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『ジェネラル・ルージュ~』色々 [海堂尊]

ジェネラル・ルージュの伝説 海堂尊ワールドのすべて

ジェネラル・ルージュの伝説 海堂尊ワールドのすべて

  • 作者: 海堂尊
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2009/02/20
  • メディア: 単行本
内容紹介
映画化&ドラマ化もされた320万部突破のベストセラー『チーム・バチスタの栄光』の、大人気「田口・白鳥」シリーズ最新刊が登場です。本作は、シリーズ第3弾『ジェネラル・ルージュの凱旋』のスピンオフ小説。救命救急医・速水が「将軍」と呼ばれるきっかけとなった事件が描かれます。また、海堂尊の日々を綴ったエッセイや、創作の秘密を惜しみなく明かした自作解説も収録。すべてこの本のための書き下ろしです。さらに広がり続ける「海堂尊ワールド」を徹底解剖した、登場人物一覧&関係図&年表&用語解説&医療事典付き。ファン必読です。
ここまで海堂尊作品をいろいろ読んできたけれど、面白かったと言えば『ジェネラル・ルージュの凱旋』を推す。初期の海堂作品といえば中心になるのは田口・白鳥コンビだが、『ジェネラル・ルージュの凱旋』における速水医師は、田口・白鳥を完全に喰っている。とても鮮烈なキャラで速水ファンの読者というのはかなり多いのではないかと推測される。

次に好きなのは『ブラック・ペアン1988』である。以前この本をブログで紹介した際、花房看護師長がいつから世良医師から速水医師に魅かれるようになったのかがよくわからないと述べた記憶がある。また、『ナイチンゲールの孤独』や『ジェネラル・ルージュの凱旋』で速水医師が歌手・水落冴子と旧知の間柄であることが描かれているが、どういった経緯で知り合いになったのかがわからなかった。本日紹介する『ジェネラル・ルージュの伝説』の前半部分は、速水が「ジェネラル・ルージュ」と呼ばれるようになった経緯を詳細に描いた短編小説となっているが、その中で、上記の疑問が解決される仕掛けになっている。いずれも、城東デパート火災事件がきっかけである。

短編はとてもスリリングで食い入る読んだ。独立した小説としては十分楽しめる作品だと思うのだが、なんとなく違和感がある(またか…)。

第1に速水医師の人物像。医師になってからの彼の描き方はかなり独断専行、自信満々のオレ様キャラだが、『ひかりの剣』で描かれた学生時代の速水との比較で、何故1年目の研修医の分際でここまで自信過剰になり得たのかが全くよくわからない。学生時代は授業をサボって剣道に熱中していたが、だからといって剣道で自信満々だったかといえばそうではなく、むしろ不安の裏返しで稽古に一心に取り組んでいたとしか読めない。チームの主将としての責任感から解放されて自分自身のために1人で稽古を重ねた時期に彼は剣士として大きな飛躍を遂げたとはあるが、それでもここまで自己中心的で傲慢不遜なキャラではなかった。それが医局1年目にして自信過剰な外科医となり、かの城東デパート火災事件で自分の能力の限界を知ったとはいえ、その後の速水医師は依然オレ様キャラにしか見えない。一体この自信はどこから来るものなのか。城東デパート火災以前に速水を優秀な外科医に育てたものが何なのか、それは依然としてよくわからない。

第2に、猫田看護師長の人物像。今回の短編の中で最もオイシイ登場人物は猫田看護師長だと思う。彼女もオンとオフが対照的なキャラであるが、他の海堂作品で登場する彼女(『ブラック・ペアン1988』では勘の鋭さは垣間見ることができるが)は、どちらかというと居眠りをしたり仕事を適当にサボったりとオフの方が際立っている。それが今回の猫田看護師長はかなりカッコいい。勘の鋭さを随所に見せつつ、肝心の非常時の機転の速さは速水以上かもしれなかった。傲慢不遜の速水医師を若干でもリーズナブルなキャラに変えたのは、城東デパート火災事件の際の緊急救命対応で猫田の叱咤激励を受けたからだというのが本編で明らかになる。

本書の後半部分は、海堂氏本人が自分の作品一つ一つに解説を付けたり、作品群の中での登場人物の相関図が描かれていたりと、海堂作品を読む際のガイドブックとして非常に重宝な内容となっている。『ナイチンゲールの孤独』と『ジェネラル・ルージュの凱旋』はストーリーが同時進行しているが、元々は1本の長編小説として準備していたものが、出版社側の意向で2本に分けられたというのは興味深いエピソードだった。この手の裏話や人物相関図は、既読作品を読み直してみたり今後発表される新しい作品を読む際にもきっと役に立つだろう。

ところで、今回東京からデリーに戻る帰りの機内、気流の悪いところばかりを飛んでずっと揺られっ放しで珍しく飛行機酔いというのを経験したが、機内放映されていた映画の中に『ジェネラル・ルージュの凱旋』があったので当然最優先で見た。元々本書はこの映画化に合わせたタイアップ本として世に出たもので、映画を見るかこの短編を読むか、どちらが先でも構わないと思うが、僕の場合は映画を先に見たので、小説に登場する速水医師や花房看護師がそれぞれ堺雅人さん、羽田美智子さんに重なり、緊急救命センターの緊急対応時の姿を具体的にイメージしながら読むことができた。

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田口医師を竹内結子さんが演じていたり、あの白鳥を阿部寛さんが演じていたりするのは正直違和感がかなりあったし、かつ竹内さん演じる田口医師はものすごく存在感が薄くてあまりキャラとして生きていないと思ったが、何を差し置いても堺雅人さんの力演は見るに値する。学生剣士だったという過去の経緯を捨てればまさにピッタリのキャストだと思った。城東デパート火災の際の速水医師の対応については、映画の方は途中撤退を余儀なくされて本人には敗北感・挫折感だけが残ったような描き方で、そこは小説と少し違うと思ったが、逆にコンビナート爆発事故の際の緊急救命対応は、感動して涙が出てきてしまった。

最後に東城大学病院を去る速水医師と同じく病院を辞した花房師長が病院駐車場で交わす短い会話のシーンは、小説を再現しているようで美しいエンディングだったと思う。
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