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『冬の喝采』 [黒木亮]

祝・東洋大学総合優勝!
祝・早稲田大学総合第2位!
(あ、私、早稲田OBじゃありませんけど…。こう書いた理由は以下の本の紹介をご覧下さい。)

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冬の喝采

冬の喝采

  • 作者: 黒木 亮
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/10/21
  • メディア: 単行本
内容紹介
「天才は有限、努力は無限」北海道の大地を一人で走り始めた著者が、怪我によるブランクを乗り越え、準部員として入った競走部には、世界的ランナー・瀬古利彦がいた。入部後も続く怪我との戦い、老監督との葛藤など、1年8ヶ月の下積み生活に耐えて掴んだ箱根駅伝の桧舞台で、タスキを渡してくれたのは 瀬古だった。それから9年後、30歳になって自分を箱根路に導いた運命の正体を知る。感動の自伝的長編小説!
この記事掲載日付は1月4日だが、実際の原稿は元日の朝に書いている。

場所はオリッサ州ブバネシュワル。大晦日の昼間に到着し、新年をここで迎えた。「山こもり」第二弾はオリッサ州ブバネシュワルとプリーで過ごす計画でここに来たが、第一弾のボパール滞在中に少し体調をおかしくし、デリーに一時的に戻った際にくしゃみ・鼻水が止まらなくなった。前回のブックレポートをデリー滞在中に何とか仕上げ、家の中の用事をいろいろ済ませて大晦日の早朝空港に向かったため、前夜の睡眠時間がわずか3時間程度。機内で少しでも寝ようと思ったが、鼻水は止まらないし左耳の気圧調節がうまくいかないしで、ブバネシュワルに着いた時には頭痛と吐き気までもよおしてきた。

大晦日は少しぐらいブバネシュワル市内を歩こうかと思ったが、ホテルに入ったらもうそんな気力もない状態で、とにかく寝た。正午ぐらいから夜21時頃まで、断続的に睡眠を取った。それでも頭痛と吐き気はあまり引いた様子はない。吐き気があるので食欲はないし、かといって何も食べないで鎮痛剤も飲めない。そんなつらい大晦日だった。

さすがに9時間も寝ると、その後少しぐらいは起きていようかと考えて持って来た本を1冊読み始めた。黒木亮さんの『冬の喝采』である。黒木亮といえば、これまで『アジアの隼』を手始めに、『トップレフト』『シルクロードの滑走路』を読んでブログで紹介してきた。これまでの作品はいずれも彼の元々のバックグランドである国際金融分野での経験を生かしたとてもスリリングな作品だったが、こうして名がある程度売れてくると、全くジャンルの違う作品を書こうという気が起きても不思議ではない。彼が関西系の某都市銀行からロンドンに拠点を移して実際に国際金融の世界で切った張ったをやってきたことはこれまでの作品から十分に伺えるが、『冬の喝采』はその金融マンになるに至るまでの彼の自叙伝的な作品である。主な登場人物は、早稲田大学競走部の中村清監督と瀬古俊彦選手、そしてよく名前が出てくる人物として、元順天堂大学陸上部の沢木啓祐監督、現山梨学院大学陸上部の上田誠仁監督、当時の現役選手としては、日体大からエスビー食品に進んで瀬古のチームメイトとなった中村孝生、新宅雅也、箱根駅伝「花の2区」で長く区間記録として名を刻んだ大塚正美などが登場する。

そう、これは箱根駅伝の話である。いや、厳密には北海道深川出身の陸上選手だった著者が、中学、高校、大学時代を通じて歩んできた陸上競技選手としての足跡が語られている作品である。著者は中学から高校1年にかけて道内でもかなり名の知れた中長距離の選手だったが、その後故障して約3年間競技生活から遠ざかっている。高校時代は復活の日を夢見ながら陸上部で裏方の仕事をこなしながら過ごし、早稲田入学後も即競走部入部というわけにはいかなかったにせよ、東京でのスポーツ専門医による治療、陸上同好会を経て2年生から競走部に入部する。瀬古とは競走部同期生で、3年の箱根では瀬古からトップのタスキを受けて3区を走り、4年の箱根は8区で早稲田の総合3位入賞に貢献した主力選手の1人となった。身近で中村監督の指導を受け、瀬古と一緒に走ってきた人だけに、瀬古の凄さがよく描かれているし、当時の僕達にはわからなかった中村・瀬古の師弟関係の虚像と実像というのがとてもよくわかった。中村監督ってこんな感じの人だったんだというのは驚きでもあった。

