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『黄色い目の魚』 [読書日記]

黄色い目の魚 (新潮文庫)

黄色い目の魚 (新潮文庫)

  • 作者: 佐藤 多佳子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/10
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
海辺の高校で、同級生として二人は出会う。周囲と溶け合わずイラストレーターの叔父だけに心を許している村田みのり。絵を描くのが好きな木島悟は、美術の授業でデッサンして以来、気がつくとみのりの表情を追っている。友情でもなく恋愛でもない、名づけようのない強く真直ぐな想いが、二人の間に生まれて―。16歳というもどかしく切ない季節を、波音が浚ってゆく。青春小説の傑作。

『一瞬の風になれ』を以前読んだ時にも強く感じたのだが、佐藤多佳子の作品は、読み始めてから暫くの間がとても苦痛に感じる。今時の中学生、高校生のしゃべり方に感じる違和感なのだろう、実際のセリフだけではなく、主人公の心の葛藤の表現ぶりにも馴染めない。それを我慢して読み進めるにつれ、少しずつ慣れてきてようやくその作品にハマっていくのである。『黄色い目の魚』もそんな作品だった。

先月本帰国された支社長が置いて行かれたご自宅の蔵書の1つである。たまには佐藤多佳子もいいかなと思い読み始めたが、第2章を読み終えるところまでは、本当にこの先読み進めていいのだろうかと本気で悩んだ。

おそらくこうした違和感は読者である僕自身の年齢によるところが大きいと思う。40代の自分が40代の作家が描く高校生活というのでは重松清や奥田英朗の方がずっと違和感が少ない。特に重松作品には今どきの高校生活を描いた作品も結構あるが、そこでの高校生達の会話や心の動きの描き方には40代の男性読者であっても理解できるところが多い。佐藤多佳子はこの作品の原型を大学生時代に書いたらしいので、高校生活が記憶に新しいところで書かれたのだろうと思うが、『一瞬の風になれ』はそれよりもずっと後に書かれた作品であり、それでも違和感があるということは読者としての僕らの年齢が既に佐藤作品を読むのに合わなくなってきているのではないかという気がする。それに、女性作家が描く男子高校生はこんな姿になるんだなというのにも…。今どきの高校生に木島悟のような奴が存在するのだろうか。

僕はここまで1人の女子高生を真剣に見つめるような高校生活は送ってない。以前ブログにご登場願ったバレーボール部エースのHさんにしても、3年間クラスも同じでじっくり見つめる機会がなかったわけでもないが、目を見つめるという経験は記憶にない。仮にどこかで告白して付き合い始めていたとしても、それが爺さん婆さんになるまで続くとはとうてい思っていなかっただろう。

文庫版に寄稿されている角田光代さんが「この作品は高校生である自分に読ませたかった」というようなことを仰っていたが、僕もそう思った。実際問題そんなことは不可能なのだが、可能なこととしては、我が子が中学生に上がった時には読んでみて欲しいなということは思った。選ぶのは子供達だろうが、読ませてみたい気はする。うちの息子は少し前まで「画家になりたい」と言っていて妻と僕を不安に陥れていたし、サッカーならサッカー、野球なら野球でいいので、中学・高校時代は仲間と一緒に過ごす時間を大事にして欲しいし、かといって友達の多寡云々で一喜一憂せず今の自分に何が大事かを考えて欲しいし…。本を読むのが好きだと言っていたうちの娘にも安心して薦められそうだ。
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nori

こんにちは。

私もSanchaiさんとほぼ同世代だと思います。
この本は読んでいませんが、最近の作品での若い登場人物のしゃべらし方への違和感。すごく良く解ります。
まぁ、読み進めるとあまり気にならなくなるのですが。

私は自分の息子のしゃべり方にも、気になり始めたこの頃です。

女性作家の描く少年・青年には、あり得ない造形がなされることがあることも、確かにたまに気になりますね。
by nori (2009-11-05 10:08) 

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