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『テレメディシン』 [読書日記]

地域医療を変えるテレメディシン―IT遠隔医療の実践

地域医療を変えるテレメディシン―IT遠隔医療の実践

  • 大槻 昌夫監修 女川テレメディシン研究会編著
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2001/01
  • メディア: 単行本
内容(「MARC」データベースより)
東北大学医学部附属病院と宮城県女川町立病院との間で行われてきた遠隔医療の大規模な実践を総括。「病病連携」「病診連携」に道を開く注目のプロジェクトの全貌を明らかにし、ITを活用した地域医療の活性化の可能性を示す。

以前、知り合いの方に遠隔医療の解説書として薦められたのが本書である。先月の一時帰国の折に購入してインドに持ってきた。2001年発刊と少し古いが、基本的な理解のためには丁度良い内容とボリュームだと思う。

『格差なき医療』を読んだ際、無医村では遠隔医療は意味をあまりなさないのではないかというのが気になったのだが、今回もそれに近い感想をやはり持った。また、本書は東北大学医学部附属病院と宮城県女川町立病院を結んだ遠隔医療の実験とともに、国内の様々な遠隔医療の実践事例について紹介しているが、どういうわけか『格差なき医療』で紹介された旭川医科大学附属病院遠隔医療センターのことについては一言も触れていない。「一般に行なわれている遠隔医療では、病理や放射線など特定診療科のみを対象とする場合がほとんどである。また、遠隔医療を行なうための機器やネットワークは病院内のインフラとは切り離し、スタンドアローンで利用されることが多い」(p.26)にあるが、これは旭川医科大学の眼科遠隔利用のことを暗に言っているような気がしてしまう。

また、旭川医科大学がどちらかというと総務省系の独立行政法人情報通信研究機構(NICT)と関係が強いのに対し、東北大学医学部と女川テレメディシン研究会は厚生労働省に近い。なんとなく何かありそうな気がする。

だからといって、遠隔医療に対する姿勢に大きな違いがあるかというとそうでもないのであるが、繰り返しになるが本書は自治体病院における専門医不足を大学病院とネットワークで繋いでアドバイスできるようにしようという発想があるため、自治体病院から地域の各世帯に対して何をどうするとか、開業医・診療医との連携とかいったことはあまり触れられていなかった。本書では、遠隔医療を定着させるためには、専門の病理医が少ない状態でこれを補う利用のされ方と、情報化のなかでボーダーレス敵に医療情報が利用されていく場合(電子カルテや医師を含むスタッフの勉強の機会等)とに分けて考える必要があると指摘するが(p.123)、本書を読んでいるとどうも後者の方のメリットの方が多くありそうな気がして、医師不足、専門医不足の解消に多大な貢献をするとはなかなか考えにくいと思った。

もう1つは、旭川医科大学にしても東北大学にしても言えることだが、大学医局を頂点として各自治体病院に大学卒業生を順繰りに送り込むようなヒエラルキーが機能していて、それが前提としてのネットワーク構築であるとの印象を受ける。本書が書かれたのは2001年ということで、新臨床研修医制度が導入されておらず、大学による医師引き上げが問題化していなかった時期の話であるから、この仙台・石巻地方の遠隔医療ネットワークが今も機能しているのかということについては注意が必要だろう。(『格差なき医療』の方は2007年発刊だが、眼科中心だったのであまり臨床研修医制度の影響は受けていなかったのではないかと推測される。)

結局のところ、インドの無医村対策における遠隔医療の可能性については、インド国内の取組み事例をちゃんと調べて実際に見てみないとわからないなと感じた。画像データを送受信するので回線容量が大きくなければならないというのが本書では強調されているが、そうした通信インフラが前提の話では、今のインドの農村部には馴染まない。むしろ、ケータイやSMSを使って何かをするというレベルのものから入っていかなければならないのではないだろうか。
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