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ムンバイのハンセン病資料館 [インド]

少々古い話になるが、今年1月下旬にムンバイに行った際に訪問したハンセン病資料館のことを書きたいと思う。この資料館は正式名称をアックワース・ハンセン病資料館(Ackworth Leprosy Museum)といい、市内ワダラ(Wadala)地区のアックワース・ハンセン病病院(Ackworth Municipal Hospital for Leprosy)/アックワース医科大学(Ackworth Medical College)のキャンパス内に設置されている。元々はここはハンセン病患者を収容した寄宿舎(アシュラム)があった場所で、今も患者が共同生活を送っている棟はあるが規模は縮小され、縮小された跡地に資料館が建設されたものだ。

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上の写真では見づらいかもしれないが、昔の医師がハンセン病患者を診察する際には、直接触れないように間に木の柵を設けていたというのが窺われる置物がある。これに限らず、この博物館は単にムンバイでのハンセン病とその撲滅に向けた取組みの歴史が紹介されているだけではなく、インド全体でのハンセン病についても紀元前に遡って理解できるようになっている。何しろ、ハンセン病の起源自体がインドだと言われているぐらいだから。一般来訪者、特に学校生徒に対する普及教育の教材もあれば、研究者が所蔵資料を閲覧して研究に役立てることができるよう学習室も併設されている。僕が訪問した前日には、日本財団の方が訪問されたというのがゲストブックの記載でわかったが、それ以外での日本人の訪問はあまりないようだ。

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また、ここのキャンパス内には「光の教室」と呼ばれる、スラムの子供達を対象とした補習教育施設が併設されている。ここに通う児童は7歳から14歳の約50人で、映画『スラムドッグ$ミリオネア』で有名になったアジア最大のスラム「ダラヴィ」に住んでいる。通学児童の約半数はハンセン病に罹患した経験があり、その親も患者ないしは回復者であるという。障害が残っている児童も見られる。補修教室なので、中には午前中ここで過ごした後、支給される給食を取ってから学校に通う児童も、逆に午前中学校に行っていて午後からこの教室を訪れる児童もいるらしい。この教室の責任者はシスター・セラフィンという修道女で、元々はカルナタカ州マンガロールご出身で今年1月に84歳になられたが、今も矍鑠とされた立派な方だ。

光の教室では簡単な手工芸品製作や衣服の縫製も教えておられるが、対象が児童なので、所得向上とかを目的としたものでは必ずしもない。ただ、何かしらの形で教室運営の資金に充てられたらいいのかなという気は少しした。粛々とこのような活動が行なわれること自体は非常に意義のあることだが、外部の人にもっと知ってもらい、支持者を獲得していくことも大事だと思う。

放っておいたら映画にも出て来るような世界で教育も受けずにすさんだ少年少女時代を過ごすことになる児童をこのような形で受け入れることは、一緒に過ごして何かをするということ自体にも意義があるように思う。図画工作とか楽器演奏とか創作ダンスといった情緒教育から識字や算数といった実生活にも役立つものまで、教室の活動としてはいろいろなものが考えられるが、言葉ができなくても教えられることはあるため、日本人がちょっと立ち寄ってお手伝いしてくるというのもやりやすいのではないかと思う。ついでに資料館も訪ねてそもそものハンセン病にまつわる問題の所在というのを少しでも学んでいって下さる方がいらっしゃると嬉しい。

但し、問題はそのような短期ボランティアの受け入れを仲介して下さるコーディネーターの方が今は見当たらないというところにある。ムンバイに日系の旅行代理店でもあれば、そこに仲介していただくようなチャンネルも考えやすいのではないかとは思うが、これからの課題だろう。

現在、光の教室はボンベイ・ハンセン病プロジェクト(Bombay Leprosy Project、BLP)という現地NGOが運営支援を行なっている。BLP自体は別の場所にクリニックを持ち、マハラシュトラ州西部地域を中心にハンセン病罹患者の早期発見と治療、罹患の後遺症で障害が残ってしまった回復者の生活補助器具の開発等を行なっている、医療面の活動の方が強い団体であり、近年回復者やその家族の就職可能性(employability)の向上に向けた研修の実施等も始めてはいるものの、教室運営というのは必ずしもBLPの主たる活動ではないため、コーディネーターの配置等は行なっていないので、光の教室を盛り上げていくにはBLPだけでは力不足かなという印象を受けた。

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《パイ代表他BLPスタッフの方と一緒に》

BLP自体もドイツの援助資金が途切れて本体の活動自体の運営資金の確保に苦戦されていると聞いた。スタッフの方々の専門性とその活動は非常に立派なものがあるが、それを十二分に生かすには優秀な事務部門があって事業広報と資金調達をきっちり行なえるようにならないと苦しいのではないかと思う。まあこれはBLPに限らず優秀な専門スタッフを抱えているNGOであればどこでも同じような問題には直面しているのだが、エイズのようなドナー受けする感染症ではなく対象がハンセン病というところにも難しさはあるかもしれない。
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