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『21世紀 仏教への旅 インド編』(上・下) [読書日記]

21世紀 仏教への旅 インド編・上

21世紀 仏教への旅 インド編・上

  • 作者: 五木 寛之
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2006/11/28
  • メディア: 単行本

21世紀 仏教への旅 インド編・下

21世紀 仏教への旅 インド編・下

  • 作者: 五木 寛之
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2006/11/28
  • メディア: 単行本
出版社 / 著者からの内容紹介
五木寛之がインドを旅し、人間ブッダに迫る
ブッダが涅槃に至るまでの最後の旅の足跡を辿り、思いを綴るエッセイ。NHKが放映するシリーズに連動する企画。ブッダは自らの死に何を思い、何を伝えたのか?

上下巻合わせると3400円もするが、五木寛之さんの記述のダブりも目立つので、2冊合わせて2000円ぐらいの内容じゃないかと思う。勿論買ってません。近所のコミセン図書室で借りた。本当は先週末の活動報告会の前に読み終わっていたかったが、間に合わなかった。

読もうと思った理由は、故郷で行なった報告会に向けて、確実に出てくるであろう質問にある程度の答えを準備しておきたかったから。その質問とは、「インドの仏教はどうなっているのか」というものである。もっと具体的に想定された質問は、「ヒンドゥー教と仏教はどのように違うのか、そしてどのように同居しているのか」というものだ。

幸い、講演会は時間切れでそのような質問はなかったのだが、さすがは未だ住民同士が繋がっているまち、その晩、出席者の1人から僕は実家に電話をもらった。そして案の定その質問を受けた。「ヒンドゥー教は日本で言えば神道みたいなもんですから…」と言ってその場はしのいだがもしそこで次の更問いが来たらアウトだっただろう。「ヒンドゥー教のカースト肯定と仏教の平等主義は違うじゃないですか?」

遅かれ早かれこの類の質問はこれからも受けるだろうと思う。そうした時の備えとして仏教について予備知識を持っておきたいと考えた。僕はブッダ入滅の地クシナガルは訪れたことがある。ではブッダはどこからどこへ行く途中でクシナガルに立ち寄ったのか。そこまでどのような経路を辿ってきたのか、そこに至るまでの間、同行した弟子のアーナンダとはどのような会話があったのか、そんな疑問が湧いた。

それらに対する答えは本書には載っていたと思う。実際のところ、ラージギルを出てからクシナガルに至るまでのブッダとアーナンダの足取りは追えないところもあったようであるが、80歳のブッダが体調を崩すきっかけとなったのは、パーヴァーという村で鍛冶工のチュンダが提供した食事の供養で食事に含まれていたキノコに当たったからだというのは初めて知った。但し、毒殺とかそういうのではない。ブッダ自身が死期を悟っていたので、ブッダ一行に振る舞われたキノコ料理について、「あなたの用意してくれたきのこ料理は私にください。修行僧たちには他の食べものをあげて下さい」と言ったらしい。

著者は、このラージギルからクシナガルに至るブッダ一行の即席を追いつつ、この死に至る旅とインドにおける仏教を考えた。追体験をすることで感じたことが綴られている。あまり面白くなかったけど。

下巻第4部として、インドにおける仏教と仏教徒の今後について述べられているが、これには正直かなりの抵抗があった。

第1に、現代の仏教への改宗運動のきっかけとなったのがB.R.アンベードカル博士だという件。著者は彼を新仏教運動のリーダーだとし、不可触民出身でカースト制の差別のない現行インド憲法の起草者として高く評価している。その後半の部分はその通りだと思うが、彼がどうしてもなくならない差別に失望して仏教に改宗したのは1956年に逝去するわずか2ヶ月前に過ぎない。新仏教運動のリーダーとまで言い切るのなら、彼はもっと早い時期に仏教徒への改宗を済ませていた筈であり、本当にそうなのかというのは僕は疑問だ。

第2に、そのアンベードカル博士との対比で、カースト制を是認したマハトマ・ガンジーを著者は批判している。そういう論者が他にもいらっしゃるようであるが、ガンジーはカーストを是認したのではなく、急には変えられないと考えた、即ち急進的改革派と漸進的かつ現実的改革派のスタンスの違いだとしか僕には思えない。

第3に、このアンベードカル博士の遺志を継いでインド新仏教徒の信望を一身に集める日本人として、佐々井秀嶺師が紹介されている。インドに渡られて既に40年以上が経過するこの方がタイ経由でインドに入られたのは1967年のことで、それ以降一度も日本には帰られずずっと仏教に帰依されている立派な方である。現在のインドにおける仏教界の最高指導者の1人らしい。それはその通りなのだろうと思うが、ここまでヒンドゥー教との対比で対立的な仏教の描き方がいいのだろうかという疑問はかなり残った。インド人の仏教最高指導者の方はその辺をどうご覧になられているのだろうかと考えてしまった。

最後に、その新仏教運動であるが、以下の記述については当たらずも遠からじどいう気はする。但し、五木氏が自分で調べた記述というより、又聞きに基づく情報が結構含まれているようなので、100%これを信じることは難しい。アンベードカル博士はマハラシュトラ州出身、佐々井師も活動拠点はマハラシュトラ州のようだが、以前仕事でマハラシュトラ州プネに行った際、自分自身も含め家族全員が仏教徒だというタクシーの運転手に出会ったことがある。以下の引用にある1億人もいるのかどうかは別にして、便宜上ヒンドゥー教徒と偽っている仏教徒は結構いるかもしれない。
  一般にはインドの仏教とは人口の1%未満にすぎず、現在11億人の人口に対して数百万人程度とされている。けれども、山際素男氏の著書には、現在のインドには仏教徒が推定で1億人は存在する、という記述があった。
 「山際先生の書かれていることが正しいのです」と佐々井師も肯定する。
  インドでは人口調査が10年に1度だけ行われているそうで、宗教別人口の数字も公表されている。だか、その統計の取り方には問題があり、正確とはいえないという。
  佐々井師自身、すでに80万人ほどのヒンドゥー教徒を仏教徒に改宗させている。最下層の人々の多くが、心中では仏教に帰依しているらしい。
  だが、彼らは現実に今日食べる米がない、という悲惨な生活をしている。政府は、ヒンドゥー教徒に対してはさまざまな補助金をだすものの、仏教徒にはださないのだそうだ。それは仏教徒を殖やしたくないからだ、と佐々井師は怒りをかくさない。(pp.177-178)


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コメント 2

toshi

大変興味のある内容です。
キノコ料理説と肉料理説があるようですね。
by toshi (2009-06-21 11:12) 

ま。

これを呼んでから聖おにいさんを読むと、またぐっと面白みが増すかもしれませんね。
by ま。 (2009-06-26 21:37) 

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