つかの病院はここから近いところにあります。このコンプレックス内では移動用のバスや救急車のサービスも提供されます」――プシュパさんはこう語る。
僕はこの2003年に開設されたアタシュリー・コンプレックスの第1号を訪問したことがある(下写真)。国際長寿センター(International Longevity Centre、ILC)を訪問した際にたまたま近所にあったのがアタシュリーのコンプレックスで、実際に開発に当られたアタシュリー財団の関係者の方にもお話を聞くことができた。
*その時の記事は下記URLをご参照下さい。
 http://blog.so-net.ne.jp/sanchai-documents/2008-07-12-1/

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その際特に印象に残ったのは、このユニット部屋購入代金の一括払いに加えて10年分の維持管理費も一括前払いとし、その前払金を市場運用して利息収入でプネ近郊農村に住む高齢者の生活支援を行なっているという説明であった。

先週プネを訪れた際、時間があればこのアタシュリー財団が行なっているもう1つの事業――農村高齢者の生活支援事業の事業地を見学したかったのだが、あいにく仕事の関係でプネ滞在日数をギリギリまで切り詰める必要が生じ、このアタシュリーの事業地訪問は実現しなかった。このことはインドを離れるに当っての大きな心残りの1つであり、次にインドに研究調査で訪れる機会があれば、真っ先にプネに行きたいと思っている。

 「(アシアナの)基本的なコンセプトは、社会的な繋がり(social togetherness)を通じて高齢者のよりよい生活を創造していくことにあります」――こう語るのはアシアナ・ウトサブのマーケティング・販売部のアンクール・グプタ部長はこう述べる。
 「こうした居住ユニットによって、高齢者は退職というものを全く新しい視点から見ることができます。つまり、それは新しい能動的なライフスタイルの始まりであり、そこでは高齢者は十分なケアを受けるだけではなく、それまでに培った技能を生かして社会サービスに貢献します」――国際不動産コンサルタント会社であるジョーンズ・ラング・ラサール・メグラージ(Jones Lang Lasalle Meghraj、JLLM)社の戦略的ビジネス・教育・ヘルスケア・高齢者生活担当バイスプレジデント補佐のソウミャジット・ロイ氏はこう述べる。
 こうした居住ユニットは200~1,000平方フィートの広さがあり、十分な教育を受け、所得水準が高く、これまで引越を伴う移動を何度も行ってきたような人々をターゲットとしている。多くが外国在住インド人(NRI)によって、その両親のために購入されている。「私達は、こうしたケア付き退職者コミュニティが今後インドでは意味のある概念として大きく台頭してくると予想しています。今後インドでは物理的ニーズと孤独、安全上の懸念が個々の高齢者に対して、今住んでいる家を出て高齢者のために特別に設計されたコミュニティに移っていくよう教えてくれていると思います」――米国に拠点を置く建築設計会社であるパーキンス・イーストマン社のブラッドマン・パーキンス会長はこう述べる。同社は高齢者向けの住宅設計やまちづくりに特化している。
 殆どの建設事業者は家屋やアパートを即売し、維持管理費を月額で請求する方式を取っている。維持管理費には、ハウスキーピング、食事が含まれ、時には医療ケアもカバーされているケースもある。
 他には、入居者が死亡した場合にこうした家を買い戻す仕組みも導入しているところもある。この場合は普通最初の売買契約でその旨記載される。LICハウジング・ファイナンス社が開発している「ケア・ホームズ(Care Homes)」の場合もこうしたモデルを導入している。高齢者は購入時一括払いにより、一生涯にわたってそこに入居する権利を得る。月額維持管理費その他の費用が別途請求される仕組みだ。
 「LICハウジング・ファイナンス(LICHF)グループはバンガロールの10エーカーの用地に98の高齢者向け家屋を持ち、ブバネシュワルやジャイプールでも同様のプロジェクトを計画しています」――LICHFの首席執行役員であるA.P.シン氏はこのように述べる。
 老人ホームに特化した企業も、インド特有の条件を考慮する必要性について気付いている。「こうしたプロジェクトで成功を収めるには、高齢者の生活のコンセプト自体をインド化(インディアナイズ)し、インド的コンテキストの中で何がうまくいくかを見極め、社会的にも文化的にも受け入れられるにはどのようにしたらいいのかを理解することが重要です」――先述したJLLM社のロイ氏はこう付け加えた。
こういうのがインドの都市部に住むリッチな高齢者の生活トレンドになりつつあるというのだが、確かに家族同居は幻想となりつつあるものの、全国各地から集めた高齢者で1つのコミュニティを作って高齢者だけで住むというコンセプトには一抹の寂しさも正直言って覚える。もともと都市部で生活しているような高齢者は故郷を離れて何度も引越を重ねてきている人もいるだろうから、もともと住んでいた土地を離れて新たな土地に入っていくのにも何ら心理的抵抗がないのかもしれないが、それでもこれがトレンドだと言われるとちょっと違うんじゃないかと思いたくなるのである。コルカタで現役生活を送っていた人が引退してデリー郊外に移り住むというのが本当にいいことなのかというと疑問だ。伝統的コミュニティからどうしてそんなに簡単に飛び出し、新たに高齢者のために設計されたコミュニティに入っていけるのか、地縁・血縁・出身カースト等による心理的抵抗というのはないのか、アタシュリー・コンプレックスに住んでおられるような入居者の方々に聞き取りをしてみたいと思ってしまう。

逆に、高齢者が生まれ育ったコミュニティからあまり外に出ず、老後もそこで暮らしたいと思っている人が大半を占めるような伝統的なコミュニティにおける高齢者のあり方についてももう少し見てみたいと思う。

そういうのがインド駐在生活中にちゃんとできなかったのが今さらながらに悔やまれる。


*関連報道は下記URLからダウンロードできます。
 http://www.seniorsworldchronicle.com/2010/06/india-aging-in-india-not-same-old-story.html
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