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応援したいアーナンダ病院 [インド]

ウッタル・プラデシュ州クシナガルは、釈迦入滅の地として仏教4大聖地の1つと言われている。両親とご近所の友人を含めた総勢4名のお客様が現在インド訪問中であるが、滞在中の目玉の1つとして僕も引率に加わったのがこのクシナガルとバラナシ訪問である。

クシナガルの観光スポットは釈迦が最後の説法を行なったマータ・クンアル祠(Matha Kuar Shrine)と、涅槃に入られた地に建造された涅槃堂(Nirvana Temple)、釈迦の遺骨が埋められているというラマバール仏塔(Ramabhar Stupa)であるが、これらはクシナガルのバザールから約1kmほどの間に位置しているため、意外とあっという間に観光は済んでしまう。デリーから訪れるならゴラクプールまで夜行列車に乗り、そこからバスに乗り換えて55kmの田舎道を1時間半ほどかけて行く必要があるが、観光だけなら1時間少々で終わってしまうだろう。

ただ、クシナガルで頑張っておられる日本の国際協力NGOのことはご存知だろうか。それが、インド福祉村協会(Indian Welfare Village Society, IWVS)である。

クシナガルのバザールからゴラクプール方面に街道筋を3kmほど戻ると、「インド福祉村病院」と日本語で書かれた看板がある。そこから街道を外れて農道を1kmほど入ると、白い建物の病院が目に飛び込んでくる。それが「インド福祉村病院Ananda Hospital」(以下、アーナンダ病院)である。
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アーナンダ病院のグプタ医師(左)

インド福祉村協会のHPによると、アーナンダ病院は同協会の現地医療活動の拠点として1998年に建設されたという。元々は1987年にインドの仏教聖地巡拝の一環として当地を訪れた日本の医師が、医療サービスに恵まれない人々にプライマリーヘルスケアを中心とした地域医療活動と生活改善を通じた公衆衛生活動、不就学児童に対する教育促進のための支援を始めたのがきっかけなのだそうだ。

既にご存知の方も多いと思うが、インドの中でも特にウッタル・プラデシュ州やビハール州は最も貧しい地域である。僕もこれまでインド各地で幾つかの農村を訪ねたことがあるが、クシナガル周辺は最も貧しいと感じた。こういう貧困地域では、先進医療など受けることなど容易にはかなわないが、とはいっても初期治療の充実や公衆衛生の知識の普及によって救える病気も多いと見られている。協会のHPによると、アーナンダ病院では、グプタ医師の下、総勢11人のスタッフと定期的に現地を訪れる日本人医師と多くのボランティアにより病院運営が行なわれている。

僕達一行が訪問した18日には、120人の地域の患者さんが病院を訪れていた。番号札制(token system)を取っているので、割込み不可でその日の来院者数が容易に把握できる。病院でいただいたインド福祉村協会の会報によると、病院操業開始から5年目で年間受診者数が延べ2万人を突破し、以後2万人以上が続いているという。クシナガルには政府系の病院が1件、加えてタイの仏教団体がインドとの合弁で建設したクリニックが1件あるが、受診者が地域の貧困住民で占められているという点でアーナンダ病院のサービスは特徴的である。何しろ、病院の立地からして外国人観光客やバザール近辺に住むような大地主や小金持ちを対象にしているわけではないことは歴然としている。それでも、丁寧な診察が評判を呼び、地元の人々には「Japani Hospital(日本の病院)」とも呼ばれているのだそうだ。

診察時間は朝の8時から14時までだが、1日120人もの患者さんを診察していると時間など足りない。僕達が訪問したのは15時30分を回っていたが、グプタ先生は未だ患者さんを待合室に残しておられ、全ての診察を終えたのは16時30分を回っていた。診察時間を過ぎたらたとえ待っている患者さんがいても診察を打ち切ってしまう病院が多い中で、患者本位の素晴らしい診療をされているように思う。

