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『空中ブランコ』 [奥田英朗]

空中ブランコ

空中ブランコ

  • 作者: 奥田 英朗
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2004/04/24
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
人間不信のサーカス団員、尖端恐怖症のやくざ、ノーコン病のプロ野球選手。困り果てた末に病院を訪ねてみれば…。ここはどこ?なんでこうなるの?怪作『イン・ザ・プール』から二年。トンデモ精神科医・伊良部が再び暴れ出す。
他人様から借りたものはなるべく早く返したい、そんな主義の僕が職場の同僚から「面白いですよ」と本書を薦められ、なんと3週間も借りっ放しにしてしまうという不本意な事態に陥った。一刻も早く返したい、そう思った僕は、実家の両親ご一行がデリー滞在中であるにも関わらず、暇を見ては本書を読み込んだ。土曜も日曜も日中は予定があったが、土曜夜に一気に読み込み、日曜朝の外出前に読了した。

重松清が泣かせる作家だというのなら、奥田英朗も泣かせる作家である。但し、涙の理由は全く違う。本書を読んで涙が出たのは笑いすぎたからだ。小説を読んで笑いすぎて涙が出たのは町田康の『浄土』収録の「ギャオスの話」以来だろう。精神科医・伊良部一郎のハチャメチャ振りが面白くて読みふけってしまった。海堂尊『チーム・バチスタの栄光』に登場する不定愁訴外来・田口公平医師も神経内科医であるが、伊良部医師のハチャメチャ振り、人の話を全く聞かないところ、その言葉遣いはむしろ「ロジカル・モンスター」厚生労働省の白鳥圭輔に近い。但し、白鳥のロジカル振りとは異なり、伊良部は単に恐怖心のかけらもないただの子供と同じ精神構造に見えてしまう。ひょっとしたら計算ずくでそうしているのかもしれないが、少なくとも物語の中ではそれを示唆するシーンはない。ファンになって作品を愛読しようとまでは思わないが、もし自分が図書館に行って、硬派系の書籍だけではなく軟派系の小説でも組み合わせて借りたいと思い立ったら、奥田英朗という作家がいるということは思い出してもいいかなと思う。

平易な表現が使われているし、会話のシーンも実際的で今は精神科でのカウンセリングでもこういうポップなやり取りがなされているというのはある意味驚きでもある。扱っているテーマも、思考の悪循環に陥っている当の外来患者本人だったらともかく、生きるか死ぬかの緊迫したテーマであるわけでもない。気軽に読めるし、むしろこういうちょっとしたきっかけから思考の悪循環に陥るパターンは結構自分達の日常生活の中でも多いような気がする。極めて日常的なテーマを扱っている作家だなと思う。

ただ、これだけ平易で今風の文体で書かれていると、こういう作品でも直木賞は受賞できるのだというのはある意味驚きではあった。
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