著者の凄いところはその記録(作家としてこれだけの実績を挙げた人が瀬古と一緒に走っていたり北海道時代はかなり有名なランナーだったというのは意外だった)だけではなく、競技生活への復帰に向けたその執念である。よくこれだけ詳細な記憶をしていられるなと思ったが、なんと中学時代から大学卒業まで陸上の練習日誌を付けていたという。たとえ、故障で競技から遠ざかっていたとしてもである。その間もコツコツと日誌を付けていたところから自叙伝を起こしている。また、特に国際金融分野での就職を具体的に考えていたわけでもないのに、彼がリンガフォンの米語初級・中級コースを大学4年間欠かさず1日30分聴いて英語の勉強をしていたというその継続性も凄いと思った。陸上とは違うところで感心していてはいけないが、「継続は力なり」「信じれば道は開ける」というのを本書を読んでいて強く感じた。

陸上競技もギリギリのところまで体を鍛えて戦うのは常に故障や怪我と隣り合わせである。自己記録を以て僕達観客はついつい大会でのベストパフォーマンスを期待してしまうが、トップ選手であってもギリギリの調整や怪我との戦いを強いられており、大会にベストコンディションで臨めるかどうかの保証はないということを僕達は常に考えておく必要があると思う。今年の箱根駅伝、早稲田の竹沢は何区を走るのか、東海大の佐藤は何区を走るのか、東洋大のスーパールーキー柏原は5区で「山の神」今井の記録を超えられるか、どこが優勝争いに絡むのか、いろいろと予想がされているが、好走した選手もできなかった選手も、また調整が間に合わず補欠に回った選手も、記録が伴わずに裏方に回った選手も、皆が大会に向けてどのように過ごしてきたのか、それらに思いをはせながら観戦したいものである。
(あ、インドにいるから結果しかわからないんですが…)

622頁の大作、年越しで読み切った2009年最初の1冊として紹介した。こういう自叙伝を読むと、病床で読んでいる自分が悲しくもなった。

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というわけで、この本を読んでたら奇しくも早稲田が久しぶりに上位入賞したというので、なんだかすごくタイミングの良い読書だった。そもそもこの本自体が昨年10月発刊なので、早稲田躍進で本の売れ行きにも追い風が吹くかなともふと思った。
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コメント 2

降龍十八掌

今年はあまり興味の無い駅伝をほとんど全部観戦しました。
予想に反して、今年は歴史的な名勝負が繰り広げられました。こんなレースは史上、もう二度とないでしょう。Sanchaiさんは、結果しか見られないとのことで残念ですね。

私は早稲田が嫌いなので(別に受験で落とされたからではないですよ・・・笑)、東洋大学の優勝が決まるまでハラハラしました。
ただ、週刊誌によると、東洋大学は2年生が痴漢の現行犯で逮捕され、出場が危ぶまれたそうです。なんか、冤罪・陰謀の臭いがしますけどね・・・
そのせいかどうか、レースでは、なぜか2年生たちががんばりました。
by 降龍十八掌 (2009-01-04 19:36) 

Sanchai

☆降龍十八掌さん☆
Nice&コメントありがとうございました。
私は早稲田に勝たせてあげたかったんです。というか、5区の山登りでレースの趨勢が決まってしまうことが最近多いので、東洋大の1年生が区間新を宣言してそのまま達成してしまったことに、「駅伝ってそんなに簡単なものじゃないんじゃないの」という思いがするのです。順天堂の今井の記録はそんなに簡単に破られていいのかって思っていましたから。

これは事前に区間新狙いなんか宣言せずに1年生らしく謙虚に言ってれば応援もしたくなったんですが。
by Sanchai (2009-01-04 21:33) 

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