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『最悪』 [奥田英朗]

最悪 (講談社文庫)

最悪 (講談社文庫)

  • 作者: 奥田 英朗
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2002/09
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
不況にあえぐ鉄工所社長の川谷は、近隣との軋轢や、取引先の無理な頼みに頭を抱えていた。銀行員のみどりは、家庭の問題やセクハラに悩んでいた。和也は、トルエンを巡ってヤクザに弱みを握られた。無縁だった三人の人生が交差した時、運命は加速度をつけて転がり始める。比類なき犯罪小説、待望の文庫化。
今週は26日の共和国記念日にひっかけて1泊2日のムンバイ行きを行なったのだが、既報の通り最近のデリーは濃霧の影響で空の便のダイヤが乱れに乱れているので、待ち時間が長くなる事態を想定して、厚めの本を携行した。僕と同郷同世代の作家・奥田英朗をある意味有名にした『最悪』である。650頁を超える超大作で、読み切るのには一苦労であったが、25日(月)朝から読み始め、翌日午前中には読み終えた。

複数の一見何の関連性もなさそうな登場人物が、何かの拍子に坂を転げ落ち始め、完全に袋小路にはまっていくうちに登場人物が相互に絡み始め、クライマックスシーンは全員顔合わせの上で絶体絶命のピンチに陥る。そしてその場面を何かのきっかけで切り抜けると、最悪の状況よりは少しましな状況になったところで終幕となる。『最悪』を筆頭に、その後『邪魔』『無理』に続いていく奥田作品の大きな流れだ。また、個々の主人公をこれでもかこれでもかというくらいに窮地に陥れる手法は、伊良部一郎シリーズにも繋がっていく。

これらは奥田作品のお決まりのパターンなので、それ自体には戸惑いはないが、登場人物をいたぶり続ける出来事の数々には、ありがちであまりにリアルで、僕達の生活の中でも1つ間違えば(多分に自分の判断ミスでもないところで)歯車が狂って同じような状況に陥ることだってあり得ると思うと非常に恐ろしくなる。そして、自分の過失とはいちがいには言えないようなことで窮地に陥り、しかも周囲の人間から足を引っ張られる事態が次から次へと起きると、大概の小市民の反応はやっぱり怒り爆発なのだろう。

先週から今週にかけて、職場である現地スタッフに対して僕が激怒して声を荒げるケースが立て続けに起きた。また、外で働いている会社関係者の1人が、大事なものが入ったバッグをオートリキシャーの中に置き忘れたという連絡を受け、関係者一同に向かって「最近弛んどるぞ」と喝を入れなければいけなくなるケースもあった。さらには、職場の中で、僕の指示を待ってて肝心の作業を社員が自己判断で進めることもしてなかったことがわかり、感情を抑えながらもその同僚に苦言を呈したこともあった。逆に苦言を呈せられたことも一方ではあったのですが…(苦笑)。ただでも形勢圧倒的不利な状況に陥っていてこちらの思考回路も大混乱しているところなのに、そういう時に限っていろいろと起きる。そうした時の大抵の反応は「怒り」のほとばしりなのだろう。とにかく怒りに怒った。

ただ、今が「最悪」の状況かと言われると、僕は違うと思う。パニック的状況の中で湧き上がる「怒り」の感情と比べ、その先に控えている「最悪」の状況とは、怒ることももはや諦めた「意気消沈」の状況ではないかと思う。本書の場合も、主要登場人物が銀行で鉢合わせし、そこから一緒に逃亡するというクライマックスシーンの後、落ち着いて今の自分達の置かれている状況を分析しながら出口となる解決策も見出せず時を過ごすシーンが出て来る。「殺すなら殺せ」「どうせ捕まるなら俺1人で…」といった諦めの境地が垣間見えるシーンがある。

今の自分が置かれた状況が「最悪」だとは思えない理由は、未だ怒れるだけのパワーが自分には残っているからだ。職場で足を引っ張り続けている現地スタッフに対しても怒らず、他の想定外の出来事にも怒らず、もはや怒鳴る気力、逆境を跳ね返す打開策を必死で見つけ出そうとする気力も無くした状況というのが、本当の意味で「最悪」なのではないかと思う。そういった状況を3年前の今頃経験していた僕にとっては、今の状況は未だましな方で、これからが本当の「最悪」の状況かもしれないなと薄々感じている。

本書については、最悪な状況がこうして打開されて良かったと思いつつも、個人的には、鉄工所の近所に住むエリート商社マンと銀行支店に配属された将来を嘱望された新人銀行員に対してもう少しちゃんとした鉄槌を喰らわせてほしかったなと思う。それに、チンピラ野村和也君、僕は川谷社長の鉄工所で雇われて終わるのかと期待していたら、別の当たり前のような結末になっていたので、予想が外れてちょっと残念だった。
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