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患者取り違え事故が防げない理由 [時事]

<患者取り違え>08年は報告27件…防止ルール風化か
6月24日19時53分配信 毎日新聞

 大学病院などでの患者の取り違え事故の報告が08年27件に上り、04年10月に報告制度ができてから最も多かったことが、財団法人・日本医療機能評価機構の分析で分かった。患者取り違えは執刀医らが業務上過失傷害罪に問われた99年の横浜市立大病院事件を機に、医療機関で防止のためのルール作りが進んだが、同機構は「ルールが風化している恐れがある」として注意を呼びかけている。
 大学病院や国立病院から機構に寄せられた患者取り違え関連の事故は▽04年10-12月が0件▽05年が10件▽06年が20件▽07年が21件▽08年が27件▽09年1-3月が7件--の計85件。06年10月以降の59件を分析したところ最も多いのは薬剤のミスの26件で輸血と検査が各10件、手術での取り違えも3件あった。
 「患者に名乗ってもらう」「リストバンドを見る」といった各病院が定めたルールを怠ったケースが目立つ。患者名は確認したものの、その後に別の患者に行う処置をしてしまうミスが多かった。処置台などの整理の不徹底が、取り違えを引き起こす要因になることも分かった。【清水健二】
今日のヤフーのニュースで以上のような記事が出ていた。丁度、帚木蓬生著『風花病棟』を読んでその原因を暗に指摘している箇所があったのを思い出したので、以下に引用して紹介したい。収録短編「百日紅」で書かれている一節である。ある老医師がある大学の臨床講義に呼ばれて特別講義を行なったシーンで、老医師は講義に参加している主人公の研修医の担当患者であるS夫人に聴診器を当て、素手で打診を行い、その上で所見を述べるのだが、それが主人公の研修医が1ヶ月近くかけて得た検査データと寸分違っていなかったというものだ。
 老医師は素手で患者から所見を得られる最後の世代に属すると言っていい。それ以後の世代の意思は聴診器さえ捨ててしまい、手で患者の素肌に触れることさえなくなってしまった。私でさえ、聴診器を首にかけなくなって15年以上になるし、腕にマンシェットを巻く血圧計の正式な操作すら忘れてしまっている。
 外科の手術でも、以前は新入りの手術助手に「術野から眼をそらすな」と厳しく注意していた。臓器の位置、血管や神経の走行の具合、出血の部位など、一瞬でも術野から眼をそらすと、どこがどうなっているのか見失う。ところが今では、「術野を見るな。モニターを見ろ」と叱りつけるのだ。手術助手たちは、患者の傍には控えているが、視線は下ではなく、脇に据えつけられたモニターに向かうことになる。患者を取り違えて健常な臓器を摘出してしまう事故が頻発するのには理由があるのだ。
 2年前に私のいる病院でも<ダ・ヴィンチ>という手術ロボットが導入された。主として腹部の手術に使われているが、術者は患者から2、3メートル離れた場所に坐り、ゲームセンターのマシーンのような代物の中に頭を突っ込んで操作をする。患者の横にはべる手術助手たちも、見つめるのはモニターの画面で、ひとりロボットのアームだけが、腹部を覆う透明シートの下で動いている。(p.81)
日本の臨床医育成制度が不十分で臨床医がなかなか経験を積めないという指摘をされている現役の医師もいらっしゃるようであるが、ここでの問題は、患者取り違え事故というのは、患部を見て患者を見ていない医療行為が行なわれる方向に技術が発展してきてしまった今の医療のあり方そのものにあるのではないかと思わずにはおれない。

行き着くところは結局、「もっと患者を見守ろう」ということに尽きるような気がする。
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