デリーの老人ホーム調査レポート [インド]
HelpAge India
Old Age Homes in Delhi & the NCR: Findings from a rapid study
HelpAge India Shelter Prorgramme
November 2007
インドの高齢者の権利擁護と生活改善を支援するNGOであるHelpAge Indiaのマシュー・チェリアン代表に8月にお目にかかった際にいただいた小冊子。2007年にHelpAge Indiaが行なったデリー周辺の老人ホームのリストと概要がコンパクトに纏められており、老人ホームを見学する際の視点の整理に適した1冊である。
デリー準州内にある老人ホームは調査実施時点で35施設。本書はこの35施設全てをリストアップしているが、施設概要表は32施設分、しかも実際に訪問調査に応じた30施設分についてその詳細が記載されている。うち14施設は入居者完全無料、10施設は完全入居者負担、6施設は一部入居者負担だという。30施設中21施設は1997年以降に設立されており、4施設は逆に1980年以前に設立された歴史ある老人ホームなのだそうだ。
運営母体は17施設がNGO、6施設が宗教団体で、逆に公営の施設は3つのみである。1施設当たりの平均ベッド数は50床(最高は150床、最小は8床)、入居者の男女比は40:60で女性の方が多い。入居者総数747名のうち、男性は277名、女性は410名だった。
どの所得階層の入居者をターゲットとしているのかで見た場合、6施設は貧困層、15施設は低所得から中所得層の間をターゲットとして一部貧困入居者受入れ、4施設は中所得者層、さらに4施設が中高所得者層をターゲットとしているという。この冊子にある各施設のデータを用いればもっと傾向はつかめると思うが、おそらく入居者負担の大きい施設ほど高所得者層をターゲットにしているのではないかと思われる。
スタッフの人数は、入居者5~6人にスタッフ1人の割合で、1施設当たり平均3~4人のスタッフが配置されている。これを介護士の教育水準で見た場合、12年制以上(日本の高卒以上)で研修を受けたスタッフは全体の20%程度、残りは介護研修も受けていない未熟練のスタッフだという。また、施設長の教育水準も、専門学位を取得している者は全体の20%、政府職員を退職し、少なくとも学士以上を修了している者が20%、残る60%は実務経験も乏しく何ら学位を持たない者が務めているという。
ちょっと驚きなのは地域との繋がりの薄さだ。地域社会へのアウトリーチを施設のプログラムに取り入れているところはわずか3施設しかない。
財源については、17施設(60%)が篤志家の寄附に依存しており、3施設(10%)が政府依存(全て公営)、6施設(20%)で入居者からの支援金への依存があり、3施設(10%)は特定個人・ファミリーからの資金拠出に依存しているという。
医療サービスへのアクセスでは、80%の施設では週1~2回または呼び出しに応じて医師が訪問を行なっている。20%の施設では医師が毎日巡回、3施設(10%)ではHelpAge Indiaが巡回医療班(Mobile Medical Unit)を巡回させている。6施設(20%)には救急車サービスへのアクセスがある。6施設(20%)には理学療法センターが設置されている。
施設の設計については、30%の施設でトイレにレールが据え付けられている。車椅子で移動するのに十分な広さがある施設は70%、15%の施設には地下階がある。高齢者に優しい施設設計と言えるのは20%に過ぎない。
入居者が入居を決めた動機として大きいのは、家族の問題(70%)が圧倒的である。入居者の10%は娘だけがいて親の面倒が見れないことを理由に挙げ、10%が未婚であること、10%が子供達の転出・移住を理由に挙げた。
以上述べていったのは本書の要約の一部であるが、これだけ見ても次のことがわかる。第1に、結構寂しい動機で入居を決めていることである。子供が遠くに引っ越してしまったからどうにもならないとか、娘しかいないので娘の嫁ぎ先にも配慮して頼りたくても娘に頼れないとかいうケースもあるが、それ以前に家族内での紛争が発端となって入居を決めたケースが多いというところに寂しさを感じる。第2に、入居はしたものの施設は必ずしも十分なインフラが揃っているわけではなく、入居生活に不便が強いられるだけでなく、ややもすると必要な時に必要な医療サービスも受けられないという状況に陥る恐れがある。
また、これだけ見てもわからないところもある。例えば入居者の平均待ち期間である。入居に至るプロセスというのが元々施設の関係者と何らかの形で知り合いだったというのが多いようなのでそれほど待ち期間は長くなかったのではないかと思われるが、逆にデリー準州全体を見回しても747名という収容人数の解釈の仕方には困る。入りたくてもコネがなくて入れない人や、そもそもそういう施設が存在していることすら承知していない高齢者が大勢いるのではないかと思われるので、実際のところに入居しやすさというのはもっと調べてみないとわからない。
いずれにしてもコンパクトだが有用な資料だと思う。今後どこの地域の老人ホームを訪問する機会があったとしても、ここで挙げたような項目は調査対象となるだろう。その意味ではとても手放せない冊子である。
