チャクラボルティ教授の贈りもの1 [インド]
ガンジス・メグナ・ブラマプトラ河流域の地下水砒素汚染
Groundwater Arsenic Contamination in Ganga-Meghna-Brahmaputra Plain
著者:ディパンカール・チャクラボルティ、バスカール・ダス、ビシュワジット・ナヤック他
1)ガンジス・メグナ・ブラマプトラ流域(569,749k㎡、人口5億人超)及びインド北東丘陵地帯において過去22年間にわたり、22万5,000本の管井戸の分析を行なった我々の調査によれば、インドのガンジス・ブラマプトラ河流域の全ての州(ウッタル・プラデシュ(UP)、ビハール、ジャルカンド、西ベンガル、アルナチャル・プラデシュ、アッサム)、北東8州の丘陵地域、バングラデシュのパドマ・メグナ・ブラマプトラ河流域地帯では、砒素に汚染された地下水により影響を受けている地域が多いとの予想が成り立つ。こうした砒素の源はヒマラヤ山脈にあり、ヒマラヤから流れ出す全ての河川の流域の地下水は砒素を含んでいる可能性が高い。この考え方に基づけば、ブータンでも砒素は検出される可能性がある。
2)しかし、砒素濃度の高さと健康被害のリスクを見た場合、ベンガル湾に面したデルタ地帯が最も危険である。砒素は1976年にチャンディガルとパンジャブ州の一部で検出され、1983年には西ベンガル州で検出された。バングラデシュで検出されたのは1992年のことで、我々の調査チームが発見した。しかし、地下水砒素汚染と健康への影響が西ベンガル州で注目されたのは1995年に我々がコルカタで開いた国際会議でのことである。バングラデシュの場合は1998年のダッカでの国際砒素会議の席上でのことになる。さらには2001年にネパールのテライ平原で砒素は見つかった。我々がビハール州で砒素を検出したのは2002年6月のことだ。その時点でビハールの上流のUP州でもいずれは検出されるだろうと予想していたが、実際に汚染実態と健康被害の状況を確認したのは2003年10-12月の調査の際である。さらには2003年12月から2004年1月にかけてはジャルカンド州で、2004年1-2月にはアッサム州で確認した。2006年5月から2008年7月にかけて予備調査をマニプール、ナガランド、ミゾラム州とアッサムj州のカチャール県で行ない、地下水砒素汚染を確認、2009年にはUP州アラハバードからカンプールにかけての流域踏査により砒素汚染が起きていることを発見した。
3)22年間も調査研究を行なってきたものの、我々は今もこれらを予備調査と呼びたい。なぜなら、砒素汚染の実態は我々が調査で確認した範囲よりもはるかに広く、わかっているのは氷山の一角に過ぎないと信じているからである。最初の砒素汚染が報告されてから27年も経つ今日でも、我々は調査をするたびに住民が汚染地下水を飲んでいる村を1つ2つ必ず発見している。そうした村では砒素が引き起こしたとみられる健康被害に住民が苦しめられている。我々の予測によれば、ガンジス・メグナ・ブラマプトラ河流域で1億人以上の人々がWHO基準10ppmを上回る濃度の汚染地下水を飲んでいる。
4)我々の医療チームはこうした村において15万5000人の住民の健康状況スクリーニングを行なった。約16,000の患者に砒素によると見られる皮膚の異常が見つかっている。重篤な皮膚隔靴症にかかっている患者の中には癌症状を見せている者も増えている。砒素による神経症や、自然流産、死産、超早産、超未熟児出産といった妊婦への影響も記録されている。幼児や子供が汚染地下水を飲んでいると高いリスクに晒されていると見なされる。ガンジス・メグナ・ブラマプトラ河流域の村落での45,000の生体サンプルの分析から、地域住民の砒素中毒症状は未だ医療措置を必要とするレベルに行っているケースは少ないものの、今後さらに増加していくとみられる。
5)西ベンガル州とバングラデシュには、河川や湖沼、洪水地域やU字湖等で豊富な地表水がある。バングラデシュで利用可能な地表水は1人当たり11,000㎥にも上る。ベンガル湾のデルタ地帯は年間降雨量も2,000mmある。ガンジス・メグナ・ブラマプトラ河流域で砒素の影響を受けている地域では、水不足による危機ではなく、利用可能な水資源の管理を巡る危機にあると言える。
先週行なわれたセミナーで、配布資料としてチャクラボルティ教授が配っておられたのがこの2頁の論文要約である。この要約の中に、教授が60分間の基調講演の中でカバーした内容がだいたい含まれているように思う。特に、砒素検出の歴史の部分は参考になる。また、地表水が豊富にあるんだからそれをちゃんと活用せずになぜ地下から水を吸い上げるようなことをやるのかという指摘も教授が講演で強調されていた点である。
この論文の発表年と発表メディアがどこなのかわからないため、これを引用することは難しいかもしれないが、インドと南アジア地域の地下水砒素汚染問題の概略は語られているのではないかと思う。教授からはこの配布資料の他にもう1つ論文を手渡されているのだが、それもいつかご紹介したいと思う。(すぐではないです。ご容赦下さい。)
ただ、ガンジス・メグナ・ブラマプトラの3河川が集まるベンガル湾のデルタ地帯であればこの議論はしてもいいかもしれないが、上流域でも適用可能な議論なのかどうかは疑問だ。
