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『風に舞いあがるビニールシート』 [読書日記]

風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)

風に舞いあがるビニールシート (文春文庫)

  • 作者: 森 絵都
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2009/04/10
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
才能豊かなパティシエの気まぐれに奔走させられたり、犬のボランティアのために水商売のバイトをしたり、難民を保護し支援する国連機関で夫婦の愛のあり方に苦しんだり…。自分だけの価値観を守り、お金よりも大切な何かのために懸命に生きる人々を描いた6編。あたたかくて力強い、第135回直木賞受賞作。
6月の一時帰国の際に購入しておきながら、引越しのどさくさの中で書棚の奥の方に隠れてしまっており、数日前まで気付かなかったのがこの1冊。近所に住んでおられる会社の関係者の方が、「冬休み中に読みたいから重松清と海堂尊の小説をまとめて貸して欲しい」と言って拙宅を訪問され、書棚を物色している中で気付いた。

この、今まで読んだこともない作家の短編集を購入した理由は、標題にもなった短編「風に舞いあがるビニールシート」が、6月頃に放映されていたNHKの土曜ドラマで扱われていたからだった。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)という、世界各地で難民支援を行ないながら、自らも死と背中合わせの中で活動をしている国際公務員を取り上げた作品で、放映当時はかなり話題にはなっていた。
*NHK土曜ドラマ「風に舞いあがるビニールシート」のURLは以下の通りです。
 http://www.nhk.or.jp/dodra/kaze/

だから本書を購入するきっかけはNHKのドラマだったということだが、実際他の収録作品を読んでみると、この短編集の質の高さに驚かされる。僕が最もよく読んでいる短編小説の基準は重松清や奥田英朗なのだが、女性の作家の作品というのはちょっと視点が違うと感じるし、扱っている題材もちょっと違う。

有名パティシエのマネージャーとか、犬の保護団体のボランティアとか、社会人向け大学の提出レポート代筆とか、仏像修復師とか、UNHCR職員とか、とにかく登場人物の背景設定が意表を突いている。おそらく作品を書くのに必要な事前の情報収集にも大変な時間を費やしておられる筈であるが、そうしたものを感じさせないほどさらっとしたタッチで描かれているような気がする。

アマゾンの書評等を見ていると、「風に舞いあがるビニールシート」「ジェネレーションX」、「鐘の音」が好きだと仰る方が多いようであるが、上に述べたような視点から評価すると、僕にとっての最も印象的な作品は実は社会人向け大学に30歳前になって通い、仕事とレポート提出との間でにっちもさっちも行かなくなった主人公・裕介が、レポート代筆をしてくれる噂の女性ニシナミユキを探し、そして仕事を依頼するという「守護神」である。

結局、裕介はニシナミユキに代筆を断られるのであるが、何故この短編が最も印象的かといえば、裕介をして語らせている『伊勢物語』や『徒然草』に関する考察がものすごく新鮮だったからだ。裕介が何故レポート執筆に四苦八苦していたかというと、それ以前の作品読込み、特に仮説を設定したうえでの検証プロセスにあまりにも多くの時間をかけ過ぎてレポート提出締切に間に合わなくなりそうになったからであり、本人もそれに気付いておらず、先にそれに気付いたニシナミユキから、「あなたに必要なのはガス抜きのできる相手」と言われ、結局裕介は自分自身でレポートを書き上げる決心をして引き揚げるのである。本編の中での裕介が述べた『徒然草』の考察はものすごく新鮮だった。長いので一部分のみ収録する。
「兼好が途中から執筆のモチベーションを変えて、意識的にバランスを整えた、と?」
「ビンゴ。ここからはあくまで推論だけど、兼好が心にうつりゆくよしなし事をそこはかとなく書き綴ってたのは、頭の三十段までじゃないのか。この三十段と三十一段とのあいだには結構長いタイムラグがあるって言われてるよな。兼好はその期間にこの三十段までを誰かに読ませてみたんじゃないか。そしたら思いのほかウケがよかった。これはイケる、と兼好は思ったわけだ。それで三十一段以降は読者の目を意識して書くようになった。自分個人の心のつぶやきだけじゃなく、もっと幅広い知識や逸話をとりこんで、説教話も下世話な話もほどよくちりばめて、最後まで読者を飽きさせない構成にしたんだ。(中略)無常観がどうの、死生観がどうのってより、奴の読者サービス精神の賜物だと俺は思うんだけど。」(pp.133-134)
――なんだか、僕自身のブログの変遷を辿っているような気がする一節だ。1日100PVぐらいまでだった時代は読み手の顔が想像できたが、それが100PVをコンスタントに超えるようになった時点で想定していた読者を家族・友人・知人から不特定多数の読者に切り替えた。それによって取り上げる題材も、記述の内容も大きく変わったと思う。

どうも主人公が女性という作品はなかなか共感を以て作品に入りづらいなと感じる。だから、「器を探して」「犬の散歩」は、エンジンがかかって読み込みに加速がつくまでにすごく時間がかかったし、「風に舞いあがるビニールシート」も、結局主人公と同じ気持ちに本当になるのかどうかはそういう境遇に置かれてみないとわからないよなぁ…というので終わってしまった。

さて、この作品で直木賞を受賞した森絵都さん、実は児童小説出身なのだそうで、そうするとこれから子供達がお世話になることも多いのかもしれないなと思う。親子でする読書という点において、今後も覚えておきたい作家だなと思っている。
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