インド将来人口推計1991-2101 [インド]
日本に帰ってきてからこのところ紹介している本はことごとく軟派系なので、読者の方の中には、インドのことも忘れて何を遊びほうけていることかと苦笑されている方もいらっしゃるだろう。でもご心配なく。デリーでダウンロードした論文を何編か持ち帰っており、少しずつ読み進めているところでもある。
"Long-Term Population Projections for Major States,
1991-2101"
Economic and Political Weekly, November 8, 2003, pp.4763-4775
2003年に発表された論文で、それ以降に発表されたインドの将来人口推計に関する文献では比較的よく引用されている。その第1の特徴は、将来人口推計のタイムスパンを110年も取っていることだ。国家間比較でよく用いられる国連人口統計は最大2055年までを推計し、通常のインドの文献ではせいぜい2020年から2025年の間をターゲットに定めている。インド政府もこのあたりまでだろう。それを2101年まで捉えるのは興味はあるが、多分2050年まですら生きられない僕にはちょっと空しさもある。
もう1つの特徴は、この超長期の将来人口推計を、主要16州について州別で見ていることだ。以前「2つのインド」というシリーズで何度か言及したが、北インドのウッタルプラデシュ州やビハール州は2025年頃であっても合計特殊出生率(TFR)が人口置換水準にまで到達せず、人口増加率は依然高水準だと言われている。ではこれらの州がいつ頃人口置換水準までTFRを引き下げられるのか、本稿にはそのヒントが含まれている。
さて、以下はその論文の中から幾つか気になった記述だ。
1)インドのTFRは現在人口置換水準(2.1)を大きく上回っており、今後50~60年間は人口増加が続くと見られる。
2)調査対象とした16州は人口転換のプロセスの中で異なるステージにある。長期的な人口増加要因をブレークダウンして州別比較を行なうことで、各州毎の適切な政策選択の必要性を強調できる。
3)ケララ州やタミルナドゥ州では、2051年までに高齢者従属人口指数は年少従属人口指数の2倍の水準に達する。これらの州では、人口高齢化に伴う保健、経済、社会的ニーズに対する取組みを今から始めることが必要である。
4)アンドラプラデシュ、カルナタカ、マハラシュトラ、グジャラート、パンジャブ、ヒマーチャルプラデシュ、西ベンガルの各州では、2071年までに人口自然増加率が0.1%程度にまで低下する。北インドのビハール、ウッタルプラデシュ、ラジャスタン、マディアプラデシュ、ハリヤナ、それにアッサム、オリッサの各州では、人口転換を終えるのに他地域よりも10年から15年余計に時間を要する。逆に、ケララやタミルナドゥでは、今後30~40年に間に人口の自然増加率がマイナスに転じる。
5)こうした将来人口推計値を見ていくと、中央と州との間で保健・家族福祉の拡充に向けた資金の配分方法に構造的な変化が求められる。即ち、中央政府は家族福祉を保健同様に州が取り組むべき課題として位置付ける必要がある。家族計画サービスへのアクセス改善は北インドや北東州での女性が望まない妊娠出産(unwanted fertility)を削減する最も有効な手段である。これらの州では、家族計画方法も含めたいかなる種類のヘルスケアへのアクセス、逆に言えばそれらを最も必要とする人々へのアウトリーチが極めて限定されている。保健サービスと家族計画サービスについて、前者は州の課題として扱われるが、後者は国の課題として位置付けられている。こうした二分法(dichotomy)は効果的な政策実施の妨げとなっている。
6)幼児死亡率が高い州では、子供と母親の健康と栄養摂取状況を改善することが依然最優先課題である。北インドの主要州では、遠隔地に住む住民や、低開発で貧しい家族、読み書きができない住民は最低限の基礎的サービスへもアクセスできていないのが現状であり、こうしたアクセス改善によってヘルスケアのサービス提供者と政府への信頼性を高めることが必要である。
7)このように、人口増加率の州間での相違やそれに伴う年少従属人口、高齢従属人口の構成変化は、就学適齢期児童の教育や年少者のヘルスケア、妊産婦ケアサービスの提供のために必要な公的支出、公的投資のあり方に州間で異なった含意をもたらす。例えばケララの場合、州営の初等教育施設の数が徐々に減り始めている。これは初等教育適齢期の児童数が減ったことに伴うものである。同じような状況は10年以内にタミルナドゥでも発生する。また、幾つかの州では高齢者人口の増加を受けて彼らの福祉を守る効果的手段の実施が求められている。