Groundwater Arsenic Contamination in Ganga-Meghna-Brahmaputra Plain
著者:ディパンカール・チャクラボルティ、バスカール・ダス、ビシュワジット・ナヤック他
1)ガンジス・メグナ・ブラマプトラ流域(569,749k㎡、人口5億人超)及びインド北東丘陵地帯において過去22年間にわたり、22万5,000本の管井戸の分析を行なった我々の調査によれば、インドのガンジス・ブラマプトラ河流域の全ての州(ウッタル・プラデシュ(UP)、ビハール、ジャルカンド、西ベンガル、アルナチャル・プラデシュ、アッサム)、北東8州の丘陵地域、バングラデシュのパドマ・メグナ・ブラマプトラ河流域地帯では、砒素に汚染された地下水により影響を受けている地域が多いとの予想が成り立つ。こうした砒素の源はヒマラヤ山脈にあり、ヒマラヤから流れ出す全ての河川の流域の地下水は砒素を含んでいる可能性が高い。この考え方に基づけば、ブータンでも砒素は検出される可能性がある。
2)しかし、砒素濃度の高さと健康被害のリスクを見た場合、ベンガル湾に面したデルタ地帯が最も危険である。砒素は1976年にチャンディガルとパンジャブ州の一部で検出され、1983年には西ベンガル州で検出された。バングラデシュで検出されたのは1992年のことで、我々の調査チームが発見した。しかし、地下水砒素汚染と健康への影響が西ベンガル州で注目されたのは1995年に我々がコルカタで開いた国際会議でのことである。バングラデシュの場合は1998年のダッカでの国際砒素会議の席上でのことになる。さらには2001年にネパールのテライ平原で砒素は見つかった。我々がビハール州で砒素を検出したのは2002年6月のことだ。その時点でビハールの上流のUP州でもいずれは検出されるだろうと予想していたが、実際に汚染実態と健康被害の状況を確認したのは2003年10-12月の調査の際である。さらには2003年12月から2004年1月にかけてはジャルカンド州で、2004年1-2月にはアッサム州で確認した。2006年5月から2008年7月にかけて予備調査をマニプール、ナガランド、ミゾラム州とアッサムj州のカチャール県で行ない、地下水砒素汚染を確認、2009年にはUP州アラハバードからカンプールにかけての流域踏査により砒素汚染が起きていることを発見した。
3)22年間も調査研究を行なってきたものの、我々は今もこれらを予備調査と呼びたい。なぜなら、砒素汚染の実態は我々が調査で確認した範囲よりもはるかに広く、わかっているのは氷山の一角に過ぎないと信じているからである。最初の砒素汚染が報告されてから27年も経つ今日でも、我々は調査をするたびに住民が汚染地下水を飲んでいる村を1つ2つ必ず発見している。そうした村では砒素が引き起こしたとみられる健康被害に住民が苦しめられている。我々の予測によれば、ガンジス・メグナ・ブラマプトラ河流域で1億人以上の人々がWHO基準10ppmを上回る濃度の汚染地下水を飲んでいる。
4)我々の医療チームはこうした村において15万5000人の住民の健康状況スクリーニングを行なった。約16,000の患者に砒素によると見られる皮膚の異常が見つかっている。重篤な皮膚隔靴症にかかっている患者の中には癌症状を見せている者も増えている。砒素による神経症や、自然流産、死産、超早産、超未熟児出産といった妊婦への影響も記録されている。幼児や子供が汚染地下水を飲んでいると高いリスクに晒されていると見なされる。ガンジス・メグナ・ブラマプトラ河流域の村落での45,000の生体サンプルの分析から、地域住民の砒素中毒症状は未だ医療措置を必要とするレベルに行っているケースは少ないものの、今後さらに増加していくとみられる。
5)西ベンガル州とバングラデシュには、河川や湖沼、洪水地域やU字湖等で豊富な地表水がある。バングラデシュで利用可能な地表水は1人当たり11,000㎥にも上る。ベンガル湾のデルタ地帯は年間降雨量も2,000mmある。ガンジス・メグナ・ブラマプトラ河流域で砒素の影響を受けている地域では、水不足による危機ではなく、利用可能な水資源の管理を巡る危機にあると言える。
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先週行なわれたセミナーで、配布資料としてチャクラボルティ教授が配っておられたのがこの2頁の論文要約である。この要約の中に、教授が60分間の基調講演の中でカバーした内容がだいたい含まれているように思う。特に、砒素検出の歴史の部分は参考になる。また、地表水が豊富にあるんだからそれをちゃんと活用せずになぜ地下から水を吸い上げるようなことをやるのかという指摘も教授が講演で強調されていた点である。
この論文の発表年と発表メディアがどこなのかわからないため、これを引用することは難しいかもしれないが、インドと南アジア地域の地下水砒素汚染問題の概略は語られているのではないかと思う。教授からはこの配布資料の他にもう1つ論文を手渡されているのだが、それもいつかご紹介したいと思う。(すぐではないです。ご容赦下さい。)
ただ、ガンジス・メグナ・ブラマプトラの3河川が集まるベンガル湾のデルタ地帯であればこの議論はしてもいいかもしれないが、上流域でも適用可能な議論なのかどうかは疑問だ。
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