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『阿弥陀堂だより』 [南木佳士]

阿弥陀堂だより (文春文庫)

阿弥陀堂だより (文春文庫)

  • 作者: 南木 佳士
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2002/08
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
作家としての行き詰まりを感じていた孝夫は、医者である妻・美智子が心の病を得たのを機に、故郷の信州へ戻ることにした。山里の美しい村でふたりが出会ったのは、村人の霊を祀る「阿弥陀堂」に暮らす老婆、難病とたたかいながら明るく生きる娘。静かな時の流れと豊かな自然のなかでふたりが見つけたものとは…。

映画化された作品でもあるので、先ずは映画の予告編をご覧下さい。


この予告編の映像と役者の佇まい、そして背景に流れる音楽が、原作の雰囲気を見事に捉えていると思う。原作の方のこの夫妻の年齢は43歳なので、寺尾聰や樋口可南子の実年齢よりは下だろうが、このお二人のキャストは原作の夫婦と見事にイメージが重なる。予告編を見るだけでこの映画も見たくなったし、原作も読みたくなった。

佐久総合病院の現役医師だった南木佳士さんの作品を読むのは二度目であるが、最初は岩波新書から出た故・若月俊一院長の伝記だったから、小説というのは今まで読んだことがなかった。ところが最近、僕のブログによくコメントを下さるnoriさんが、ご自身のブログにおいてこの作品をご紹介下さった(記事はこちらから)。noriさんはスカパーで放映された映画の方で先に感動してそれから原作を読まれたという。

僕は佐久病院の別の医師の方から一度佐久にいらっしゃいとお誘いを受けているので、佐久病院の関係者の方が書かれた本は、たとえ小説であろうと少しぐらいは読んでおきたいと思った。これをきっかけに、もう少し南木作品は読んでおきたいと思う。その第1弾が『阿弥陀堂だより』なわけだが、この作品の舞台自体が長野県の山村なので、若月医師と佐久病院のチームが、どのような土地で農村巡回医療を展開されてきたのか、本書を読んで少しわかったような気がする。そして、そういう土地で暮らすお年寄りが、死ぬことと生きることついてどのような捉え方をしているのかも、作品で描かれている孝夫の祖母やおうめ婆さんを見ているととてもよくわかる。

阿弥陀堂を40年にわたって守り続けるおうめ婆さんが、実は普段のトイレをその都度畑に鍬で穴を掘ってそこで用をたして済ませていると聞いた孝夫が、トイレを作るという場面があるが、それがかえって余計なお節介になってしまうというエピソードが出て来る。固定式のトイレの肥しを汲んで運んで畑に播くのが面倒だとか、年寄りはそんなに食べないからそんなに排泄しないので、大きなトイレなど要らないとか、鍬を使った穴掘りで踏ん張って腸を刺激しないと大の方がかえって出なくなってしまうとか、目からウロコのようなお話だ。そういうのを実際の巡回医療で経験されているからこそ描けるエピソードなのだろう。

静かな作品だ。小説として見た時には終盤の盛り上がりに欠けるところはあるが、そんなドラマチックな出来事などなく、ゆったりと時が流れていくのが日本の山村だろう。だからこの作品はこの作品でいいような気がする。
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コメント 1

nori

こんにちは。
リンクまで張っていただいて恐縮です。
ありがとうございます。

この本は、確かに静かな物語と私も感じました。
この静かさが、妻の精神的な再生を、ゆっくりと描き出しているような・・・そんな感じがします。

今後も、ブログ更新、楽しみにしています。
by nori (2009-11-05 09:55) 

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