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2011年国勢調査を巡る英断 [インド]

80年ぶりカースト調査…印、12億人聞き取り
2010年9月16日、読売新聞
【ニューデリー=新居益】インドのシン内閣は、約12億人の国民すべてを対象に、所属するカーストを調査することを決めた。
 来年6~9月に面接員が全家庭を訪問し、聞き取り調査を行う。実現すれば、英領インド時代の1931年以来、80年ぶりの調査となる。身分制度のカーストはインド社会に多大な影響を与えているが、詳細な人口分布など不明な点も多く、全体像の解明に役立ちそうだ。
 カーストの身分は全国で数千もあるとされ、相互の関係は複雑だ。政府は低カーストに属する人たちの救済策として、国立大学や公務員の定員に低カーストの枠を設けている。一方で、この枠を利用するために、高カーストの人が政府に低カーストでの登録を求めるなど混乱も起きている。
 調査実施を要求してきたのは、低カースト層を支持基盤とする複数の小政党だ。低カーストの人口は伸び率が高いため、新しい調査結果を基に、枠の拡大を目指す思惑がある。
 一方、与党の国民会議派や、比較的高カーストの層を支持基盤とする最大野党のインド人民党には、「社会の分断が固定される」と調査に反対する声も強かった。しかし、国民会議派は、年末にかけて実施される州議会選挙で低カースト層にアピールする狙いもあり、調査実施を決めた。
今年4月頃からずっとくすぶっていたこの問題に、とうとう政府が結論を出したようだ。

国勢調査が行なわれるのは10年に一度のことで、インドの人口増加がどこまで進んでいるか、毎回世界中が注目するが、インドでは、「その他後進カースト(Other Backward Caste、OBC)」という調査項目の追加を巡り政治的対立が起きていた。ウッタルプラデシュ州に強い支持基盤を持つ社会主義党(SP)や、ビハール州を基盤とする民族人民党(RJD)といった、OBCが支持基盤となっている政党が調査実施への圧力を強める一方、閣内からも支持の声が上がり、賛成派と反対派の間で閣内対立にまで発展していた。シン首相は一時は反対だったが、閣内外からの圧力で態度を保留し、事態は流動的になっていた。

国勢調査では、下位カーストである指定カースト(Scheduled Caste、SC)や指定部族(Scheduled Tribe、ST)に関する調査項目は元々あった。しかし、OBCに関する調査は、英統治下で行なわれた1931年の国勢調査以来のことだ。ネルーやアンベドカルといったインド独立当時の指導者は、OBCの調査はカースト間対立をあおるとして反対していた。

時が経つにつれてOBCから不満の声が高まり、政府は委員会(マンダル委員会)を組織してOBCを定義し、政府機関等へのOBCの雇用枠を27%と設定するという留保制度を1990年に制定した。しかし、この留保制度は対象カーストの人口や人口割合を勘案せずに設定されており、OBCの実態を調査する必要性は確かにあるとみられている。

しかし、OBC調査で実態が把握されると、再び留保枠の見直しを求める声が強まる恐れがある。そうした場合、上位カーストに支持基盤を置くインド人民党(BJP)は反対の立場を強めるだろうし、それによって上・下位カースト間の政治闘争が再燃するかもしれない。1990年代から2000年代半ばに国民会議派が選挙獲得議席数で低迷した原因の1つは、この政治闘争を収拾できず、BJPやSP、大衆社会党(BSP)といった特定カーストを支持基盤とする政党に票を奪われたからだと言われている。政治的混乱により、再び支持を失うことを国民会議派は危惧している。

また、この調査が大変だというのは想像に難くない。OBCと一言で言うが、どのカーストがOBCに属し、どのカーストがSCに属するのかは、州によって解釈が違うらしい。ある州ではOBCでカウントされるカーストが、別の州ではOBCとしてカウントされないというケースも結構頻繁に起きるらしい。また、OBCとしてどれだけのサブカテゴリーを作るのかによっては、聞き取り調査の様式がそれだけで膨大なスペースを必要とするものになる可能性もある。

そう考えていくと、今回の政府決定は、シン政権の大英断である。どうなるんだろう。来年の国勢調査は注目です。
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コメント 1

toshi

カーストは大きな問題ですね。高カーストのヒンドゥー僧侶に外国人だからというので高額の御布施を要求されたことがあります。少ししか渡さなかったので、怒っていました。
by toshi (2010-09-17 12:20) 

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