Old Age Homes in Delhi & the NCR: Findings from a rapid study
HelpAge India Shelter Prorgramme
November 2007
インドの高齢者の権利擁護と生活改善を支援するNGOであるHelpAge Indiaのマシュー・チェリアン代表に8月にお目にかかった際にいただいた小冊子。2007年にHelpAge Indiaが行なったデリー周辺の老人ホームのリストと概要がコンパクトに纏められており、老人ホームを見学する際の視点の整理に適した1冊である。
デリー準州内にある老人ホームは調査実施時点で35施設。本書はこの35施設全てをリストアップしているが、施設概要表は32施設分、しかも実際に訪問調査に応じた30施設分についてその詳細が記載されている。うち14施設は入居者完全無料、10施設は完全入居者負担、6施設は一部入居者負担だという。30施設中21施設は1997年以降に設立されており、4施設は逆に1980年以前に設立された歴史ある老人ホームなのだそうだ。
運営母体は17施設がNGO、6施設が宗教団体で、逆に公営の施設は3つのみである。1施設当たりの平均ベッド数は50床(最高は150床、最小は8床)、入居者の男女比は40:60で女性の方が多い。入居者総数747名のうち、男性は277名、女性は410名だった。
どの所得階層の入居者をターゲットとしているのかで見た場合、6施設は貧困層、15施設は低所得から中所得層の間をターゲットとして一部貧困入居者受入れ、4施設は中所得者層、さらに4施設が中高所得者層をターゲットとしているという。この冊子にある各施設のデータを用いればもっと傾向はつかめると思うが、おそらく入居者負担の大きい施設ほど高所得者層をターゲットにしているのではないかと思われる。
スタッフの人数は、入居者5~6人にスタッフ1人の割合で、1施設当たり平均3~4人のスタッフが配置されている。これを介護士の教育水準で見た場合、12年制以上(日本の高卒以上)で研修を受けたスタッフは全体の20%程度、残りは介護研修も受けていない未熟練のスタッフだという。また、施設長の教育水準も、専門学位を取得している者は全体の20%、政府職員を退職し、少なくとも学士以上を修了している者が20%、残る60%は実務経験も乏しく何ら学位を持たない者が務めているという。
ちょっと驚きなのは地域との繋がりの薄さだ。地域社会へのアウトリーチを施設のプログラムに取り入れているところはわずか3施設しかない。
財源については、17施設(60%)が篤志家の寄附に依存しており、3施設(10%)が政府依存(全て公営)、6施設(20%)で入居者からの支援金への依存があり、3施設(10%)は特定個人・ファミリーからの資金拠出に依存しているという。
医療サービスへのアクセスでは、80%の施設では週1~2回または呼び出しに応じて医師が訪問を行なっている。20%の施設では医師が毎日巡回、3施設(10%)ではHelpAge Indiaが巡回医療班(Mobile Medical Unit)を巡回させている。6施設(20%)には救急車サービスへのアクセスがある。6施設(20%)には理学療法センターが設置されている。
施設の設計については、30%の施設でトイレにレールが据え付けられている。車椅子で移動するのに十分な広さがある施設は70%、15%の施設には地下階がある。高齢者に優しい施設設計と言えるのは20%に過ぎない。
入居者が入居を決めた動機として大きいのは、家族の問題(70%)が圧倒的である。入居者の10%は娘だけがいて親の面倒が見れないことを理由に挙げ、10%が未婚であること、10%が子供達の転出・移住を理由に挙げた。
以上述べていったのは本書の要約の一部であるが、これだけ見ても次のことがわかる。第1に、結構寂しい動機で入居を決めていることである。子供が遠くに引っ越してしまったからどうにもならないとか、娘しかいないので娘の嫁ぎ先にも配慮して頼りたくても娘に頼れないとかいうケースもあるが、それ以前に家族内での紛争が発端となって入居を決めたケースが多いというところに寂しさを感じる。第2に、入居はしたものの施設は必ずしも十分なインフラが揃っているわけではなく、入居生活に不便が強いられるだけでなく、ややもすると必要な時に必要な医療サービスも受けられないという状況に陥る恐れがある。
また、これだけ見てもわからないところもある。例えば入居者の平均待ち期間である。入居に至るプロセスというのが元々施設の関係者と何らかの形で知り合いだったというのが多いようなのでそれほど待ち期間は長くなかったのではないかと思われるが、逆にデリー準州全体を見回しても747名という収容人数の解釈の仕方には困る。入りたくてもコネがなくて入れない人や、そもそもそういう施設が存在していることすら承知していない高齢者が大勢いるのではないかと思われるので、実際のところに入居しやすさというのはもっと調べてみないとわからない。
いずれにしてもコンパクトだが有用な資料だと思う。今後どこの地域の老人ホームを訪問する機会があったとしても、ここで挙げたような項目は調査対象となるだろう。その意味ではとても手放せない冊子である。
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