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『地域医療を守れ』 [読書日記]

地域医療を守れ―「わかしおネットワーク」からの提案

地域医療を守れ―「わかしおネットワーク」からの提案

  • 作者: 平井 愛山・秋山美紀
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2008/01
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
地域から医者が消え、次々に閉鎖される病院、広がる行き場のない患者たちの不安…いま地域医療が崩壊している。医療過疎地域にある東金病院の院長平井愛山は、病院や病状という「点」ではなく、地域全体や患者を「面」として捉え、地域住民・NPOとともに「医師を地域が育てる仕組み」を作り上げた。危機に瀕した地域医療の再生案を提唱する。

ここ半年ほど、日本の医療崩壊について描かれている本を何冊も読んできたが、問題構造の分析はだいたいわかったので、最近の読書対象の選定基準は問題点の指摘ではなく問題解決のために行なわれている取組みについて紹介されているものを読もうとしてきた。だからといってもいちいち購入しているわけにもいかないので、一時帰国中は、図書館のようなところで実際に手に取って読む本を選ぶということをしてきた。(一時帰国終了まで残り1週間を切り、かなり焦っている。)

こうして借りても外れる時は外れるし、これだったらお金払っても買いたいと思う本もある。本書の場合は後者。1冊2200円もするが、決して浪費したとは思わせないほど中身が濃い。しかも引用している情報の原典に当たれるよう情報源を詳らかにしており、レファレンス・ブックとしてかなり役に立つと思う。

「わかしお」というくらいだから、本書の舞台は千葉県立東金病院を中心とする山武地方の地域医療である。このブログは別に「わかしおネットワーク」の宣伝をやるわけではないので簡単に紹介するが、本書のポイントは「自分たちの地域の医療は地域自らが守り育てていくもの」(p.2)というのに尽きる。「地域医療をつくるプレーヤーは、医療者だけではない。住民も行政も皆一人ひとりが大切なプレイヤーだ。自らの問題として現実を受け止め、知恵を絞り、自らは何ができるのかを考える。地域が自前で解決していく力を育てる必要がある。」(同上)

確かに、医療崩壊の直接の引き金は2004年に始まった臨床研修制度に伴い行なわれた大学医局による医師の引き上げであることは多くの識者が指摘している。しかし、この制度を元に戻したら全てが元通りになるというわけではないということが本書からわかる。本書は、この制度を与件として地域で何をすべきかを述べている。

先ず地域における医師の確保について―――。
 これから医師を確保するためには、研修先として充実したプログラムや指導体制をどう整備できるか、また、その地域が若い医師を温かく迎えてくれるような環境にあるかどうかが問われるだろう。地域病院自身の取組みとして求められるのは、これまでの大学病院に依存した勤務医確保策から脱却することである。これからは「病院で」、「地域で」医師を育てる時代になったことを自覚し、臨床研修病院として教育機能を充実させることが、地域中核病院として生き残る必須要件だ。(p.45)

次に地域社会の意識変革の必要性について―――。
 医療に理解のない行政の首長や議会が、医師の心を踏みにじる発言をしたり、一部の住民があたかもコンビニのような感覚で夜間救急を利用する。さらにマスコミを含む世間は医療の不確実性を理解せず、他の工業製品市場と同じような感覚で医療サービスを捉えて、要求をする。医師・患者関係が崩壊し、支えあいのコミュニティが崩壊する。そんな地域からは医師は去っていく。
 地域医療とは地域づくりそのものである。地域の一員を成すメンバーは、あるべき医療の姿、あるべき地域の姿を描き、力を合わせて地域医療の再生に取り組まねばならない。特に住民とその代表である議会は、医師の置かれている状況を理解し、いたわる気持ちを持って、これ以上の崩壊を防がなくてはならない。(pp.55-56)

こうした考え方をベースに、地域中核病院は、自分の利益だけではなく、地域全体の医療の底上げに真剣に取り組む必要があると本書は訴える。特に病院勤務医が不足し医療過疎が深刻な地域では、これまでの病院勤務医と診療所医の役割分担を見直し、域内の保健師や訪問看護、薬局などあらゆる医療資源を有効に機能させる必要がある。地域全体を「面」として捉える発想の転換である。それを、地域の診療所医や薬剤師も交えた勉強会、ITを用いた医療機関・保険調剤薬局・保健所・訪問看護ステーション等の間での連携等を通じて知識の共有と人的ネットワーク構築を通じて進めていこうというのが「わかしおネットワーク」である。

但し、医療従事者が相互のネットワークを構築するだけではない。ここまでの記述からわかるように、医療サービスのユーザーである住民側にも意識変革が期待されるが、この地域にとって大きかったのは、NPO法人「地域医療を育てる会」が地域住民に山武地域の医療の現状や国の医療政策の方向性を伝えて関心を持ってもらう活動を推進していることだろう。
 たとえば、住民が、病院と診療所の機能の違いを理解し、地域連携の仕組みを知ることで、風邪のような軽症で病院に行くことはなくなる。勤務医の過酷な労働状態を知れば、夜間に救急車を呼ぶ回数も少なくなるかもしれない。住民が正しい情報を得て、状況を理解し、それによって行動を変えることが、地域医療の崩壊を食い止めることにつながるのではないかと考えている。なにより、住民が健康に留意して医者にかからないようにすることが一番良い。(p.135)

山武地方に限らず、他地域の事例についても度々引用されている。各地域でのグッドプラクティスの中から共通して言えることが本書では簡潔に示されているので、そこからの引用でこの記事を締め括ってみたい。
 医師不足への即効薬はないものの、地域医療を立て直すための知恵はその地域に、その現場にある。地域の当事者こそが、直面する問題を自分のこととして受け止めて、知恵を絞って解決する力を持っている。(p.197)

◆NPO法人 地域医療を育てる会
http://iryou-sodateru.com/

◆藤本晴枝ブログ「Web CLOVER」
http://hello.ap.teacup.com/sodateru/

◆伊関友伸のブログ
http://iseki77.blog65.fc2.com/
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コメント 1

降龍十八掌

医療の問題は、医師不足、看護婦不足、医療費の高騰、とあると思います。
医療費、とくに保険料財政の圧迫が問題ですね。医療技術の進化とともに、医療費ま増える一方。保険で補填されるものをもっと縮小するべきだ思います。
by 降龍十八掌 (2009-07-03 11:33) 

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