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地下水砒素汚染被害の拡大 [インド]

砒素の影響を受けた住民が増加
Arsenic-affected habitations go up
12月26日、Hindustan Times、Auranzeb Naqshbandi記者
【ニューデリー発】インド農村部で砒素の影響を受けている住民の数は、2006年の6州7,067人から2009年には14州10,004人に増加していることが、下院特別委員会の調べでわかった。先週国会に提出された農村開発特別委員会のレポートによれば、インド農村部でフッ素被害に遭っている住民数も2006年の17州29,030人から2009年には19州33,071人に増加していることもわかった。同委員会は、全国農村飲料水水質モニタリング監視プログラムが2006年2月に始まったにも関わらず、こうした被害者数は増加していると指摘している。
 農村開発省の飲料水供給担当局関係者によると、「各州では多くの地域で農村飲料用水源に砒素が検出されることを予想しておらず、砒素が帯水層をどのように動いているのか理解できていないかもしれません。フッ素については各州ともにほぼ満遍なく分散しており、地下水を過剰に組み上げたことによって飲料用水源へのフッ素溶出が起きているのではないかと考えられます。」
 政府は住民の砒素やフッ素被害への取組みを最優先事項としているが、同委員会報告によると、「必要な取組みは適切な形で行なわれていない」と指摘し、「インド農村部の水源の汚染は深刻な危機をもたらすかもしれない」と警告している。(後略)
*記事全文は下記URLでダウンロード可能です。
http://www.hindustantimes.com/rssfeed/newdelhi/Arsenic-affected-habitations-go-up/Article1-490698.aspx
この記事のヘッドラインに「砒素(arsenic)」という言葉を見つけた時、ああ珍しいなと正直思った。ところが読んでみると、この記事は砒素汚染とフッ素汚染を均等に扱っている。最近、ヘッドラインと内容があまり整合していない新聞記事をよく見かけるが、その典型のような記事である。

Tubewell.jpgただ、指摘されていることは深刻に受け止めなければならないと思う。この記事で言及されている下院特別委員会の報告書というのを少し探してみて見当たらなかったのだが、一目見た時のこの記事の印象は、地下水砒素汚染の被害者数が意外と少ないというものであった。実際、今年僕が5月に訪問したビハール州のガンジス川流域では農業灌漑用に使われている地下水から砒素が検出されたと言われていたし、11月にコルカタのジャダヴプール大学工学部のC教授を訪問した際にもこの問題の深刻さを散々聞かされた。それ以前に、隣りのバングラデシュでは全国的に地下水砒素汚染の問題が深刻で、健康被害も相当に出ている。

西ベンガル州政府は公式には認めていないし、ガンジス川上流のビハール、ウッタルプラデシュ州政府もあまりおおっぴらには認めていない。しかし、C教授によると、インドで砒素が初めて地下水から検出されたのはガンジスのもっと上流のチャンディガルだというし、地下水砒素汚染の一報を受けるや否やすぐに現地入りして全井戸水質検査を実施し、汚染された水を飲まないよう住民啓蒙を行なっているC教授の調査チームは、11月にはアッサム州に入っていると聞いた。砒素が検出されているのはガンジス川流域だけではなく、北東部のブラマプトラ川流域にもあるのだということなのだ。

そうなると、「砒素の影響を受けている住民」というのはどのような定義に基づいてカウントされているのか、疑問が湧いてくる。汚染された水を飲んでいる人の数なのか、健康被害を訴えている住民の数なのか、定義によってカウントの仕方が変わってくる。(このことは、C教授がウッタルプラデシュ州の某県で井戸水から砒素が出ていることをご存じなかったという事実にも表わされている。)

11月にC教授にお目にかかり、「インドの砒素問題とそれに対する取組みのグッドプラクティスにについて調べたい」と申し上げたところ、C教授は丁寧かつ婉曲的な言い方ではあったけど、およそ次のようなことを言われた。

「先ず現地の言葉を理解しなければ砒素問題は理解できない。」

「長期間村に入り村人と一緒に暮らしてみなければ砒素汚染の問題は理解できない。」

「問題への取組みのベストプラクティスを知りたければ、バングラデシュに行ってアジア砒素ネットワーク(日本のNGO)の人から3日ほど話を聞け。」

現地語も長期間にわたる農村での滞在も今の自分の立場ではなかなかできない。だから手っ取り早く話が聞けないかと考えたのだが、考えが甘かったかも…。

今年出会ったインド人の中で、最も印象に残っているのが、ジャダブプール大学工学部のC教授だった。丁寧な口調でもその熱い熱い魂が言葉にこもっているのをひしひしと感じた。こういう、理論と実践が両方伴っている人がちゃんといるというところにインドの奥の深さを痛感させられた。

そして、C教授との出会いから、僕はアジア砒素ネットワーク(AAN)という日本のNGOが、世界的にも評価される優れた活動を展開している団体であるということを改めて認識させられたのであった。

バングラデシュの地下水砒素汚染問題とアジア砒素ネットワーク(AAN)、そしてバングラデシュにおけるAANの経験については、次の2冊が詳しい。こうした本がインドにはないのが残念だ。

アジアに共に歩む人がいる―ヒ素汚染にいどむ (岩波ジュニア新書 (521))

アジアに共に歩む人がいる―ヒ素汚染にいどむ (岩波ジュニア新書 (521))

  • 作者: 川原 一之
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2005/11
  • メディア: 新書

村の暮らしと砒素汚染―バングラデシュの農村から (KUARO叢書)

村の暮らしと砒素汚染―バングラデシュの農村から (KUARO叢書)

  • 作者: 谷 正和
  • 出版社/メーカー: 九州大学出版会
  • 発売日: 2005/09
  • メディア: 単行本


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