SSブログ

『東京物語』 [奥田英朗]

東京物語 (集英社文庫)

東京物語 (集英社文庫)

  • 作者: 奥田 英朗
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2004/09
  • メディア: 文庫

内容(「BOOK」データベースより)
1978年4月。18歳の久雄は、エリック・クラプトンもトム・ウェイツも素通りする退屈な町を飛び出し、上京する。キャンディーズ解散、ジョン・レノン殺害、幻の名古屋オリンピック、ベルリンの壁崩壊…。バブル景気に向かう時代の波にもまれ、戸惑いながらも少しずつ大人になっていく久雄。80年代の東京を舞台に、誰もが通り過ぎてきた「あの頃」を鮮やかに描きだす、まぶしい青春グラフィティ。

ニューデリー日本人学校の図書室に奥田作品が置いてあったので、読んでみることにした。あまり沢山作品を読んだことがある作者ではないが、『イン・ザ・プール』『空中ブランコ』『町長選挙』という伊良部一郎シリーズと、『オリンピックの身代金』のような長編小説(一応サスペンスものというジャンルなんでしょうか)という両極端の作品を読んでしまうと、作家としての評価がよくわからなくなる。

『東京物語』という短編集は、またも新たな趣の作品である。一応登場人物の間の様々なやり取りや主人公・田村久雄の心の動きの描き方は伊良部一郎シリーズに通じるものがある。特に、幾つかの短編の中で度々繰り広げられた久雄と森下の会話など、「森下は伊良部か」と思わせるものがある。森下以外にも、久雄を振り回す人物は何人か登場し、それで久雄のペースが乱されるのだが、結局1日が終わってみると、ささやかなハッピーエンドという形で終わっている。

本書を読んで、奥田英朗という作家が好きになったような気がする。『オリンピックの身代金』については時代描写の巧みさに舌を巻き、畏怖の念も抱いたが、『東京物語』は、主人公・久雄の年齢が僕より4つ上で少しだけ世代がずれているとはいえ、地方(それも同じ東海地方!)から東京に出てきた青年の生活としては非常に共感を覚える。僕も同じようなことをしていたし、友人と同じような会話をしていたと思う。同時代性をすごく感じる。重松清的な軽さではなく、酒もタバコも登場し、徹夜も授業をサボるのも日常茶飯事というちょっとどろっとしたところの方が、実際の地方出身の学生の取りあえずの上京生活には合っていると思う。東海地方出身で、かつ浪人生活を過ごして、それで東京の大学に入学した時には既にタバコをプカプカ吸っていたという奴は、僕の周りにもいた。現役で三重県から同じ学部に入学して、入学当初からファッションに気を遣いつつタバコはマイルドセブンというKという奴を主人公・久雄に投影させながら、本書を読み進めた。

既にお察しの方もあるかもしれないが、この作品は作者の一種の自叙伝である。奥田英朗さんは岐阜県出身で、僕より4つ上。プランナー、コピーライター、構成作家を経て1997年(38歳の時)に作家デビューをしている。構成作家はともかく、その前までのキャリアは久雄とすごくダブる。

中日ドラゴンズ・小松辰雄入団、キャンディーズ引退公演@後楽園球場、江川卓プロ野球初登板、名古屋五輪招致失敗等を東京で経験しているところは4歳の歳の差は感じる。何しろ、僕は自分の大学入試の小論文で名古屋五輪招致失敗を論じたぐらいだから。だから、小説前半では微妙なズレも感じたが、後半で登場するラグビー新日鉄釜石6連覇なんてのは僕も東京で見ていた。逆に、ベルリンの壁崩壊の報もは、東京でなく就職して初めて住んだ名古屋で接した。バブル経済絶頂期で、人の感覚がおかしくなっていた時期であるが、何かがおかしいと人々が感じ始めたのが1989年11月だった。日経平均株価がピークを記録したのはこの年の暮れのことだった。

こういう、何か世間を騒がせた大きな事件があった日に自分が何をやっていたかは意外とよく覚えたいたりする。どの短編もそうした世の中の出来事と自分の身の回りで起きた出来事を上手く組み合わせ、その日1日の中でのドタバタを小説としてまとめているところに特徴がある。収録作品は5点。どれも味わいある作品だ。

奥田作品、もうちょっと読んでみたいなと思う。
この短編集、一気に読み切ってしまったのはもったいなかった。
nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(2) 
共通テーマ:

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 2