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Leela Visaria and Pravin Visaria"Long-Term Population Projections for Major States,
1991-2101"
Economic and Political Weekly, November 8, 2003, pp.4763-4775
2003年に発表された論文で、それ以降に発表されたインドの将来人口推計に関する文献では比較的よく引用されている。その第1の特徴は、将来人口推計のタイムスパンを110年も取っていることだ。国家間比較でよく用いられる国連人口統計は最大2055年までを推計し、通常のインドの文献ではせいぜい2020年から2025年の間をターゲットに定めている。インド政府もこのあたりまでだろう。それを2101年まで捉えるのは興味はあるが、多分2050年まですら生きられない僕にはちょっと空しさもある。
もう1つの特徴は、この超長期の将来人口推計を、主要16州について州別で見ていることだ。以前「2つのインド」というシリーズで何度か言及したが、北インドのウッタルプラデシュ州やビハール州は2025年頃であっても合計特殊出生率(TFR)が人口置換水準にまで到達せず、人口増加率は依然高水準だと言われている。ではこれらの州がいつ頃人口置換水準までTFRを引き下げられるのか、本稿にはそのヒントが含まれている。
さて、以下はその論文の中から幾つか気になった記述だ。
1)インドのTFRは現在人口置換水準(2.1)を大きく上回っており、今後50~60年間は人口増加が続くと見られる。
2)調査対象とした16州は人口転換のプロセスの中で異なるステージにある。長期的な人口増加要因をブレークダウンして州別比較を行なうことで、各州毎の適切な政策選択の必要性を強調できる。
3)ケララ州やタミルナドゥ州では、2051年までに高齢者従属人口指数は年少従属人口指数の2倍の水準に達する。これらの州では、人口高齢化に伴う保健、経済、社会的ニーズに対する取組みを今から始めることが必要である。
4)アンドラプラデシュ、カルナタカ、マハラシュトラ、グジャラート、パンジャブ、ヒマーチャルプラデシュ、西ベンガルの各州では、2071年までに人口自然増加率が0.1%程度にまで低下する。北インドのビハール、ウッタルプラデシュ、ラジャスタン、マディアプラデシュ、ハリヤナ、それにアッサム、オリッサの各州では、人口転換を終えるのに他地域よりも10年から15年余計に時間を要する。逆に、ケララやタミルナドゥでは、今後30~40年に間に人口の自然増加率がマイナスに転じる。
5)こうした将来人口推計値を見ていくと、中央と州との間で保健・家族福祉の拡充に向けた資金の配分方法に構造的な変化が求められる。即ち、中央政府は家族福祉を保健同様に州が取り組むべき課題として位置付ける必要がある。家族計画サービスへのアクセス改善は北インドや北東州での女性が望まない妊娠出産(unwanted fertility)を削減する最も有効な手段である。これらの州では、家族計画方法も含めたいかなる種類のヘルスケアへのアクセス、逆に言えばそれらを最も必要とする人々へのアウトリーチが極めて限定されている。保健サービスと家族計画サービスについて、前者は州の課題として扱われるが、後者は国の課題として位置付けられている。こうした二分法(dichotomy)は効果的な政策実施の妨げとなっている。
6)幼児死亡率が高い州では、子供と母親の健康と栄養摂取状況を改善することが依然最優先課題である。北インドの主要州では、遠隔地に住む住民や、低開発で貧しい家族、読み書きができない住民は最低限の基礎的サービスへもアクセスできていないのが現状であり、こうしたアクセス改善によってヘルスケアのサービス提供者と政府への信頼性を高めることが必要である。
7)このように、人口増加率の州間での相違やそれに伴う年少従属人口、高齢従属人口の構成変化は、就学適齢期児童の教育や年少者のヘルスケア、妊産婦ケアサービスの提供のために必要な公的支出、公的投資のあり方に州間で異なった含意をもたらす。例えばケララの場合、州営の初等教育施設の数が徐々に減り始めている。これは初等教育適齢期の児童数が減ったことに伴うものである。同じような状況は10年以内にタミルナドゥでも発生する。また、幾つかの州では高齢者人口の増加を受けて彼らの福祉を守る効果的手段の実施が求められている。
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あまり詳述するとネタばらしになるので、本稿の本当の付加価値ともいえる図表類についての言及は端折らせていただきました。ご容赦下さい。
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