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川上の議論に加われなくて効果的な援助ができるか! [仕事は嫌い]

先週から書こうかどうしようか躊躇していたことがあるが、今日は敢えて書きたいと思う。

ブログでは関係ないことばかりを書いているが、僕は開発途上国向け援助の仕事に関わっている。グレンイーグルズサミットで小泉首相がアフリカ向け援助の倍増をぶち上げたことにより、援助の仕事は増えそうな状況だ。

それはそれで結構なことなのだが、今ひとつ気になっていることがある。それは、周りの関係者が個別のプロジェクト単位での事業の実施にばかり目を向け、事業の実施を可能とする政策・制度環境の整備のような部分の議論にあまり注意を払っていないことだ。

例えば通信セクターを考えてみよう。以前にも書いたことがあるが、通信セクターでは携帯電話の普及とともにこれまでの固定電話中心だった援助のパラダイムに変革が迫られている。民間の通信事業者は、採算が取れれば新たなエリアでの事業に参入してくる。最初から民活が前提の開発プロセスを考えなければいけない。

その時に考えなければいけないことは何か。どのように投資環境を整えれば民間事業者は参入してくるのか。法整備なのか、金融市場整備なのか、はたまた人材育成なのか。さらに、民間事業者がリスクを取って参入する、或いは民間投資家がリスクを取ってある事業者に投資するといった決定を行なうためには、民間事業者間の競争が、適正なルールに基づいて行なわれることが必要だ。国営企業が民営化されて設立された巨大通信会社と中小の事業者が相互接続を行なうには、中小事業者が不利にならないようなルールを確立し、かつ運用も適切に行なわれなければならない。

このように、民間主導でセクターの開発を進めるのであれば、民間事業者に不利にならない政策制度の枠組みを作ることも考えておかねばならない。適度に競争が行なわれて、いかに民間企業だから適正な水準の収益確保は必要であるとしても、ユーザーにとって不利益を蒙るような料金設定は回避させなければならない。それを可能にするのは、競争導入と規制の枠組みである。

採算性の低いエリアでの通信網整備については、そもそも公的資金を用いて実施するのか、或いは民間事業者に補助金をつけて、貧困層の受益者の公共サービスへのアクセス改善を図るのか、大きく分けると選択肢が2つあると思う。途上国の自立発展を考えた場合、できることならば補助の財源を国内で調達して再配分できる制度があるのが望ましい。高所得の受益者が密集していて採算性が高い地域の事業者の売上げから3%程度を基金に積み立てて不採算地域の事業者への補助財源に充てるような仕組みだ(ユニバーサルアクセス基金)。

このような制度を作っていくような議論は、元々援助資金が潤沢にないとできないような話ではない。事業の話ではなく政策・制度の話、言い換えれば、援助資金を入れて専門家が技術指導をやって事業の生産性を高めていくようなレベルではなく、他の援助国・機関とともに相手の途上国政府と政策対話を行なうレベルの話なのである。勿論、そこから派生して川下において何らかの事業に援助資金を投入していく案件は出てくるかもしれないが。

今の日本の援助業界では、川上で政策や制度を形成していく部分での理論武装はあまりされず、専ら川下での事業実施の話ばかりが注目されている。これで本当にいいのだろうか。川上で話し合われているようなことは与件として扱って、川下において良い援助はできるのだろうか。

例えばこういうことだ。遠隔地における農業プロジェクトで、固定電話も設置がされていないような場所で、消費地の市況情報を入手することも含めて通信手段を確保するために、ワイヤレス無線機を設置したとする。周波数帯の使用許可を取得したり、機材を調達して設置したり、いろいろと初期費用がかかったとする。無停電電源装置や電圧安定器も必要かもしれない。ところが、1年もしないうちに、その地域に携帯電話の通信事業者が参入してカバーしてしまったとする。最初からその地域が携帯電話でカバーされる可能性が高いとわかっていたら、ワイヤレス無線機のような技術選択は行なわれないであろう。
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