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『家庭のような病院を』 [読書日記]

家庭のような病院を―人生の最終章をあったかい空間で

家庭のような病院を―人生の最終章をあったかい空間で

  • 作者: 佐藤 伸彦
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2008/04
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
富山県の一隅・砺波市に全く新しい高齢者医療住居が誕生する。在宅でも、病院でもない。家族とゆっくりそのときを迎える空間、ナラティブホーム。そこでは、家族とスタッフと医師が一緒になって、患者の元気なときからの生活史を作成します。ナラティブアルバムと呼ばれる生活史を作ると、スタッフも患者を一人の人格として扱うようになりました。カルテには、高齢者のつぶやきを細大漏らさず記録し、ナラティブシートとして家族に読んでもらいます。第三者にはまったく無意味なつぶやきも、遺族にとってはとても意味のあるものなのです。そして、医師は患者の葬儀にも参列して、経過の報告をします。医師が葬儀に出席する理想の終末期病院の物語。
同時並行して読んでいた本があったため、本書を読み切るには5日ほどかかってしまった。

1年ほど前の某週刊誌の書評を見て、読んでみたいなと思っていた1冊。どこかで連載されていたのかと思えるほど随筆のような感じで描かれており、佐藤医師が関わっておられる活動の紹介としては、必ずしも包括的だとは思えない。論旨の重複もあるし、読み終わってみると、幾つかの疑問も感じた。著者紹介を読むと、ナラティブホーム構想の提唱者とされているが、実際に実現したのかどうかが読んでみていまいちよくわからなかった。ナラティブシートやナラティブアルバムは、佐藤医師が副院長を務める病院の業務の範疇でもできることだから既に実現もしているし、新型病衣「スッポりん」も半固形栄養食「マステル」も既に実用化されている(下写真)。それなりの成果も挙げている人ではある。
Supporin.jpg  mastel300-400.jpg

そう思いながら、「ナラティブホーム」でグーグル検索をかけたところ、医療法人社団ナラティブホームというサイトを発見した。これぞまさしく佐藤医師の構想実現への取組みの記録であり、家族のようなあたたかい診療所を目指して、「ものがたり診療所」を今年4月オープン予定と書かれている。行動力もある人なのだなというのを思う。
http://narrative-home.jp/

終末期医療についてストレートに扱っている本を読むのは久し振りのことであるが、ここに書かれている著者の論点には賛成である。ただ、それを理想の姿で運営するにはどれくらいの予算がかかるのか、高齢者向け療養型医療施設は医療費削減の中でどちらかというと冷遇されていると聞いたことがあり、公費による医療費給付だけで本当に病院経営が回っていくのか、著者が勤める砺波総合病院地域医療部というのは看護師がどれくらいいるのか、といったファクトの部分があまり描かれていない。それに、先進的な取組みが砺波で行なわれているからといって、日本全国で同じような取組みが可能であるとは限らない。佐藤医師が行なわれていることが僕の故郷とか東京とかでも可能なのかどうか、実際に取り組まれている方がいらっしゃらないのかどうか、その辺が実は知りたいところであった。

僕の祖母は2002年11月に亡くなった。99歳だった。その頃僕は米国ワシントンで駐在していた。亡くなったと最初の連絡を受けた時、僕は東京から訪問される予定のお客様の応対を翌日に控えていた。日本人は僕だけという職場だったので、誰にもバックアップを頼めなかった。仕方なくもう1日だけワシントンで過ごし、急遽帰国したが、通夜はおろか、告別式にも間に合わなかった。

米国駐在が決まる前、僕はできたら1週間ぐらい時間をもらい、故郷の祖母の昔の話を聴き取りたいと考えていた。その当時で、祖母は僕の故郷である住区で最も長く暮らしていた女性である。地域の歴史というのを聴いておきたかった。「ナラティブアルバム」というのとちょっと似ているかもしれない。もっとも、「ナラティブアルバム」とか「ナラティブシート」と呼ばれるものは、療養施設のスタッフが普段からそのお年寄りを接している中での見たり聞いたりしたことが描かれるものなので、ちょっと違うのだけれど。でも、家族の側にできることとしてはそういうのもありだったのではないかと思う。切れかかった地域と祖母の繋がり、僕自身と祖母との繋がりをもう一度作り直す行為でもあったのだが…。

今となってはかなわぬ願いである。
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