こうした通院者への診療だけではなく、2007年9月からは国際協力機構(JICA)の支援を受け、研修ホールを建設し、毎週金曜日には地域の母子を集めた基礎保健衛生講習や感染症予防教育が行なわれているそうである。また、日本では広く普及している母子手帳が地域の母親に配布され、妊婦検診や乳幼児の健康管理に役立てられているという。
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JICAの支援で作られた研修ホール

これだけ描くと良いことだらけのように見えるが、この病院には直面している大きな問題がある。第1に、病院開院以来その発展に尽力された看護師長・助産婦のスイティさんが2006年10月に交通事故でお亡くなりになった後、後任の看護士が採用できていないことが挙げられる。地元の新聞などで募集をかけてもなかなか応募がない。地域で教育を受けた優秀な若者は地域に留まらず、デリーのような大都会を目指す。非常に貧しい地域で地元から人材を採用する難しさがそこにある。

第2に、検査技師がやはり政府職員として採用されて空席になっているという。政府職員として採用された際の給料はアーナンダ病院の倍だったそうだ。優れた人材は高い報酬に引っ張られて流失してしまうというNGO活動の人材確保の難しさをここでも感じる。看護士の応募がないのもそこに一因がある。幸い、この検査技師は、毎週土曜日はボランティアとして病院には来てくれているそうだし、後任の技師の確保もできていると思う。

第3に、グプタ先生が1人で診療をされている今の体制もかなり大変だなという印象を受けた。こういう貧困者向け医療を地道に行なっておられるインド人の先生がいらっしゃることには非常に頭が下がる思いがするが、ご結婚をされ、お子様もいらっしゃるとなると、今後の生活設計を考える上では難しいことも多いのではないかと推察される。
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グプタ先生と小さなご長男

インド福祉村協会から派遣されている加藤先生も医療専門員という肩書きで関わっておられる。病院の裏手にゲストハウスがあり、そこで住んでおられるが、たとえ年7ヶ月とはいえ、クシナガルでの生活は大変厳しいものがある。何しろ病院の周囲は田畑で、夜になると周囲は真っ暗である。日本で退職して時間ができたからというのでボランティアとして来られているとはいえ、そうした環境で生活をしていくことは、日本の青年海外協力隊員でもなかなかできることではない。
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加藤先生の情報発信基地

そうそう簡単に訪問できるところではないので、クシナガル観光の一環云々とはとても言えないが、これだけの厳しい生活環境、病院運営環境の中で活動され、日本の名前とともに受け入れられているアーナンダ病院の活動を、できるだけ多くの人に知ってもらいたいと思う。できうれば、インド福祉村協会の会員ないしは寄附という形ででも支援をして下さる方が少しでも増えたらとても嬉しい。(実は同協会の事務局は愛知県豊橋市にあり、会員の中には僕の実家から近い岐阜県大垣市の方もいらっしゃる。だから、先ずは手始めにうちの両親に協会の現地での活動を知ってもらおうと思った。) 
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グプタ先生の説明を聞く両親御一行

追記:アーナンダ病院にはJICAの草の根技術協力事業だけではなく、日本政府の草の根無償資金協力で整備された医療用機材も導入されている。腹部エコー検査装置やレントゲン検査機器等はクシナガルで他に設置されている病院やクリニックはない。 
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ハンディクラフト

ドクターの献身的な福祉村に看護婦さんや治療に携わる人が増えるのを祈っています
by ハンディクラフト (2008-12-02 22:38) 

Give One 田口

こんにちは。はじめまして。
オンライン寄付サイトGive Oneを運営している、パブリックリソースセンターの田口と申します。
今回、「アーナンダ病院」の情報を探していて、貴ブログにたどり着きました。ご訪問の報告が、とても参考になりました。現地でほんとうにとても必要とされている病院なのですね。
Give Oneでもこの団体の活動に共感したので、オンライン寄付の募集の協力をはじめたところです。
私達のブログから貴ブログにリンクをはらせていただきましたが、よろしいでしょうか。
http://gamba-staff.seesaa.net/article/142013479.html

by Give One 田口 (2010-02-26 15:08) 

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