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『行くのか武蔵』 [読書日記]

行くのか武蔵

行くのか武蔵

  • 作者: 好村 兼一
  • 出版社/メーカー: 角川学芸出版
  • 発売日: 2010/02/11
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
乱世を生き抜き、勝利こそ正義と信じる父、宮本無二。類を見ぬ一途さで、天に背かず己の道を生きんとする子、宮本武蔵。武蔵誕生の秘話、人の世を生きる意味を描く書き下ろし衝撃作。
東京からデリーに戻る機内で一気に読みました。面白かった!

宮本武蔵に関する僕の知識といったら、高校3年の夏休み頃にテレビで連続放映されていた萬屋錦之介主演映画『宮本武蔵』シリーズ5部作、プラスTV東京の12時間ドラマ『それからの武蔵』の再放送と、その年の2月に風邪で数日間寝込んでいる間に読み切った吉川英治著『宮本武蔵』しかない。お通役の入江若葉さんと悠姫役の宇都宮雅代さんの美しさに魅かれて続けざまに見ていた。高校剣道部最後の夏の稽古の後の夕方のひとときを、疲れてぶっ倒れながら見ていたような記憶がある。(大河ドラマの『武蔵MUSASHI』も見ていたのだが、巌流島の決闘の頃はちょうど修論執筆の真っ最中だったため、ちゃんと最後まで見てなかった。)

さて、吉川「武蔵」に限らないと思うが、これまでに描かれてきた宮本武蔵像というのは、本書の著者があとがきでも語っているように、「粗野乱暴の武蔵、勝つためには手段を選ばぬ冷血無慈悲の武蔵、遅刻常習犯の武蔵、仕官を求めて困窮失意の武蔵…」というのが一般的だが、実はこれは虚構で、実際の武蔵はそうではなかったという史実が幾つか発見されているという。義父・無二の下、父の創意工夫した二刀使いの修得に刻苦研鑽を積む傍ら、勉学も熱心で武士のあり方を思索した、優等生・武蔵という姿もあり得るのだそうだ。

そういう武蔵像をベースにストーリーを組み立てなおした結果、生まれたのがこの作品だ。なるほど、こういう見方もあるのかと驚かされるだけではなく、戦国から安土桃山、江戸時代へと移り変わる日本の歴史に宮本父子の周囲で起きた出来事を上手く投影して、武蔵活躍の頃が日本の歴史のどの部分に当たるのかが非常にわかりやすく書かれている。特に関ヶ原の合戦のシーンは、僕も西軍東軍の陣形と戦況の推移について多少なりとも知識があるため、父子がどのあたりで暴れ、そこから生還するのにどのような過酷な行程を強いられたのか、イメージがしやすかった。

ただ、巌流・佐々木小次郎が登場するのがようやく最終章というのでやきもきさせられたのも事実。結末のあっけなさは少し残念ではあった。ストーリー全体が父・無二の視線で語られているため、有名な吉岡兄弟との決闘や一乗寺下り松の決闘シーンなど、ものの見事に端折っている。それに、肝心の武蔵が二刀で闘うシーンがあまり描かれていないのもよくわからないところだ。

Nitoryu.jpg余談ながら二刀流というのは2007年の全日本選手権で山名選手が出場して1勝を挙げられてて話題にもなったが、以前僕が駐在していた米国では結構な数の二刀流の剣士を見かけた。中には、大太刀小太刀を持つ手が左右逆になる逆二刀(村上もとか著『六三四の剣』で、六三四の県内ライバルだった乾俊一が苦行の末に修得したのが逆二刀だった)の方もいらした。僕が直接指導を受けていた先生も二刀流で、地稽古を何度もしていただいたが、こちらの気持ちが引けていると最初の一手が小太刀で簡単に捌かれて大太刀で一本取られる可能性が非常に高いように思えた。逆にこちらが攻めている時は分が良かったが、対戦して慣れていないと、いきなり対戦では多分当惑してうまく試合を運ぶことはできないだろうと思う。

僕がこの著者の本を読むのは実は二回目である。前回は小説ではなく、剣道の稽古法に関する実技書で、これも面白かったので、改めてご紹介しておきたい。

剣道再発見―剣道の「深み」を求める稽古法 (剣道日本)

剣道再発見―剣道の「深み」を求める稽古法 (剣道日本)

  • 作者: 好村 兼一
  • 出版社/メーカー: スキージャーナル
  • 発売日: 2006/12
  • メディア: 単行本



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